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あいらぶぐらっしいず  作者: 岩戸 勇太
こんな事してていいのかな?
8/15

音院も目覚める

 初葉の説教が終わったのを見計らって、初葉の母が部屋にやってきた。

 にこやかな顔をして、ケーキを置いていく。

「ごめんね、この子説教臭くて……」

 そう言ってくる母親に、廿里と音院の二人は恐縮した。

「いえ……今回は私達が悪かったです……」

 音院が言う。廿里もそれに合わせて初葉の母に向けて「おさわがせしました」と言った。

「初葉……また随分と無茶な事をしたじゃない……」

 押し入れを見て、初葉の母が言う。

「こんな事をしたら、ドアがもたないでしょう?」

 そう言うが初葉も必死だ。見られて困るようなものがあの押し入れの中には詰まっているのは容易に想像できる。

「あの事は後にして! あの中にあるものが見せるわけには……」

 そこまで言うと、初葉の母は言う。

「わかっているわよ……」

 そう言って小さく笑った初葉の母。

「それでは、ゆっくりしていってね……」

 そう言った母。

「あと、言い忘れていたんだけど……」

「何?」

 初葉は母を睨みつけて言った。

「あの押し入れのドア、立て付けが悪くなっているから気を付けるのよ」

 そう母が行った瞬間に、あのドアの蝶番がはずれた。ドアが倒れ中からドカドカとヤバいものが顔を出してくる。

 それを見た初葉の母は笑った。

「それじゃあ初葉。がんばるのよ……」

 そう言って部屋のドアを閉めた母。

「もう終わったのに……何を頑張れって……」

 そう言う初葉。音院と廿里は当然押入れからでてきたものを見た。

「やっぱりBLだったか……」

「BLってなんだ? 廿里と初葉だけでワケのわからない話をするのはやめろ」

 そう言い、音院はおもむろに押し入れの中から出てきた本を手にとった。

「これは……」

 その本の表紙を見て、音院はたまらなくなって唸った。

 表紙には、上半身裸の男が二人が恋人のように絡んでいる姿が書かれていたのだ。

「何? これは何?」

 そのいかがわしいものを見て、それの理解をするための頭がついてきていないようだ。音院は見て分かるほど挙動不審になった。

「これがBLだ……それ以上の説明は不要……」

 廿里は言った、その言葉が聞こえているのかいないのか? 様子を見てもよくわからない廿里は言う。

「こんなマンガ見て何が楽しいって言うんだ?」

「それは俺には分からない」

 初葉はその様子を呆然とした顔で見ている。

「終わった……これで終わった……」

 下を向いてうつむきながら初葉は言う。まるで今の初葉は、壊れた人形のようである。

 音院は文句を言いつつも、ページをめくった。

「うわぁ……」「これは……」などと言いながら、音院は次々とページをめくっている。

「もしかして、気に入ったのか?」

 廿里が音院に向けて言う。

「ばかもの! 気に入るわけがないだろう!」

 そう言ったが、本は見事に手から離さないままだ。その様子を見て初葉は言う。

「まだ……道はある……」

 そう言った初葉。初葉は音院に向けて一冊のマンガを持っていった。

「こうなったら、付き合ってもらうよ……」

 初葉は表紙の方を音院の顔に押し付けた。

「なんだなんだ、お前!」

 音院は言う。本をグイグイと突き出された音院は驚いていた。

「このマンガを読んで! 一緒に腐ろう!」

「腐る!? 何の話をしているんだ? いったい何を……?」

 初葉は強引にマンガをい音院に押し付けていった。

「ちょっと廿里……って! なんでお前は笑っているんだ!?」

 廿里はその二人の様子を見て、本気で笑い転げていた。

「くさるって……くさるって……」

 腹を押さえながら笑い転げる廿里を見る。

「危険な事じゃないだろうな?」

 音院は言った。このマンガを読むだけのこと。危険なんてあるはずもないのだが、音院は不穏な空気しか感じていなかったため、警戒をしたのだ。

「ないない……全然危険なんかじゃないよ……」

「ある意味では無茶危険だけどな……」

 そう言う廿里。初葉はそれを思いっきり鋭い目で見た。

「なんでもないです……BLは夢の世界ですよ……」

 廿里は初葉の勢いに押されてそう言った。

 初葉が廿里を睨む目の鋭さは、とんでもないものだった。目が充血して、目の箸から涙がしたたってすらいた。その様子を見ると、血の涙でも流しそうなくらいの勢いであると、廿里は思った程だ。

