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あいらぶぐらっしいず  作者: 岩戸 勇太
怜津 楼斗の動機
13/15

六斗の家事情

「いいのかよ? あんな態度で」

 屋敷の中に入ると、美鈴の部屋にまで案内をされた。美鈴の部屋は八畳間で周囲はふすまで仕切られている場所だ。何かを言えば、すぐに外にその言葉は聞こえる。

「そして、いつまで俺はお前に付き合えばいいんだ?」

 廿里が言う。自分の首にかけられた首輪を触りながら言った。

「私の気が済むまでですわ……」

「ったくよ……」

 良家のご息女というのは、こんな感じなのだろうか? マンガかなんかで高飛車キャラとして出てくる事も多いが、本当にそのものなのであるというのが、廿里の感想であった。

「随分若い母さんだったな」

「私の産みの母親ではないですから」

 廿里はそれを聞くと、美鈴の事を見た。

 これもどこか、マンガで見たような話だ。つまり、今さっき会った美鈴の母は、父の再婚相手であり、本当の母親は、すでに父とは別れている。

「といったところか?」

 廿里が言う。美鈴はそれを聞いて、鼻を鳴らした。

「下品ですわね。人の家の事情をいちいち詮索するなんて……」

「そいつは申し訳ない」

 憮然とした顔でそう答えた廿里。それに忌々しそうな顔をした美鈴は言う。

「下品な人間はそれなりの事を知っているのではないですか?」

「言ってみ」

 もうすでに美鈴の言葉くらいでは動じなくなった廿里の態度を見て、忌々しそうにする美鈴。

 だが、美鈴はそれでも続きを言った。

「この屋敷から、だれからも気づかれずに抜け出す方法とか……」

 美鈴は意を決したようにして言った。


「こんな事してもいいのか?」

 廿里は言った。美鈴は屋敷の警備の場所と監視カメラの場所をすべて把握しており、誰にも見つからないようにして屋敷を抜け出すこと自体は簡単だった。

 廿里はこの行動自体が、美鈴にとって何の意味があるのかわからなかった。『ちょっと悪い事をしたくなったお嬢様』という程度の事であろうと、考える。

 廿里が声をかけても美鈴は何も答えなかった。

「あなたは、私に言われた通りにしていればいいのです」

 憮然とした顔をして、そう言い放った美鈴。

「ったく……」

 小さく悪態をつくものの、廿里はその美鈴についていった。今はある店に向かっていった。

「初葉とか、この店がいいって言っててな」

 ちょっと前に、初葉に紹介された店だ。女の子が好きそうなスイーツ店で、廿里が一人で来ることはなかったし、それ以降初葉から誘われたりする事もなかった。

「こういう店は、男が入ってはいけないオーラみたいなものを感じるんだよな……」

 廿里は言う。

「そんな瑣末な事を気にするなんて、やはり庶民の考える事はわかりませんわ」

『あいかわらず、嫌味を挟まないと会話ができないのか?』

 廿里はイラつきそう考える。そこに廿里が注文をしてきたクレープが届いた。

「この量で五百円かよ……」

 廿里にとっては、そのクレープは小さすぎた。女性向けのお店に行くと、男はよくこう思うのだ。

 綺麗でおいしそうだけど、この量でこの値段は高すぎる。

「嫌ですわ……庶民はこんなはした金一つでいちいち……」

「そりゃお目汚しすいませんね」

 美鈴の嫌味を軽く受け流す廿里。それがいけないのか? 美鈴がさらに不機嫌そうな顔になった。

「もうちょっと私に媚びてみたらどうですか? このままじゃ、私は何も満足はしませんよ」

「いつからそんな話に?」

 廿里は言う。いきなり、美鈴は自分を楽しませろと言い出す。この傍若無人ぶりには、廿里も手を焼いている。

「それではお嬢様、私になんなりとお申し付けください」

 廿里は言う。廿里の頭では、女の子を楽しませるには、執事の真似事をするのがいいとしか思わない。彼女の前に膝まづき、頭をたれながらの言葉であった。正直、廿里自身が苦肉の策としてつかった行動である。

