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あいらぶぐらっしいず  作者: 岩戸 勇太
怜津 楼斗の動機
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怜津 楼斗の動機

怜津れいつ 楼斗ろうとについて調べたことを報告いたしますわ」

 廿里と初葉と音院の三人がそろった風紀委員の部室にいる百合香は自分の調べた事を話し始めた。

「怜津 楼斗はある人に退学に追い込まれています。その名は六斗ろくと 美鈴みすずです」

 全員初めて聞く名である。それが分かっているため、百合香は続けた。

「六斗 美鈴はいわゆる学校のお嬢様で、ファンとかもいたそうです。マンガでもよく出てくるでしょう? なんか、やたら女子に人気のある『お姉さま』とか呼ばれる女子」

 そのうえその学院の理事長の娘であるという完璧なお姉さまキャラだ。そんな人間が実在するのか? と思った廿里達だが、その疑問を察してか? 百合香が言う。

「いるところにはいるのです」

「はい……どうも」

 廿里達の考えを読んで言ったようだ。その言葉に廿里は代表をして答える。

「だったら、六斗 美鈴を狙えばいいのに、なんで私なんかを……?」

 初葉が言う。それが不可解なところだ。

「自分には縁もゆかりもない人間の命を狙うっていうんだろ? その原因なんて……」

 廿里はそう言うが、音院はそれにを鼻で笑った。

「誰が? どこで恨みを買っているか? なんて、本人達にしかわからん」

 そんな事を考えても無駄だという音院。そう言われてしまえば、廿里も初葉も言葉を失うところだ。

「私が調べたところ、臭そうな部分はそこくらいです」

 そう言った百合香。基本的に不良である、怜津 楼斗の周りで起こった問題事などはいくつかあるものの、それらが初葉を狙う理由になったとは考えにくい。

 道端の看板を壊して怒られて逃げたり、イライラしてゴミ箱を蹴ったりする位のことはあったらしい。

「本当にチンピラだな、兄弟揃って……」

 音院が言う。まさに怜津の兄弟はそれであった。

「それで、その六斗 美鈴の周りで何か事件はあったのか?」

「それは……」

 そこまで言ったところで、百合香は考えた。

「あの子、最近ガードマンを増やしているらしいのですよ……事件なんかの話は聞きませんが、何か知っているのではないでしょうか?」

「ガードマンを増やしている……」

 廿里はそう言った。確かに、何かの危険を察知しているような様子だ。

「私の顔見知りの相手なので、ちょっと会ってみますか?」

 百合香が恐る恐るといった様子で言う。

「なんだ? 何か問題でも?」

 廿里が聞く。

「まあ、マンガをいくつか読んでいるならわかるでしょうが……マンガの登場人物そのままの人なんですよ……おーっほっほと笑うし、会うなりに嫌味とか……」

「そんな人間、本当にいるのか?」

「いるところにはいます……」

 百合香はそう言う。

「手がかりは他にないんだ。会ってみれるか?」

「はい、では行きましょう」

 百合香はそう言い、電話で車を呼んだ。


「いいですか? 多分会うなりいきなり嫌味を言われるでしょうが……?」

「気にしなければいいんだな?」

 百合香はさっきの電話一本でハイヤーを呼んだ。助手席に座った百合香と、後部座席に座った三人。運転手はその様子にはまったく気にしていないようだ。百合香はその運転手の事を見ながら言う。