「初葉……お前怖いぞ……」

 音院が言うと初葉は「キッ……」と音院を睨む。

「音院……読んでやれ」

 廿里はそう言う。音院はしぶしぶといった感じでマンガを読んだ。

 読み始めたら、音院はそのマンガを気に入ったようで、ドンドン読み進めていった。それにニヤリとした顔をする初葉。

「そう上手くいくもんか?」

 廿里がそう初葉に言うが、初葉は廿里の言葉など聞こえていないようだ。じっと音院の様子を見る。

 数十分後、音院はマンガを読み終えた。

「すかさず、これを見る」

 そう言って初葉は音院にあのBLマンガを渡した。

 最初は拒絶するような反応を見せた音院だが、すぐにページをめくる手を早めていった。

『おいおい……こんなんで上手くいくのか……?』

 廿里は音院の様子を見てそう思った。

 そのマンガを読み終わる頃には、音院は感嘆のため息を吐いて、目をキラキラさせていた。

「マンガにこんな楽しみ方があったとはな……」

 廿里はその時、他のマンガを読んでいた。初葉のオタクぶりは廿里の予想を超えていた。

「男の子にはこれをオススメだよ」

 そう言って出したマンガを読みすすめてみると、確かにそのマンガは面白く、ページをめくる手がとまらなくなったくらいだ。

 気づけば音院もマンガを読み終わり、音院の反応に満足した感じの初葉が言った。

「素晴らしい世界でしょう!」

「そうだな! マンガを読むのは中学の頃にやめてしまったが、こんなに面白いマンガがあったなんて知らなかった」

「それは、小学生の頃と同じマンガばっか読んでいるからだよ。高校生になったら、対象年齢を上げたマンガを読まないと……」

「本当に洗脳を完了してしまったのか……?」

 自分でも自分の事をそこそこのオタクであると考えている廿里も、この早さで落ちた音院の事を見た。

「攻めの反対は何っていう?」

「受け」

 廿里の言葉に、音院は全く迷いもなく返した。

「洗脳されすぎだろう……」

 廿里はそう言い、読んでいるマンガを閉じた。

『音院もついにはこっちの仲間入りか……あいつにこの世界を体験させはしないようには思っていたが……』

 廿里がオススメのマンガなんかを教えても、音院はまったく取り合わなかった。その事を考えると、懐かしく感じてくる。

「お前はもう新生音院になってしまったんだな……」

 廿里がそう言うと、音院はまったく意味が分かっていない感じの顔をしていた。


「だが、マンガのファッションと現実のファッションは違うぞ……」

 あれから、音院は近くの服屋に来た。

 けっきょく、音院は初葉の地味なかっこうをよしとはせず、すこしくらいまともな服を着るようにと、服屋に連れて行った。

「軍資金はいくらか分かっているな? これ以上は買えないからな……」

 廿里はそう言う。

「分かっている」

 そう言った音院はさっそく初葉を連れて、服を選びに行った。

 初葉は基本的に地味な色のものばかりを選ぶ。服のセンスがない人の典型のような服装しかしないのだ。

「派手な服をきるのは恥ずかしいのか?」

 音院が初葉にそう聞く。

「派手じゃないよ。でもこういうのを着るのは、なんか恥ずかしくて……」

「私からしたら、地味な服ばっか着る方が恥ずかしいが……」

 これは典型的な冒険をする事ができなくなっているパターンだ。

 そう考えた音院は、初葉に無理やり服を着せるしかないと考えた。

「廿里……ちょっとこっちに来い……」

 そう言った、音院のところに行く廿里。

「ここに更衣室があるから、ここっで見張っていてくれ」

