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無限英雄2  作者: okami
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第2話『機甲雷電』

 バディビルの拳がコンクリートの壁を軽々とぶち破った。


『久しぶりだ』


 この感覚。

 戦闘時のピリピリした感覚。コンクリートの壁を砕く3メートル近い巨人。

 そしてそれを倒せる自信のある自分。

 バディビルは恐ろしいほどのタフさと怪力の持ち主であったが、不思議と苦戦したことはなかった。


(堅さんあんた…無意識にストップをかけてたんだな)


 今思い出すと、そう思える。

 無機物を破壊する時の力と、インフィニティに向けられた時の力に差があるように感じたのは、当時からだ。

 それでも数メートルは吹き飛ぶし、めり込むほどの衝撃ではあるのだが、思ったほどではない。そういう印象だった。

 それだけ自分の能力が優れていると思っていたが。


(…戦ってたんだな!)


 無造作に振り下ろされたバディビルの拳をすり抜けると、インフィニティはバディビルの腹にパンチをめり込ませた。


「ぐおおっ!!?」


 体の中心をエグる攻撃に、たまらず声をあげるバディビル。


『目を覚ませよ!』


 インフィニティは叫ぶと、続けて崩れたバディビルの顔面に蹴りを思い切り横薙ぎに叩き込んだ。

 バディビルの顔が大きくぶれ、脳が揺さぶられる。

 そして大きくふらつく。


『……』


 インフィニティは追撃をやめて見守る。


「ご…お…ぉ」


 立ち上がったバディビルが弱々しく呻くと、その体が縮み始めた。

 そして辰葉の姿に戻ると、気を失って倒れた。


『…サイコ、連れて帰るから治療を頼む』


『ああわかった、待っているよ』


 天舞邸の地下深くにあるインフィニティの秘密基地。

 サイコ・ブレインのスーパーコンピューターが京介を出迎える。


「ここに来るのも久しぶりだな」


 サイコとの通信自体は頻繁にしたりするが、この場所に来ること自体はほとんどなくなっていた。

 久しぶりの秘密基地はまたかなりの機能が拡張されているようであった。

 ふうと一息つくと、京介は近くの椅子に腰をかけた。


『あの男の経歴を調べた。堅辰葉、32歳。元挌闘家。


 一年前の深夜、練習中にトレーナーと同じジムの仲間数人を殺害して逃亡。

 捕まり刑務所に服役するも幾度も脱走。最後の脱走後の行方は分かっていないそうだ』

 警察のデータベースではこんなものだとサイコ・ブレインは冷めた声で言った。


「殺害…堅さんが?」


『おそらくだが、能力が発動して制御できなかった結果だろうな。蒼い月が降った日時と一致する』


「そうか…苦しんだんだろうな、この一年」


 暗くなりそうな雰囲気を察してか、サイコ・ブレインは次の話題に移った。


『今回の蒼い雪はどうも一年前に能力が発芽した人間だけを目掛けているようだ、この街限定で』


「言い切ったな」


『彩子に何事も起きていないのが証拠だ』


 サイコ・ブレインは元々一年前の事件で肥大化した天舞彩子の頭脳をスーパーコンピューターに移植した存在である。

 宿主の天舞彩子は現在、語学留学で外国にいる。


「そうか、あいつ無事なのか…」


 ほっと胸をなでおろす。


『連絡の取れる能力者には警告はしておいた』


「任意くん!」


 サイコ・ブレインの言葉にかぶせるようにドアが開くと、円奈瞳が部屋へと入ってきた。

 制服のスカートとツインテールが風に揺れる。


「円奈…お前もやっばり?」


「ううん、自分では分からないんだけど、多分」


 この円奈瞳も一年前の能力者の一人である。

 能力は模倣能力。触れた能力者の能力を勝手にコピーする。

 その能力故、自分では気が付きにくく前回も自覚するのに時間がかかった。


『能力者反応はしっかり出ているな』


「また…戦わなきゃいけないって事かな?」


『どうかな。

 ガイオナースのような組織でもなければ、能力者の犯罪など無視してしまえばいい』


 予想外の言葉に京介と瞳は顔を見合わせる。


「おいおい、一年前に俺にヒーローになれって言ったのはお前だぜ?」


『言ったね』


「どういう心変わりだよ?」


『我々がやらなくても、本物がいるからな』


「奈月円か」


『そうだ。どうせ今回も彼が何か関わっているのだろう』


 奈月円(なつき まどか)。不可抗力ではあるが一年前の事件を引き起こした人間であり、正真正銘の変身ヒーローである。


『彼にかかれば蒼い雪の能力者など相手になるまい。君たちが苦労をして戦う必要はない』


「…何か、ヘソ曲げてないかお前?」


 京介のツッコミにサイコ・ブレインは黙る。


『…そりゃあヘソも曲がるさ。

 能力者との戦いの為にデータを集め、仲間を集め、スーツを強化し…

 それを何だ、あの宇宙刑事は。

 次元移動に人体復元に、あまつさえ手軽に時間操作だ。ばかばかしい。

 そんなのが、銀河連邦の巡査クラス装備だっていうんだからやっていられない』


 再び口を開いたサイコ・ブレインは憤慨して早口でまくし立てる。


『一度起こった悲劇的な結末を時間を戻してなかった事にした?

 ヒーローはその結末を起こさないからヒーローじゃないのか?

 個人レベルで時間を戻していいなんて、銀河連邦の倫理観はどうなってるんだ?』


 怒気をはらんではいるが、淡々と淡々と文句を言うサイコ・ブレインを京介と瞳は呆気にとられて見ている。


『…とにかくだ、何もする事はないさ。

 奈月円が事を解決するまでの間、自分の身を守る事だけ考えればいい』


 二人の反応を見て冷静になったのか、サイコ・ブレインは話を終わらせた。


「お前…大分人間らしい性格なってきたな」


「う、うん…なんかもう天舞さんとは完全に別の性格って感じ?」


 京介の言葉に瞳が続けて入ってくる。


『…元より彩子の性格とは違うように設定してあるんだから当然だ』


「それまたどうして?」


『戦うには不適格な性格だと思ったからだ』


 その答えに京介は納得した。




 京介と瞳は秘密基地から出ると、しばらく黙って歩く。


「…ちょっと付き合えよ」


 京介は目に付いた喫茶店に瞳を誘うと、中に入って紅茶を頼んだ。


「そう言えば、なんだか任意君に会うの久しぶりな気がする」


「ああ…最近あんましガッコいってないからな」


「それで進級できたんだから不思議だね」


「ちゃんと計算してんだよ」


「私にあいに来てよ、学校に」


「なんだそれ」


 流れるような会話のやりとりを苦笑で一旦止める。


「天舞さんがいない今がチャンスなのにぃ」


 瞳はぷぅと頬を膨らませる。


「…この一年、何度も能力が戻ったらって想像してたけど、いざ戻ってみると実感がないもんだな」


「私は、能力に気がついてからなくなるまで短かったからね」


 それに自分で振るうタイプの能力ではないので、力を持ったという感覚さえほとんどなかったようだ。


「またヒーローやりたいんだ?」


「どうかな」


 少し違う気がする。


「充実は、してたかな」 


 遠い目をする。

 頼んでいた紅茶を店員がテーブルに置いた。

 瞳はケーキセットを頼んでいた。




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