「気にしないで……私用で友人を乗せいているだけですわ」

「お嬢様、了解しました」

 そう冷静な様子で言った運転手は、百合香から完全に顔を背けるためのようにして前をまっすぐ向いた。

「誤解しないで欲しいですが、この男と私との関係はございませんわ。学校の先輩のご友人ということで一緒に乗せていってあげているだけですの」

「了解しました。お嬢様」

 運転手はまた抑揚のない冷静な声で言った。

「クドくないか? 一回言えばわかるだろう?」

 廿里は言う。百合香は面倒そうに頭を掻きながら言った。

「運転手は私が給料を払っているわけではありませんからね」

 何か異常があれば、両親に報告がいくようになっている。その事を分かっているため、百合香は口を酸っぱくして言っているのだ。

「了解しました。お嬢様」

 そう言う運転手に、百合香は顔を歪ませた。『本当に分かっているのか?』と考えている様子だ。

「とにかく話の続きですわ……」

 六斗 美鈴に会ったら、まず嫌味を言われる。それにおもいっきり気分を害した顔をする事。何も反応がないと、さらに気分を害そうとしてさらに嫌味を言ってくる。

 そして、相手が嫌な顔をしたら、それで調子に乗って傲慢な態度で接してくる。そのたびに顔を引きつらせたり、表情を固めたりを繰り返して相手の嫌味に反応をする。

 それを繰り返し、そろそろ美鈴が上機嫌になってきたところになって質問をするのだ。そうでないと、美鈴は何も教えてはくれないだろう。

「クソめんどくせぇ……」

 百合香の説明を聞いていた廿里はそう言った。

「そうでもしないと、あいつは口を割らないと思いますから……」

 百合香が言う。

 廿里がそう言うのに、運転手は眉根を寄せた。

「こういう世界に入って、見聞を広げよと言ったのはお父様ですわ」

 運転手が廿里の乱暴な言葉使いを気にしたのだろうと察した百合香は言った。

「このような者と交友があるのは問題では?」

 運転手は言う。初めて彼から言葉があったのに、廿里は驚いた。

「こういう者と『交友をとって、社会見学をしろ』と言ったのはお父様ですわ」

「あなたはそういう認識ですか……」

 運転手はそう言い、それから真っ直ぐに前を向いて運転をした。


「さて、着きましたわ……」

 百合香が言った。まるで教会のような見た目の学校であった。

「本当にお嬢様学校なんてあるんだな……」

 廿里は思う。今は学校の下校時刻である。

「ごきげんよう」だの、「ですわ」だのの言葉が使われているのが聞こえる。それを夢の中のできごとみたいに思いながら、廿里は周囲を首を回して見た。

「キョロキョロはおやめください。不審者に間違われますよ」

 百合香が言う。

「ほら、すぐ出てきました……」

 これまたマンガでしか見たことのない光景があった。

 一人の女生徒を囲み、数人の女子が楽しげに談笑をしている。その中心にいるのは、髪を綺麗にまとめ、気の強そうな顔をした生徒である。

 見ただけで、全員はなんとなく分かった、あれが六斗 美鈴だ、間違いない。

「おや? 百合香さん? 最近ご無沙汰でしたわね。なんでも、庶民の通う学校に一緒になって通っているとか? あなたは昔から俗っぽい所がありましたからお似合いだと思いますが……」

『しょっぱなから嫌味か……』

 廿里はそう小さく言った。音院も初葉もそれを聞いてうんざりした顔をしていた。

『聞いていた通りすぎるだろう』

 これを言ったのは音院だ。

 それから美鈴は、気分を良くした感じで「フン……」と鼻を鳴らした。

「さっきから羽虫が何かを言っていますが、言いたいことがあるなら人の言葉で話して頂けませんこと? 私は五カ国後を習っていますが、さすがに醜い虫語までは習っておりませんの」