 そう言った音院。廿里はその言葉の意味を察して言った。

「では、俺はここで立っているだけでいいな?」

 そう廿里が言うと、音院はコクリと頷いた。

「そら! 初葉、入るぞ」

 そう言う音院は初葉を更衣室の中に連れ込んだ。

 そして、更衣室の前に立つ廿里。

「ほら、脱ぐぞ」

 そう更衣室の中から声が聞こえてきた。廿里はその言葉に、いやでも反応をしてしまう。

「覗くなよ」

 廿里は思わず耳をそばだたせてしまった。その様子を見ているように、音院が釘を刺してきたのだ。

「俺がそんな事をするやつだと思うのか?」

 背中に嫌な汗が流れているのを感じながら、廿里は言う。

「そうだな……おまえはそういう事はしないやつだ。信用している」

 そう言われると、廿里の胸がチクリと傷んだ。

「そうそう……俺はそんな事しないぞ……」

 廿里の声が震えているのは音院には届いているはずだ。多少は怪しいと思われたかもしれないが、音院は中から手を出してきた。

「ほれ、初葉の上着」

「はい?」

 いきなり初葉の着ていた服を渡された廿里。その意味が全くわからないが、すぐに分かるようになった。

「廿里君……返して……」

「外に出たければこの服を試着すればいいんだ。ほら、早く着ろ」

「そんなぁ……こんな派手なの似合わないよ……」

 初葉は泣き出しそうな声で言う。だが、音院もそこで心を鬼にして言っているようだ。

「お前の普段着だって、全く似合っていないぞ。素材はいいんだから、後は服のセンスだ」

「素材はいい……って?」

「かわいいってことだよ。初葉はかわいい」

 そう聞くと、初葉はドキリとして顔を赤くした。

『ここで、そんなにメガネの似合う子は他にいない』と、言おうとした廿里だが、そう言ったら初葉は急に覚めてしまいそうだと思って何も言わなかった。

「よくガマンをした。偉いぞ廿里」

 更衣室の中から、そう言ってくる音院。音院は、廿里の頭の中が見えてでもいるようだ。

「何を……言っているんだ……?」

 口には出していなかったはずだ。そう思った廿里はそう返した。

「長い付き合いだ。お前の事はなんとなくわかる」

 そう言ってきた音院はついでにまた服を廿里に寄越した。

「それはだめ!」

 そう言った初葉だがその初葉を押さえつけて、外にでないように押さえつけたようだ。

「観念してこの服を着ろ……」

 音院がそう言うと初葉の「うー……」という唸り声が聞こえてくる。

「なんだ? まだ意地を張るのか? そんな恰好をしているとカゼをひくぞ……」

 音院は言う。

「わかったよ……着るよ……」

 そう言った初葉はしぶしぶと言った感じでそう言った。

「しかし、お前もけっこう胸あるな……」

 そう言った音院。

「ヒャッ! 触らないでよ!」

 初葉のそういう声が聞こえる。それに廿里は、生唾をゴクリと飲み込んだ。

「早くその服を着たらやめてやるよ」

「そんなにべったりくっついていたら、着られないでしょう!?」

「お前の乳がけしからんすぎるのがいけないんだ。ほらほら……ここがいいのか? ここがいいのか?」

 そう言って、初葉をからかっている音院。

『みたい、すごく見たい……』

 廿里はそう思った。

「覗くなよ」

 またも音院は釘を刺す。

「のぞくわけないだろう?」

 まるで、廿里の頭の中を読んているみたいだ。音院は初葉にセクハラをしながら無理矢理に自分の選んだ服を着せたのだ。

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