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無限英雄2  作者: okami
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第9話『千両邸襲撃』

千両範子の屋敷。

 街外れに山を削って作られた豪邸である。

 高い鉄の柵と近代的な高いセキュリティシステムで固められた、範子姫を護る要塞である。

 姫と称したのは未婚だからである。

 ザ・ソードが鉄の柵を切り裂くと、アントル部隊は乗り込んでいく。


「極端に気配がありませんね」


「範子殿も能力者の恐ろしさは知っているからな…」


 無駄に死人は出すまい。

 アントル部隊が広い庭を半分ほど渡った所で足が止まる。


「ぬっ!?」


 バルコニーから千両範子が姿を見せた。

 庭のすべてを見渡せる位置。アントル部隊やザ・ソードたちを見下ろす位置。


「…しまった!?」


 ザ・ソードが叫んだ瞬間、空中に無数の500円玉がアントル部隊を取り囲んでいた。

 千両範子は小銭を操る事の出来る能力者である。


「大奮発ですわ」


 いっせいに500円玉がアントル部隊を襲い、ニッケル黄銅貨の嵐が巻き起こり、アントル達は爆発を起こす。


「足を止めるな!屋敷に突撃しろ!」


 飛んでくる500円玉を切り裂きながらザ・ソードは叫ぶ。

 屋敷の扉が破られる。


「千本ノオッーク!」


 その瞬間、屋敷の中から無数の硬球が飛んできて、扉に群がったアントル達を弾き飛ばした。


「へへぇ!」


 それを放った主、(はざま) 球太郎(きゅうたろう)ことサチューカンは指で鼻の下をぬぐった。

 弾かれたアントル達は再び500円玉の嵐の餌食となり爆散する。


「間さん、あがってきて下さい、あとは屋敷内で」


「あいよぉ」


 範子の言葉にいい返事をすると、間は野球で鍛えた抜群の足で屋敷の階段を登っていた。

 同時に500円玉の嵐も止む。

 残ったアントルは13体。


「…なるほど、恐ろしい能力ですわね…」


 ネヒーテがつぶやく。

 ザ・ソードの後ろにいたとはいえ、傷ひとつない。


「乗り込みましょう」


 ザ・ソードは扉へと向かう。


『ザ・ソード!』


 範子の要請で駆けつけたインフィニティ達が後ろから現れる。


「…ちっ、ネヒーテ殿、先を頼めるか?」


「ええ」


 ネヒーテは屋敷の中へと入っていく。


「ちょうどいい土産だなインフィニティ」


 刀を構える。

 インフィニティと辰葉と瞳。

 央真は作戦同時進行のテグスの方に向かっている。


「任意、先に行け、こいつは俺が食い止めよう」


 辰葉が前に出るとバディビル化した。

 ザ・ソードの前に大男が立ち塞がる。


「でかぶつが、いい的だ」


「ふんっ!」


 バディビルは唸ると、文字通り丸太のような腕をザ・ソードに振り下ろす。

 ザ・ソードはその迫った腕を持っていた刀でやすやすと切り落とした。

 が、その中の辰葉の腕に、ザ・ソードの刀をもった腕が掴まれた。


「ぬっ!?」


 切り裂いた断面の中心から伸びた腕。かなりシュールだ。


「行け!」


 バディビルはザ・ソートから目を離さずにインフィニティに言った。

 辰葉は完全にバディビルを制御できているようだ。


『はい!』


 インフィニティは力強く返事をして屋敷へと突入した。


「俺の能力は肉体そのものの強化ではない」


 辰葉の体をバディビルが覆う肉のパワードスーツ。いや着ぐるみに近いか。

 だから変身しても服は破れていのだ。

 そしてそれがバディビルのタフさの秘密であった。


「お前の剣は俺まで届かん!」


「ぬかせ」


 ザ・ソードがつかまれてない方で手を振り上げたところでバディビルは腕を放した。

 そして自分の腕を再生させる。


「…意外なところで相性の悪い相手がいたものだ」


 ザ・ソードは刀を構えた。




 廊下を行くネヒーテに硬貨のつぶてが襲い掛かる。

 ネヒーテが手で空を払うと、その硬貨は弾かれて地面に落ちた。


「まったくいちいち足止めされてしまって…」


 鬱陶しそうに呟いたところで、後ろからインフィニティが追いついて来た。


『待て!』


「あら…」


 ネヒーテはゆっくりと振り向く。


「あなたがインフィニティですか…いいでしょう」


 ネヒーテの顔に影が入る。


「少しだけ遊んであげましょう」


 ネヒーテの体が変化して怪人体になった。

 メタリックパープルの鳥を模した怪人。


(…こいつはヤバイ)