 そう言った後、美鈴は「オーッホッホッホ」と笑う。そして、美鈴の周りの女子達も、一緒になって「オーッホッホッホ」と笑い始めた。

 自分が五カ国後を話せる事を自慢しながら、きっちり嫌味まで言う。完璧に嫌な言葉だ。これは完璧すぎて怒る気にもなれない。

 百合香の顔を見ていると、百合香はひきつった顔をしていた。これは演技ではない。本気で、美鈴達の言葉に辟易しているのが、廿里には分かった。

「本題にはいっていいですかね?」

 百合香がぎくしゃくした顔で言い出す。

「いいでしょう。質問を許します」

『本当に何様だ……?』

 そう思う廿里は引きつった顔をした。

「最近ガードマンを増やしたようですけど、身の回りで何があったのですか?」

 百合香が聞く。

「そんなつまらない事……」

 美鈴は言った。

「最近両親が海外に仕事にいきましたの。ガードマンは向こうで雇いますから、日本のガードマンは家に残してきたのです」

 そう言う美鈴。廿里はその返答に内心がっかりしていた。身の回りに何か危険が起こったのではなかったのだ。

『はずれか……』

 心の中で、そう考えた廿里。

「つまんない事を聞いて悪かったな」

 廿里は言うと、とりあえず頭を下げた。

「ふん……本当につまらないことですわ」

 美鈴はやや不機嫌になった。もうちょっと面白いことでも言えば、美鈴も楽しんでくれたのだろうが、廿里だってそんな事まで考えない。

「私の時間をあなたのためにさいたのですよ。どう責任を取ってくれるつもりですか?」

『ちっ……メンドくせぇ……』

 心の中でそう考えた廿里。だがそれを顔に出すわけにもいかない。

「責任と言われましても……」

 廿里は言う。

 そういうのを聞くと美鈴はニヤリと笑った。

「あなた、今日一日私の犬になりなさい」

 そう美鈴が言う。そうすると、美鈴を囲んでいる女子がどこかからか? 犬用の首輪を取り出した。

 そうすると、おもむろに廿里の首にその首輪を付ける。

「今日一日くらいで済むのなら安いものです」

 百合香は言う。そして、音院と初葉の二人を連れて、ハイヤーにまで歩いて行って乗ろうとしていた。

「ちょっと待たんか! こうなるのが分かっていたのか!?」

 廿里の言葉など無視した百合香。車に乗り込みながら、興味がなさそうな感じで言った。

「分かっていたとまでは言いませんが、大体こんな事になるんではないかと……」

 百合香はそう言いながら助手席に座った。

「出してください」

 百合香がそう言うと、ハイヤーは出て行った。

「見捨てられましたわね。まあ、こんな冴えない男には似合いのことですわ」

 そう言った美鈴は、また「おーっほっほっほ」と笑っていた。


「俺はなにをやればいいんだ?」

 廿里は美鈴に向けてそう言った。首輪をかけながら、美鈴の屋敷にまで向かっていた。

 美鈴が先頭を歩き、その後ろに廿里。そして、その後ろに十人近くのガードマンがズラズラと並んでいた。

「あなた、百合香さんとはどのような関係で?」

 廿里の質問など全無視で、美鈴が聞いてくる。

「ただの風紀委員の仲間だよ」

 廿里がそう言う。

「正直に答えたほうが身のためですわ。もう一度聞きます。あなたと百合香さんはどのようなご関係で?」

「本当に風紀委員の仲間なんだよ。一体何を疑っているんだ?」

 廿里が言うのに美鈴は鼻を鳴らして答えた。

「風紀委員の男子は、百合香さんが全員追い出しているはずですわ。私の情報能力をナメないでもらいましょう」

 そう言って顔をニヤつかせながら廿里に近づいてくる美鈴。

「情報が古いな……風紀委員に男手がいなくなった事で困って、俺が入る事になったんだ。俺は副風紀委員長の幼馴染なんだよ」

「そうですか」

 そう言った美鈴。なんか不機嫌そうな感じで言った美鈴の声を聞く。

『しまった、不機嫌にさせてもいかんな……』

 首に首輪をつけられている今、どうにかして美鈴から開放をさせることを考えるべきなのだ。余計な事を言わないほうがいい。

「あなた、このまま私の犬になりなさい。百合香なんかよりも私の犬になったほうが何倍もいいですわよ」

 そう言う美鈴。この場合、どう答えればいいだろうか? そう考え廿里はそれに、適当に同意をする事にした。

「そうですかお嬢様。私はあなたに一生ついていきますよ」

 そう廿里は言う。だが、美鈴は不機嫌そうな顔をした。

「つまらないですわ」

「どうしろってんだよ……」

 どうも、馬鹿にされている気分にでもなったのだろう。さらに不機嫌そうな顔をした美鈴が言う。

「あなた、あの百合香さんが認めた男なのでしょう? 百合香さんは、あなたの何を気に入ったのですか?」

 そんな事を聞いてくる美鈴。だが、そんな事、廿里にわかるわけもない。

「私も存じ上げません」

 廿里はそう言う。美鈴はさらに不満げな顔になった。

「あなたが、とことんつまらない男であるのはよく分かりましたわ」

 そう言う美鈴。

「だったら『あなたはもう用済みです。どこなりと行きなさい』とはならないんだよな」

 そう期待している廿里だが、その廿里に顔を近づけた美鈴は言う。

「そんな事、言うはずがないでしょう? ちょっとぐらい私を楽しませてみなさい」

 そうやりとりをする美鈴と廿里。

 後ろを歩くガードマン達の事を見返すと、何も感じていなようにして無表情をしていた。

『俺のことなんて無視かよ……』

 この状況を止めに入るような人は一人もいない。

 屋敷が見えてくると、門の前で待っている人影を見つけた。

 美鈴の母といった感じである。それにしては随分若い気もするが、隣の数歩さがった場所にスーツで正装をして男が立っていた。

「お帰りなさい、美鈴さん」

 その女性が言うと、美鈴は不機嫌そうな顔をした。

「陽子さん、お加減はよろしいですか?」

 そう質問をする美鈴。だが、返事も待たずに美鈴は先に歩いて行った。

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