第3話 「我慢出来なかったんです」
「なっちー!!!」
ピンク色の髪をした美少女「ミサ」は、大勢の人がなす長い列の間をうまく通り抜け、その勢いのままに、青色の髪をした美少女「夏輝」の懐に飛び込んだ。
ピンク色の髪をした美少女「ミサ」は、夏輝の懐に顔を埋め、「どうなっちゃってるのー!!?」と、泣きつくように、そしてそれは青色の髪をした美少女「夏輝」も同様に、誰かに説明してもらいたいところであり、
そうして夏輝は、辺りを、コンビ二エンスストアの外を確認して、状況把握に努めるのだった。
すると、青色の髪をした美少女「夏輝」のその懐、ピンク色の髪をした美少女「ミサ」が小刻みに揺れはじめ、そして次の瞬間――
「くしゅんっ! …………うえぇぇ~」
ピンク色の髪をした美少女「ミサ」は周囲を不安そうに確認する、青色の髪をした美少女――「夏輝」の、その懐で、控えめではあったものの、しかしこれほど嫌悪感を覚えることはない。
「ちょっ!!?」
そしてピンク色の髪をした美少女「ミサ」は顔を上げ、夏輝の制服とその間に伸びる鼻水は、永く放置された吊橋のように、力無く垂れている。
「ごめんごめんw(笑) 我慢したんだけど止まらなくってw(笑)」
ピンク色の髪をした美少女は、何も悪びれた様子はなく、ただ軽薄に笑いながらごまかした。
「あぁ~もうっ! 拭くものが無いのに!」
青色の髪をした美少女「夏輝」は声を荒げ、ピンク色の髪をした美少女「ミサ」は目を強く閉じた。
夏輝の声に驚き、そして目を瞑ったミサであったが、しかしそれもつかの間のことであり、ピンク色の髪をした美少女「ミサ」は、なにやら後頭部がずっと気になっていたようで、と言うのもそれは、夏輝が、所謂立ち読みをしていたそのまさに週刊誌であり、そして後ろを振り返ると、自分の頭に覆いかぶさるようになっていた、その週刊誌の、豪快にも開いたままになっている読み途中のページを確認した。
「あっ、塔磨君の特集ページだ」
「へっ!?」
そのページは一面男性アイドルの特集になっており、そして夏輝は、気の抜けたような声をあげ、すると次の瞬間には既に、
「偶然よ偶然!!! たまたまそのページで止まってたの!」
またしても夏輝は声を荒げ、そしてまた、ミサも、一度反射的に目を強く瞑り、するとハッと、何かを思い出したように目を直ぐに開けて、
「そうそう! ティッシュを買いに来たんじゃん! 序でにマスクも買って、早く帰ろーよ!」
そう、当初の目的を思い出し、そして提案した。それはその場を収めようとしてのことであり、ピンク色の髪をした美少女「ミサ」の軽薄な性格が窺える。
「それはそうだけど、もうっ! 大体あんたはねー……――」
しかしその提案でその場が収まることはなく、そして、青色の髪をした美少女「夏輝」が、ピンク色の髪をした美少女「ミサ」に、所謂日頃の鬱憤を爆発させんとしたところ、大勢の人がなす長い列のその先――
「もう紙が無いだってっくしょんさんせいっ!!!」
「なんだと!? トイレットペーパーは!!? 一人一ロールまでだっくすんっ!!!」
辺りは慌ただしさを増して。