第7話 「それは刹那の」
その一瞬――時間の流れは極端に遅く。衝撃音は宙を掠めて。
「――早く乗れ!!!」
大型の黒いリムジン――二人に迫る影を跳ね飛ばし、タイヤを激しく擦り上げて、ミサが倒れる、その直ぐ真横で急停止した。全開されたドアには深青色の髪をした美少年が手を伸ばしており、夏輝は、倒れているミサに手を貸して、
「ほらミサ、私に掴まって!」
「なっち……」
そして一度、ミサを抱え顔を上げたところ、夏輝は、深青色の髪をした美少年と目が会った。
「夏輝……!」
そして二人は、深青色の髪をした美少年に手を借りてリムジンに乗り込み、そしてその間深青色の髪をした美少年の後ろではずっと、男の色っぽい怒鳴り声が鳴りやまずに。
「いいわ! 出して!」
「大丈夫だね!? シート――」
「――早く!!!」
二人が乗り込んだのを確認すると、リムジンは走りだし、倒れている者をぎこちないハンドリングで避けながら、運転席のモニターからはリムジンを追いかける無数の不気味な影が、そしてそれはゆっくりと小さく、見えなくなっていった。
「怪我はないか!? 噛まれたり――」
「おおっ、そうだ!!! お前等もあいつ等みたいに感染してるんじゃないだろうな!?
くしゃみは!? くしゃみが出たらこいつ等を降ろすぞ!!!」
「――お前ッ!」
ミサに寄り添いながら、夏輝は一度、深赤色の髪をしたダンディーな色男を、睨むわけではないが、そして深青色の髪をした美少年に視線を移し、
「大丈夫。怪我はないよ。くしゃみも……」
深青色の髪をした美少年は声にはださず、前に屈み、息を漏らした。
「今……何が起きてるの?」
「わかんねー……。スマホは繋がらねーし……新島さんも、赤井さんも、みんなゾンビに
なっちまった」
「――テロだよテロ!!! きっと日本だけじゃねぇ……! おしまいだぁ……もうおしま
いなんだ!!!」
そこに居る誰もが、今現在何が起きているのか――そして深赤色の髪をしたダンディーな色男は顔を片手で覆い、頭を前にがっくりと傾け。