風紀委員会
「いいんちょ!」
ここは風紀委員の部室だ。そこにやってきた初葉は自分の髪を解きながらその声を聞いた。
「どうしたの……? いや、どうしたんだ?」
ふと、委員長モードになる寸前の初葉は、いつもの様子で返事をしたが、すぐに言い直したのだった。すぐに髪を解き、鬼の風紀委員長の顔になった初葉は続きを聞いた。
「あの男! どうしてあの不浄な男がこんな所にいるんですか!?」
「不浄って……」
ここ風紀委員会は、なぜか会員が全員女だ。その理由は、この風紀委員会にいる彼女である。
彼女の名前は蓮里 百合香である。彼女は大の男嫌いで、風紀委員の部室から、男子を追い出してしまった。
「凛々しい女性ばかりがいる、私にとっては花園のような世界に……」
そう言ったあと、百合香は廿里の事をビシリと指さした。
「こんな不浄な男に!」
その百合香の事を見て、廿里は思った。
『ああ……音院と初葉に聞いたとおりだ……』
音院と初葉のふたりは『百合香には気をつけろ』と、何度も言ってきた。
先に聞いていたためインパクトはそれほどでもなかったが、かなりめんどくさい奴であるというのは嫌なほどに分かった。
「いい加減にしないか蓮里……お前のせいで男手がいなくなって大変になっているんだぞ」
そう言って、ノートを運ぶ音院。
「何をおっしゃいます、あなたが荷物を運ぶ姿は、逞しくてとても見ごたえがあります。この麗人は綺麗だけじゃない魅力があります」
「ゴメンの一言ぐらい言え! 私はこれを職員室に持って行くからな」
そう言った音院は、部屋から出ていった。
「音院、私も行くぞ、職員室には用がある」
そう言い、音院の持っているノートを半分持ち、初葉は一緒に職員室に向かっていく。
ここに残るのは、百合香と廿里だけになった。
『これからが本番だぞ……』
廿里は思う。今回、初葉と音院の二人は別室でここの様子を確認している。
持ち物検査のときに取り上げたカメラを使って今の状況を監視しているのだ。
このカメラを手に入れた経緯について言う。これはある帰宅部の生徒が持っていたのだ。
学校にカメラを持ってくるなんて、目的は『盗撮』ではないか? 疑ってしまう。この生徒はどうにも疑わしいので『二度とカメラを学校に持ち込まないこと』と言い渡したあと、このカメラは没収をしたのだ。
他にも、風紀委員の部室には、いろんなものがある。
没収をしたものの本人が取りに来ないものがある。マンガやお菓子が一つの箱に無造作に詰め込まれていた。
そんなものをわざわざ取り返しくるような奴もいないため、定期的に処分をしている。
マンガを一冊持った百合香は言う。
「あなたのどこが気に入られたのか知りませんが……あなたの事を調べましたよ……」
百合香は廿里に向けてマンガを一冊投げた。
廿里のすぐ横にそれが飛び込む。
「おい! 何をするんだ!」
「あなたには何もしていないでしょう? ちょっとすぐ横にマンガがとんできただけですよ」
「んな詭弁通るか! 明らかに俺の方に向けてマンガを投げてきただろう!」
「ほら……あなたはそんな事でそこまで怒るなんてケツの穴が小さいという話は本当ですのね」
「お前こそゴメンの一言も言えないのか! どんだけケツの穴が大きいやつだったら怒らないんだよ!」
「あぁあぁ……理屈っぽいという話は本当ですか……本当に面倒でウザい男。女の子から嫌われるんじゃないですか?」
「少なくとも、お前に好かれたいとは思わん」
廿里はそう言い、百合香に向けて顔を近づけた。いわゆるメンチをきると言われるものだ。
「まったく、こんな不良みたいな男とお付き合いがあるなんて、音院お姉さまも、見る目がないですね」
「俺はおまえみたいなお嬢様口調の奴が、本当にこの学校にいるという事が驚きだよ!」
廿里はそう言った。
