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復讐のガチャ

作者: 子月かんろ

 こんな都市伝説がある。『復讐のガチャ』と呼ばれているものだ。ガチャというのは、が子供の頃、誰しもがやったことがあるだろう。

 くるりとハンドルを回すとカプセルが出てくるあの機械だ。優希も、幼稚園の時祖父に百円玉をねだった記憶がある。カプセルの中に入った玩具が、とくにほしいというわけでもなかった。しかし、回す時のあの手応え、その時感じる快感に逆らうことはできなかった。


 ただ『復讐のガチャ』は普通のガチャとは一味違う。なんでも『復讐のガチャ』に入っているのは玩具ではなく、ただの『紙切れ』一枚なのだ。そんな物に百円も二百円も払うのは馬鹿らしいと、あなたは言うかもしれない。


 あなたはガチャを引きたくなる。あの懐かしい機械の群れを通り過ぎたからだ。あなたは、後ろ髪を引かれて戻ってくる。さて、どれをやろうか。『復讐のガチャ』という文字が目に入る。先の尖ったフォントに、黄色い文字だ。まるで雷のような文字だ。『あなたへの復讐、予言してみせましょう』。そんな文字が書かれている。あなたはつい気になって、百円玉を入れる。コロコロと転がってきたカプセルを開けて、顔をしかめる。「なんだ、ただの紙切れじゃないか」と。


 さしあたり、『復讐のガチャ』に出会った人間の反応はこんなところだろう。優希がとった反応も全く同じだった。

『紙切れ』には、こう記してある。

『南には、気をつけろ』

「南?」

 優希は思考を巡らせた。南か、南に何があるというのか。南から何か災害でもやってくるのか? いや、よく考えろ。これは『復讐のガチャ』だ。俺に恨みを持っている奴が、南に住んでいるのかもしれない。あるいは、そいつの復讐は南からやってくる――

 とにかく、南には気をつけよう。優希はそう心に誓って過ごした。優希は大学生になり、初めての彼女ができた。彼女は『南』に住んでいる。

 そのため、優希は彼女に非常に気をつかった。なんでも言う事を聞き、とにかく甘やかした。優希の彼女は最初でこそ彼に感謝の気持ちを持っていたけれど、その気持ちは次第に消えてしまった。

 彼女は優希のことを、召使いのように感じたのである。いくら善良な人間でも、状況が変われば悪人になる。もう、優希が好きな彼女はいなくなってしまったのだ。


 ある日、彼女は優希に一枚の紙を差し出した。

「これにサインしといてよ」

 婚姻届だった。彼女はぞんざいに婚姻届をテーブルに置く。

 優希は紙きれをじっと見つめる。この紙切れにサインすれば、俺は完全に奴隷になる。あいつは働かず、家事もしない。全ては俺の仕事だ。あいつは俺に頼りきって生きている。本当なら俺から仕方なく結婚してやると言ってもいいくらいだ。なぜあいつは偉そうにしていて、俺は奴隷なのか。復讐だって? そんなものもう良い。もう我慢の限界だ。そうだ、あいつを殺してしまえばいい。


 優希は目に妙な光を宿し、包丁を手に取った。そうだ。あいつがいなくなれば、復讐などできるはずがない。いないのだから。


 その日の夜、優希は彼女を刺した。彼女は死んでしまったし、優希は犯罪者になった。

 あのガチャが、『俺への』復讐の予言をするのだから、これでもう安心だ。いつからか優希は『南』を『彼女』だと考えていた。

 しかし、死んでしまった彼女を慕う人も当然いるのだ。『南からの復讐』はまだ始まってもいない。彼女を敵を打とうと、優希を恨む人物が一人。


 みなさまも『復讐のガチャ』にはどうかお気をつけて。





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