第6話『拳は銃より強し』
「迅雷央真だ」
差し出された手を京介は取ると握手をする。
指ぬきグローブの皮の感触が手のひらに伝わる。
力強い腕。
長身でしっかりした肩幅にするどい眼光。
捲くった革ジャンから見える腕は筋肉質で、強さを感じさせる。
「任意京介です…よろしくお願いします」
央真はニッと笑うと手を引いた。
「私あのファッション着こなせる人はじめてみた」
半そでジャンバーにジーンズもそうだが、指貫きのグローブすら違和感がないのがすごい。
まさにヒーローだ。
『素敵だ』
「ええっ!?」
サイコの呟いた一言に瞳は驚く。
「ちょっと待ってくれ…あんたあの迅雷央真か!?」
辰葉だ。
「堅さん知ってんのか?」
「ああ、天才格闘家と言われた鉄拳のオーマ…俺が格闘技をはじめたのは、あんたの試合を子供の頃に見たからだ…」
「堅さんが子供の頃って…」
「ああ20年は前だ。
記憶の中の迅雷央真と一致する」
央真はフッと苦笑いを浮かべる。
「懐かしい話だな。そう、その迅雷央真だ」
「いやしかし…」
明らかに若い。
20代前半の青年、当然辰葉より若く見える。
「本当のトシは…今年で44だったかな? もう忘れちまったが…
俺と俺の仲間たちは20年前の人体改造で不老になった、力と引き換えに」
そしてポンと筋肉質な辰葉の肩を叩く。
「いい鍛え方してるな」
「ああ、央真さん…あんたに会えて嬉しいよ」
「俺もだ」
辰葉の目元が少し潤んでいるように見えた。
「しっかしマズいなあ」
座っていた奈月円が唸るように言う。
全員の注目が円に向けられる。
「どうかしたんですか?」
「銀河保護条例に引っかかりそうなんだよ」
円が言うにはアークスが精製したブルーパウダーは、完成品を参考にしたとしても、今の地球の科学力では不可能とされているレベルの技術とされている。
銀河連邦保護下の星の場合は技術模倣として罰せられるところなのだが、発展途上の惑星の場合は、その後の星の技術そのもののブレイクスルーの可能性アリとして保護される事になる。
「で、でも悪用でしょう!?」
「方向性はともかくとして進化には違いない。
それでその惑星内で争いが起きても、それは躍進する際に必要なものとされる」
「つまり…?」
「叩き潰すどころか、俺は技術の躍進を邪魔するお前たちを排除しなくちゃならないかもしれない」
「星の事情には無介入じゃないんですか!?」
「何事にも例外はあるんだよ」
円はウンザリ気味に言った。
「しかしまあ幸いな事に」
ニッと笑う。
「俺は今、非番中だから仕事はしねぇ。
非番の間の事は何も知らねぇし、仮に何か知っても休みが明けるまでは報告もしない」
「じゃあ!?」
「俺の非番中に何とかしろって事だな」
と舌を出す。
『とりあえず奈月円が怠慢宇宙刑事で助かったが、時間はそうないな』
「おぉい」
サイコに言い草にツッコミは一応入れておく円。
『とりあえず我々の知っている能力者をリストアップしてみた』
任意京介
天舞彩子
円奈瞳
早馬俊足
千両範子
ザ・ソード(本名不明)
堅辰葉
蛭子火男 死亡
飛翔天馬 死亡
佐羽鬼統治 死亡
罪深美々(メイクアップ)
シェイク・角照 死亡
間 球太郎
スパークリング(本名不明) 死亡
津印無我
この一年の間に佐羽鬼統治は自殺、シェイクは病死している。
「あっ…早馬さんの事すっかり忘れてたな…大丈夫なんだろうか?」
『逃げるってだけなら最も適した能力だ、心配はあるまい。警告はしてある』
ハイスピードの速度を思い出し、京介はなるほどと思った。
『奈月円は前回力を回収した際に我々の知らない能力者にもあっているんじゃないのか?
「いや、ガイオナースのネクスター狩りで、ほぼお前らだけになってたよ」
思ったより能力者自体が少ないのかもしれない。
「さてと…俺に出来ることはもうねーし、行くわ」
『どこへ?』
「墓参りと旅行。休暇を満喫してくるぜぃ」
ビッと二本指を立てて目元から上へスライドさせた。
「まあ非番が終わりの頃には覗きに来るからよ」
そういって出て行ってしまった。
「本当に行っちゃったよ」
『元々今回の休暇は両親の墓参りのために取ったと言っていたから、まあ許してやれ』
ブレインと円はそんな話もしているようだ。
『そんな事より、オーマが来てくれた事はありがたいが、インフィニティの強化は必要だな』
「出来るのか?」
『無理だ』
場が止まる。
「おおい!」
『何、戦い方を考えればいいのさ』
サイコが言うと、スーパーコンピューターの一部が開いてケースが出てきた。
『君の新しい武器だ』
京介は1メートル少しあるケースを開ける。
「ライフル!?」
そこにはスナイパーライフルが入っていた。
特撮用の玩具めいたデザインではなく、普通の軍用デザインだ。
「本物?」
『もちろんだ』
京介はケースから取り出し、二分割されているそれを組み立てる。
ずっしりとしている。
『君の増幅能力を生かして視力と銃自体の増幅で遠くから狙い撃つ』
「ヒーローの戦い方じゃねぇ!?」
『死ぬよりよかろう。
銃の使用は前回の事件の時も進言したはずだ。
今回の敵は思う存分やっつけてしまっていいようだからな、手段としては問題ないはずだ』
殺す、というところを、やっつけるとオブラートに包んだ表現をした。
「ぅうん…」
腑に落ちなさを感じながら、京介は銃をケースに戻す。
「当面の敵は俺が相手をするから心配するな」
央真がそう言ってくれたので、京介は何となく楽になった。
(…みんなすっかり忘れちゃってるんだなあ、私の能力)
黙ってやりとりを聞いていた瞳は思う。
確かにこちらの『やり直した』世界では最後にちょっと力を使った程度だったから仕方がない事ではあるが。
(奈月さんもあえて言わなかったようだし…)
瞳は黙っている事にした。
「しかし央真さんみたいに真面目そうな人が、奈月さんみたいな…」
京介は言いかけて辺りを確認する。
「…タイプと仲がいいんですね?ちょっと意外です」
みたいな、○○なタイプ。○○の部分を飲み込む。
「色が近いからかな」
「色…?」
「俺はシナバー、あいつはヴァーミリオン」
俺、で自分を、あいつを円が出て行った扉に一指し指を向けて言った。
「ああ…そういう、もんなんです…か?」
ちょっと腑に落ちない。
「仲介のヒーローがカーマインだったからな…偶然って事もないと思う」
少し自信なさげな口調になってきた。
ちなみにカーマインはレスキュー系のメタルヒーローだ。
「でも奈月さんのヴァーミリオン、白銀の戦士でしたよ?」
「事故でああなったが、本来はヴァーミリオンカラーだそうだ」
そして何故かレッドに仲のいいヒーローはいないという。
捻くれた暖色同盟というところか。