「私の家の方針ですわ。うちはそれなりの大きさの社長をしていますが、次の代になってもこの会社が存続をする保証がないと言いましてね……」
「リアルで重い話をするな! 反応に困るわ!」
「将来私が会社を引き継ぎます。存続はすでに決定をしているようなものですわ」
「なるほど! 不安になるわけだ!」
廿里はそう言って閉めた。百合香は顔が赤くなっていく。
「なんですって! この完璧な私のどこが不安だというのですか!」
「まず、レズじゃねぇか! 非生産的な恋愛をしていると、後継が生まれねぇぞ!」
「なんですって! そこが理由だったのですか!?」
百合香は思いっきり驚いた顔で言った。
「衝撃の事実ですわ……そこは一番難しい事です。勉強や訓練でどうにかなるものではありません。私がお姉様たちを愛する気持ちがまさか足かせになるとは……」
百合香は一人で語り始めた。頭を押さえて顔を驚愕に歪ませながら言う。
「おい……そんなにショックを受けるなよ……なんか悪い事を言ったような気分になるじゃないか……」
廿里は言う。百合香の様子は、廿里の声などとどいていないようで、小さく言葉をブツブツと言い始めた。だがいきなり顔を上げた百合香は廿里の事を真正面から見据えて言う。
「よろしいですわ……遠海 廿里! あなた、私の彼氏になりなさい!」
「何言ってんだ、どこをどうしたらそんな話になるんだよ!」
何をいきなり言い出すのか? 廿里はその言葉にツッコミを入れるつもりで答えた。
「ちょっと待ったぁ!」
そこに音院と初葉が部屋に入ってきた。「なんだ、なんだ……」と言った廿里は無視して百合香のところにまで向かっていった。
「廿里はやめたほうがいい、こいつ、メガネバカだし」
「そうだ。いつもカバンの中にメガネを仕込んでいるようなバカだぞ」
初葉と音院の二人は二人して廿里の事をそう言った。
「おいこら! 二人共そんな事を言いにわざわざやってきたのか!」
廿里が二人に向けてそう言う。そうすると、初葉と音院は部屋から去っていった。
「おい! 本当に何をしに来たんだ!?」
そう廿里が言うが、二人はしれっとして部屋から出ていった。
「仕方ありませんわね……バカでメガネなあなたと付き合うのはやめにします、変な菌をうつされるといけませんから」
「今度は俺を害虫扱いか! 変な菌なんて持っとらんわ!」
廿里が言う。それに「ふん……」と行った感じでそっぽを向く百合香。それに「ちっ……」と小さく言って、とりあえずはそこにあった椅子に座った廿里。
そう言ったあと百合香は廿里の事を眺めた。
舐めるような目で、廿里の事を見てきた百合香に、廿里は警戒するようにした。
「まあ、メガネバカなのはおいておいて、初葉さんと音院さんが取り合うってのは分からないな……」
「またバカにする気か?」
廿里は言う。この百合香の言葉に警戒をした。今度は何を言われるのだろう? と、目を見張って百合香の言葉の続きを聞く。
「あの二人いっつも、あなたの悪口ばっかり言っているのです。なんか二人共気があるって感じです……」
百合香はその時の事を話し出した。
「あいつには困ったもんだ。人の弱みにつけこんで付き合ってくれなどと言うとは……」
初葉が、廿里に向けてお礼の言葉を言ったとき、廿里は「付き合ってくれ」と言ったのだ。その事を音院や百合香がいる風紀委員の部室で話したら、音院が初葉に共感してそう言ったのだ。
「全くそうですよ。お礼一つくらいをいうのは礼儀の範疇です。『俺と付き合え』なんて過ぎた言葉以外の何者でもないです」
百合香もそう言う。
「お前に言われると、ちょっとあいつと付き合うのも悪くないかな……? って思えてくるな……」
「なんでですか?」
そう言う百合香。彼氏ができれば、このレズに付きまとわれる事もなくなると、思っての言葉である。それには、音院も共感をしたようで、一緒になって、「うんうん……」と言って首を縦に降っていた。