 インフィニテイはそう感じると自動小銃を構えた。

 スナイパーライフルの使えない。

 室内戦闘用装備だ。




 バディビルの太い腕をすり抜け、ザ・ソードは数度切りつけるがその傷はすべて再生される。

 そんな攻防が三回ほど続いた。

 ザ・ソードの攻撃は無効化されるが、バディビルの大振りな攻撃は見切られてしまっている。


「ラチがあかん」


 ザ・ソードは辺りを見回し、二人の戦いを見ている瞳を見つけた。

 そしてそちらに向かって走る。


「!?」


 そして瞳の腕を掴む。

 ザ・ソードがニヤリと笑う。


「ひっ…」


 瞳が声をあげそうになったところでザ・ソードはその腕を放す。


「冗談だ」


 ザ・ソードはそう言うと瞳の横に立っている細い鉄柱を切った。

 2メートルほどの長さのそれを両手で持ち、構える。

 即席の槍である。


「槍もやるのか?」


「素人さ。だがこれでお前の肉を突き抜けられる」


 ハディビルの問いにザ・ソードはニヤリと笑って答えた。




 ドンッ。


 扉が破壊されて吹き飛ばされたインフィニティが部屋に転がり、呻く。


「げぇ!」


 それに驚いた球太郎が声をあげた。

 ここは千両範子の部屋。つまり最後の部屋である。

 ネヒーテの変化した怪人アーコイドが部屋に入ってくる。


「ご案内ありがとう」


 その瞬間に無数の硬貨と硬球がアーコイドを襲った。




 ザ・ソードの『槍』がバディビルの横腹を貫いた。


「ぐうっ!」


 バディビルが苦痛を見せた。中の辰葉に少しかすめたようだ。


「堅さん!」


 瞳の声が響く。


「とどめェ!」


 ひるんだバディビルの腹に槍を突き刺した。

 中央を捉えている。致命傷だ。


(勝った!)


 そう思ったザ・ソードはバディビルの大きな腕に槍ごと手を掴まれ、そして間を置かず、もう片方の手でザ・ソードの顔を殴りつけた。


「がっ!?」


 ザ・ソードは大きく空に舞い、鉄の柵に大きく叩きつけられて地面にずり落ちた。

 バディビルは腹に刺さった槍を抜くと、辰葉に戻り、腹を押さえてその場に崩れた。


「堅さん!」


 瞳が駆け寄る。


「…あい、つは…?」


 痛みで瞳の顔も見れず、地面に視線を落としながら聞く。


「大丈夫、あれなら…」


 そう言いかけた所で、瞳は背後の気配に気がついた。

 頭部から血を流したザ・ソードが刀を引きずるように持ち、立っていた。

 影が瞳の顔にかかる。


「ああっ…」


「…利き腕で殴られていたら、即死だったかも…しれん、な…」


 刀を振り上げる。


「やめて!」


 瞳が叫ぶ。


「…やめん、よ」


 刀が振り下ろされる。

 振り下ろすというより、重力に任せて手を落とすといったところか。

 もうそれだけの力しか残っていない。

 だが十分だ。


 キンッ。


 その振り下ろされた刀を横から伸びた瞳の手刀が受け止めた。

 ザ・ソードは驚愕の表情を瞳に向ける。

 どんなものも切り裂く能力を受け止める、それが出来るのは。


「模倣、能力者…!」


 ザ・ソードが苦しげに言った瞬間、辰葉の右の拳がザ・ソードの頬を捉えていた。

 ザ・ソードの意識は、襲い来る痛みで閉じた。


「…今度は利き腕だ、死んでろサムライ」


 辰葉はそう言うと、意識を失った。




「ザ・ソードが敗れましたか…」


 範子の部屋の窓から、アーコイドはザ・ソードの敗北を知った。

 部屋は燦々たる有様で球太郎は気を失い、インフィニティのスーツはボロボロの状態になっていた。


「…はあ、はあ…」


 肩を上下させて割れたメット越しにアーコイドをにらむ。

 小銭で防御に徹していた範子は無傷だが、ほぼすべての攻撃は通じず、勝ち目は薄い。


「ここまでですね」


 アーコイドはネヒーテの姿に戻る。


「何…?」


「私は今日はお手伝いでして…指揮官が敗れた以上、ここにいる理由はありませんので、おいとましますわ」


 スーツの襟を正す。


「それでは」


 呆気に取られる範子とインフィニティの顔を見て微笑むとネヒーテは姿を消した。


  

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