表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あいらぶぐらっしいず  作者: 岩戸 勇太
あの時はごめんね
2/15

風紀委員長はなんと……

 今、廿里と音院の二人は学校の校門が見える位置にまでやってきた。

 風紀委員長はこちらに気づいたようで、音院の事をじっと見つめた。

「私だったら、どんな遠くからでも分かるんだよな……目が悪いくせに……」

 音院は言う。風紀委員長の事を見て苦々しげな顔をした。

「めっちゃ睨んでるな……」

 ニヤニヤ笑いながら廿里が言う。それを横目で見た音院は、「ふん……」と鼻を鳴らした。

「しかし、さっきのあれは?」

「あれ?」

 廿里が聞いてくるのに音院が答える。

「風紀委員長が目が悪いって話だ。それならなんでメガネをかけ……」

「すみません委員長! 遅れてしまいました!」

 廿里の言葉を最後まで聞きもせずに、音院は風紀委員長のところに走っていった。

 廿里は、またどうせメガネ姿の委員長を見たいとか言い出すつもりだ。音院が無視をしたのも当然である。

「弁明を聞こうか……」

 風紀委員長はそう言うと音院はビシィ……と姿勢を正して、まるで軍隊か何かのようにして声を張り上げて答えた。

「私の友人が線路に突き落とされそうになったので、その事を駅員に教えていました」

「友人……それは……」

 そう言うと、黙考をし始める委員長。

「それなら仕方ないな……だが今度はないぞ」

「はい! 私もすぐに仕事に入ります!」

 そう言い、音院は風紀委員達の列に入った。

「それでは遠海とうみ 廿里とどり君今日の持ち物を見せてもらおうか」

「はーい。気が早いですね」

 廿里がまだ遠くにいるにも関わらず、風紀委員長は廿里の事を識別した。

「目が悪いんじゃなかったっけ?」

 音院の言葉を思い出しながらそう言う廿里。廿里は見られて困るものなど持ってきていない。自信満々の顔でカバンを大きく広げて中身を風紀委員長に見せた。

「あいかわらず、君のカバンにはなぜメガネが入っているんだ?」

 廿里のカバンの中には教科書が入っているものの、空いた部分には、みっちりとメガネが入っていた。そのメガネは今流行りのフレームのないものから、瓶の底のような分厚いメガネまで様々だ。

「それはですね……」

 廿里は語り始めた。

「やっぱりメガネは人がかけてこそ真価があると思うのですよ。たまにメガネが割れちゃったりするでしょう? そうしたら、その子はメガネっ子じゃなくなってしまうじゃないですか。コンタクトレンズが普及しており、メガネっ子は少なくなってきたこの時代、メガネをかける子は一人でも減ってしまうのは国家的な損失なわけで……」

「すまない……聞いた私が悪かった。もう行っていいぞ……」

 力説をしている廿里の言葉を、委員長はそう言って止めた。

「まだ話している最中……」

「だから悪かったと言っている。もう頭が痛くなりそうな話はやめてくれ……」

 そう言われ、廿里はすごすごと校門を通って学校の中に入っていった。

「そうだ、ちょっと待ってくれ。遠海 廿里」

 風紀委員長はそう言って廿里の事を引き止めた。

「校舎裏にまで一緒に行こう。君に話したいことがある」

 そう言われ、廿里は先に歩いていく風紀委員長について、校舎の裏にまで行った。


『やべぇ……これで二人っきりだよ……オレなんかしたっけ?』

 あの、鬼の風紀委員長が用があるというのだ。廿里は必死になって自分が何かをしたのか? 考えた。

「ここでいいな……」

 周囲を見回した風紀委員長いきなり廿里に頭を下げた。

「すまない……今朝の事は謝る」

 そう言い出した委員長。廿里はそれを聞いて頭に疑問符を浮かべた。

「今朝のこと……?」

 廿里には全く身に覚えがなかった。音院に付き合って事故になりかけた事を駅員に教えた事くらいしか思い出せなかった。

「やはり、君も私が分からないか……」

 そう言い、風紀委員長はいきなり髪を結い始めた。風紀委員長の髪はフワリと揺れ、甘く編んだ三つ編みができていく。

「借りるぞ」

 そう言い、廿里のカバンから一番野暮ったいビンの底のようなメガネを取り出した。

 それをかけると、風紀委員長の顔は廿里も見覚えのある顔になる。

鐵山てつやま 初葉はつはちゃん!」

 廿里は言った。今朝駅で会った瓶底メガネに三つ編みの女の子が、今廿里の目の前にいるのだ。

「『ちゃん』とか付けないでくれ。今は鬼の風紀委員長なんだ」

 恥ずかしげにして言う初葉。

「前々から同姓同名だって思って不思議に思っていたのに……」

「そりゃ、同一人物だからな」

 初葉は言う。

「続けるぞ」

 そう言うと初葉は頭を下げた。

「助けてもらったというのにあんな事をしてしまってすまなかった……」

 確かに命を助けてくれた人に向けて平手打ちをするのは失礼だったろうが、あの時は廿里も悪いことをした。

「だがな……君だって悪いんだぞ……」

 初葉は昔から胸が小さい事がコンプレックスだという。近くに音院のような胸の大きい人間がいると、どうしても意識をしてしまうというのだ。そのため、さらに胸が小さいことは特に気になるようになってしまうのである。