「ずるいです! 二人して私の事をいじめて!」
「その言い方はないだろう? 迷惑を被っているの私達の方なんだぞ……」
そう言う音院とそれに同意をする初葉。
「まあいいですよ……その男に付きまとわれているなら、私がどんな手を使ってでも退学に追い込んでいたところでしたが」
百合香がそこまで言うと音院は言う。
「物騒な事を言うな……」
「私は同意してもいいけど……一回脅迫をされたんだし……」
初葉は言う。
「おいおい……そこまですることないだろう。そんなことをされたら、どんな顔をしてあいつに会えばいいのだ? 奴は私の知り合いで奴の両親とも顔見知りなんだぞ」
「面倒そうだな」
音院の言葉に合わせて初葉も言う。初葉は言った。
「なんならあいつは、風紀委員の雑用に取り立ててやってもいいぞ。あの不埒な奴の性根を叩き直すためにも……」
そこまで言うと、音院は反論をした。
「待ってくれ! 朝と夜にあいつと顔を合わせるのもキツいっていうのに、あいつとここでも顔を会わせるのか?」
「そうです! この神聖な風紀委員会には男など必要ないです!」
音院の言葉に、百合香もそう言って援護をした。だが初葉は、百合香の言葉など全く聞いていないようだった。
「前々から、ここに男手が欲しかったんだ。音院の知り合いというなら、ちょうどいいじゃないか」
初葉が言う。音院に向けて挑戦的にも見えるような言い方で言っていた。
「知り合いだから止めているんだ……あいつは腐ったミカンのような奴だからな、百合香にも悪影響があるんじゃないか?」
初めて名前を出された百合香だったが、明らかに二人の槍玉にされていて、素直に喜ぶような気分にはなれない。
「お二人共……もしかして、その男を気に入ったので?」
百合香が二人に向けて言う。だが、二人は同時に答えた。
「そんなワケがない!」
そう言った後、初葉が言い出した。
「あいつが悪いとは言わないが特に目を引くような魅力があるわけでもないし、メガネ好きの変態だし……」
それに合わせて音院も言い出す。
「あいつとは長い付き合いだが、あんな奴と付き合うような奇特な奴がいるなら、顔を見てみたいくらいだ」
二人して、廿里の事をボロクソに言い合っていた。だが、ここまでいうのを聞くと、百合香も怪しいと思い始める。
「なんか、本当は気があるんだけど、恥ずかしくてそれを口に出すことができないとかいうような感じが……」
百合香が言うと、二人は同時に言う。
「そんなはずがない!」
二人の声は、見事にハモった。
その様子を見ると、百合香は疑問を確信に変えていったのだ。
「とまあ、こんな感じに二人はあなたの事を気にするような感じでしたよ」
そこまで言う百合香。廿里はその言葉にうんざりした顔をして反論をした。
「ボロクソに言われているだけじゃないか、こんなんで、どう考えれば脈があるように見えるんだよ……」
そう廿里が言うのに百合香は頭を抱えた。
「ここまでニブい奴なんでしょうか?」
そう百合香が言ったのに、何も分かっていない廿里は白い目をして百合香を見て言う。
「なにがどうニブいって言うんだよ? 今の話から、どこをどうすれば俺が二人から愛されているという発想が出てくるんだ?」
その様子を見て、百合香は呆れ返った。
「こんだけ話題にされているというのに、気が全くないわけがないでしょう? あなたって、人の気持ちがわからない人なんですね」
「ボロクソに言われた末に、言いがかりみたいに『鈍い)なんて言われる俺の気持ちもわかってくれ……」
「まったく……いらない所だけ口が達者とは聞きましたが……」
百合香がそう言うと、これ以上廿里に絡んでいく事はなかった。
「それがなかったら、少しはモテたんでしょうけど、本当に残念な男ですね」
イタチの最後っ屁みたいなその言葉には何も返さず、廿里は初葉と音院の二人が帰ってくるのを待った。