「だから……そういうのが私をバカにしていると言うのですよ……」

 不機嫌な顔をした美鈴。

「どうしろってんだよ……」

 廿里はそう言った。不機嫌な顔の美鈴は席を立った。

「いきますわよ」

 そう言う美鈴。廿里はそれについていった。


 次は人通りの少ない道にまでやってきた。

「今度は何を見たいんだ?」

 うんざりした顔で廿里が聞く。

「別に、こんなところに見るものなんてありませんわ」

 気の向くままに歩いていたら、ここにたどり着いたという感じらしい。

 廿里は、とりあえずは美鈴の後ろを歩いた。

「あなたがエスコートなさい! 男が女性のエスコートの一つもできないのですか?」

「育ちがそんなに良くないんだよ、彼女とのデートコースを完璧に計画を立てることが出来ればいいんだが……」

「本当に使えない男ですわ」

 そう言うと、美鈴は先に歩いて行った。

「闇雲に歩いても、時間が潰れるだけだぞ」

 廿里がそう言い美鈴が足を止めた。

「ならこの公園にしましょう。下界の悪い空気を吸いすぎました。公園の中なら、少しは

空気の味もマシなものになるでしょう」

「へいへい……」

 廿里はそう言い、先を歩く美鈴についていく。


「楽しくない」

「今度はなんだ……」

 いきなり美鈴が言い出す。それに対し、廿里は『そりゃそうだ』とばかりにため息混じりで言った。

 こんなふうに何もない所をウロウロしているだけなのに、なにが楽しいのか? そもそもこのお嬢様の目的は何だ?

 廿里はそう考えたが、そんなものわかるわけがない。廿里は美鈴を見た。

 廿里には、このお嬢様がご機嫌ななめになるツボが全く理解できていない。このまま何も言わないのがいいかもとは考えるが、それはそれで機嫌が悪くなりそうだ。

 そう考えて顔を上げたところ、公園のベンチに腰掛けた美鈴。それを見たあと、周りを見回してみたら、何か植え込みの中で光っているものがあるのに気づいた。よく目を凝らしてみると、そこには人が隠れているのが見える。

「危ない!」

 そう言い廿里は美鈴の手を思いっきり引っ張った。

 そのすぐ後に、美鈴の座っていたベンチに一本の矢が刺さったのだ。

 植え込みの中の男はそれから逃げ出していく。

「待て!」

 そう言って、追っていった廿里。その男は帽子を目深に被っていたが、その体格を見て分かった。

「当歳……五郎……」

 あの体格の男は当歳 五郎だ。アルバムで見たあの男そっくりであったのだ。

「なんであいつが……?」

 廿里はそう言って、当歳の事を追っていくのをやめた。

「わかったぞ……これは、この事件のカラクリは……」

 廿里はそれを理解した。その後、美鈴のところにまで戻っていく。

 これは、美鈴にかまっているヒマはない。早く初葉達に知らせなければならない。この事件の真相を……


「六斗……」

 そう言って、美鈴の座っていたベンチにまで歩いていくと、美鈴の家の者がいた。

 明らかに廿里の事を敵視した顔をしている。

「我々の目を盗んで、お嬢様を連れ出したな……」

 それを言ったのは六斗の家の者達を背後に従えて先頭に立つ壮年の男だった。美鈴の事を見ると、不安げな顔をしているのが廿里には見えた。

「そうだ。俺が美鈴を連れ出したんだ」

「お前のような下郎が美鈴さまを名前で呼ぶな」

『下郎とは、また初めて聞く言葉だ……』

 古風ないいようで言う、六斗の家の者の言葉にそう考える。廿里はこれから、自分がボコボコにされるのを分かっていながら、場違いにもそう考えた。


 廿里は六斗の家の門から道に放り出された。廿里はうめくようにして言う。

「いってぇ……」

 廿里は美鈴を家から無断で連れ出した事の報復として、痛めつけられたのだ。何度か腹を殴られた。腕の関節もいくらか痛めつけられた。

「子供のやることだ。これくらいで許してやる」

 廿里の事を殴ったその壮年の男がそう言う。

「二度とお嬢様に近づかないことだ。わかったな?」

 その壮年の男がそう言う、廿里はあえて媚びへつらって言った。

「もちろんです、二度とお嬢様には近づきません」

 そう言うと、不快そうな顔をした壮年の男は、小さく「ちっ……」と舌打ちして、屋敷の中に戻っていった。

「二度と会う事もないだろうしな……」

 廿里は使用人が見えなくなったらそう言った。

「なんてバカな事をやったんだろう……」

 廿里は自分で自分の事をそう言う。

 あの男たちに絡まれたとき、美鈴は不安そうな顔をしていた。このまま自分が抜け出した事がバレたらキツいお仕置きでも待っているのだろうか? そう考えさせられるような表情だった。

「これはサービスだ。女の子とデートができるなんて、いい体験をさせてもらったからな……」

 そう口で言いつつもその言葉に自分自身呆れ返ってくる。別にやりたくてやったわけじゃない。美鈴に連れ回されただけだ。だが、廿里はそう言ったのだ。

 別に美鈴の事を助けたところで、自分に何か得があるわけでもない。だが、なんとなく不安そうな顔をしている女の子をほっとけなかっただけだ。それだけのために廿里は六斗の家の使用人たちからのリンチを受けた。

「まあ、こっちの用は終わったし、本題に行くか……」

 今までの事は綺麗に忘れて、廿里は携帯の電源をいれ、初葉に連絡をした。

「カラクリが分かった。すぐに集まろう」

 廿里はそう言う。

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