「もう、シルエットで分かるからな……あの胸のデカさを見ると、顔を見ないでも一目で『あっ、音院だ……』って……」

 シルエットで音院の事を識別しているという事なら、もしかしてこの風紀委員長は目が悪いのだろうか? 音院から、よく話を聞いておけばよかったと、廿里は考えた。

「でもなんでメガネを外しているんだ? メガネをかけたまま風紀委員をやればいいじゃないか?」

「メガネをかけると舐めてかかってくる奴も多いんだ」

 元々教員に指名をされて風紀委員長をやる事になったのだという。

 だれも風紀委員長をやる人間がおらず、初葉自信が昔柔道をやっていたことから、教師が適当に決めたらしい。

 最初の頃は、見て分かるくらいの気弱なメガネ少女という風貌から誰も初葉の言葉を聞きはしなかった。

 元々、この自由な校風の学校で風紀委員なんてお飾りにすぎない。

 生徒たちは髪を染めたくなれば染めるし、スカートの丈だって短くしたければ折って短くする。

 そして、本人達はある程度の良識はあり、ピアスを付けたり髪を赤く染めるようなむ無茶な事まではしないのだ。

 それに注意なんかしても『好きにすればいいじゃん』などと考えていてまともに聞く者なんていない。

「これじゃ風紀委員なんていらないじゃないか? って思って、自分から変わっていく事にしたんだ」

 初葉は言う。

 メガネを外して、人の顔が見えないようになれば、不思議と強く出る事のできる自分に気がついた。

 昔柔道をやっていた事もあり、実力行使にでてくるような不埒なやつも自力で撃退する事もできる。

 それを続けていると、メガネを外して三つ編みを解いている時は鬼の風紀委員長として演じる事ができるようになってきたのだ。

「普段の私と違うから、みんな私が風紀委員長をやっている事を信じられないようで、何回自己申告をしても信じてもらえないんだ。君だって、私が風紀委員長だなんて信じられないって顔をしているよ」

「ああ……信じられない……」

 あっけにとられた顔をした廿里。

「みんな君みたいな顔をするんだよ……」

 その反応は初葉も慣れたもののようで、悠然としてメガネを外し、そのメガネを廿里のカバンの中に返す。

「まあ、命を助けられたのは事実だからな。何かお礼でもしようと思うのだが……君は何がいい? どこかでケーキでもおごろうか?」

 そう言い出す初葉。

 三つ編みを解きながらそう言う初葉に向けて、廿里は言った。

「なら、俺とつきあってくれ……」

 廿里はそう言った。その言葉に思いっきり驚いた初葉。

「なんだそれは……過大な要求じゃないか?」

 だが初葉は顔を赤らめていた。お礼をするとは言ったものの、要求の大きさにも限度というものがある。

 普通ならそんな事を言うなら一発くらい殴ってもいいほどの事だろう。

「過大でも結構だ! 昔から俺は君の事が好きだった! 君のきれいな髪や……」

「綺麗な……髪……」

 廿里がいう言葉に、初葉は思わず息を飲んだ。赤くなった顔を俯かせて、廿里の言葉の続きを聞いた。

「その大きくて可愛い目元とか……」

「私の目……? そんなにかわいいのか?」

 顔を見るとおもいっきり動揺しているのが分かる。廿里が見つめてくるのに、後ろに下がった。

「なによりそのメガネ……君にとても良く似合ってる!」

「メガネは関係ないだろう! 私の体の一部でもないんだし!」

「いいや……あのメガネは君にしか似合わない。あのメガネを着こなす事のできるその可憐さと慎ましさが、君の魅力なんだ!」

 そう言われた初葉は目をグルグルとさせた。

 男の子から告白をされたのは初めての彼女は『何を考えていいか分からない』というレベルまで動揺をしていた。

「私って、可憐で慎ましいのか……?」

 小さな声でそう言う初葉。

 初葉は俯きスカートの裾をぎゅっと掴みながら小さな声で言った。

「とも……だちから……」

 そう言った初葉。その言葉は廿里には届いていないようで、廿里は初葉からの言葉を待っている様子だった。

 そして、初葉は大きく息を吸った。

「友達から始めよう! 私、男の子と付き合うとかなんてわかんないんだ!」

 そう大きな声で言った初葉。それに廿里は初葉の手を掴んだ。

 手を握られるのなんて、初葉には初めての経験だった。つい、その手を振り払ってしまおうと考えてしまう初葉だが、それでも廿里は力いっぱい初葉の手を握り、離さなかった。

「なら、携帯の番号の交換からしよう。携帯を出して」

 廿里が言うのに、初葉は携帯を出す。

「男の子と番号の交換なんて初めてだ……」

 そう言った後、初葉は携帯の画面を見つめて、ニコリと笑ったのだ。


×「あのあと、風紀委員長と何かあったのか?」

 昼休みの時間になると、音院が廿里に向けて言ってきた。

「ああ……友達になった」

 廿里は言う。音院はそれを聞いて顔を歪めた。

「なんだそれ? 分かるように話せ! 風紀委員長と、何があった?」

 音院はそう言い、いつもどおりに廿里の机に自分の弁当を置いた。

「あれから、あいつの様子がおかしいんだ。初葉と何があったんだ?」

「だから、友達になったんだって……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