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無限英雄2  作者: okami
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第12話『そして戦いは終わらない』

 虹色インフィニティは倒れているシナバーをかばうように立ち上がると、構えを取る。


「もはやお前たちは敵ではないが、気が収まらないので嬲り殺させてもらうよ?いいよね?」


 姿を見せたデビル・テンタクルはテンタクルソードをゆるゆると動かすと虹色インフィニティに近づく。

 10本のテンタクルソードがいたる方向から襲って来る。

 いくつかは防ぐが、すぐに手が足りなくなり一撃を食らう。

 体勢を崩したところに次々と打ち込まれ、虹色インフィニティは再び倒れこむ。


「ははは、もはや超加速も必要ないか」


 勝ち誇るデビル・テンタクルは交代に立ち上がったシナバーに向かって言った。


『…お前の加速は見切った』


 ふらつきながら、壁にもたれ掛かったシナバーが背を向けているデビル・テンタクルに言い放つ。


「何だと?」


 と、振り向く。


『見切った、と、言ったんだ、ウスノロ』


 シナバーは仮面を外し、央真の顔を出した。

 口元に血、汗で髪が額に貼りついている。


「真っ直ぐ加速して打って来い。カウンターをお見舞いしてやる」


「虚勢を張るな、貴様にもうそんな力はない」


「もし、なんて、思っているんじゃないのか?」


 央真はくくくと笑う。


「…その頭を吹き飛ばしてやろう」


 デビル・テンタクルの姿がシナバーの視界から消えた。


(かかった)


 央真がそう思った瞬間、デビル・テンタクルの姿が現れた。

 空中で間抜けな格好で。

 飛行能力で飛んだのではない。本人も反応できていない。


「バルタイガァァ!!!」


 央真が叫ぶと、壁を突き破り、大きなメカの虎の頭が突っ込んできて、空中に舞っていたデビル・テンタクルに鼻先をぶつけた。


「どぶえっ!?」


 凄まじい衝撃とともに弾き飛ばされたデビル・テンタクルはバルタイガーが破った向かい側の壁に激突し、コンクリートを破壊してめり込んだ。


「…な、に…が…」


 事態を把握しきれないデビル・テンタクルは疑問の言葉を発する。

 滑ったのだ。

 超加速したデビル・テンタクルはゲル化した無我を踏んで、滑って、転んだのだ。

 そして央真が呼んだ巨大王虎バルタイガーに当たった。

 バルタイガーはライオネット・シナバーの獣王虎で、他のメンバーの2体の獣王機と合体する事で『獣王神カイザーライオネット』という巨大ロボットになるのだ。

 本来の相手の時は巨大化する敵怪人と毎週巨大戦闘を繰り広げていた。


「能力者に注意を払わな過ぎなんじゃねーの、おたく」


 実体化した無我がデビル・テンタクルを指差して言った。


「…ごんな、もの、ぎざ、ま…ら…」


 空ろな言葉を発するデビル・テンタクルの前に、影。

 虹色インフィニティが立っていた。


『…これで終わりだ』


「…アハッ」


 虹色インフィニティを見上げるデビル・テンタクルの口から間抜けな声が漏れ、ずるりと壁をずり落ちる。


『ハイ・ゼノ…』


「ひひっ、ひ…」


『インパクトォ!』


 ありったけの力をこめてもはや、動けないデビル・テンタクルに体にハイ・ゼノ・インパクトを打ち込んだ。



 

「よお、何とかやったらしいじゃねぇか」


 後日、京介は街で奈月円に声をかけられた。


「期日ギリってわけでもねーし、わりと楽勝だったか?」


「冗談じゃないですよ」


 円は笑った。


「円奈の能力を終盤まで使わないように、サイコと打ち合わせしてたんですって?」


 京介は少し責めるようなトーンで言う。


「切り札はとっとくもんだろ?」


 実際、最初から瞳に頼った戦い方をしていれば、勝てないまでも時間は超過してしまっていた可能性が高い。

 まして敵が瞳の能力に重点を置いて狙ってきていたら。

 最後の突入作戦も瞳がさほどマークされていないから成功したのだ。

 終わってみれば順番が少し違っていたなら展開は変わっていた、詰め将棋のような戦いであった。


「央真のヤツはどうした?」


「帰りましたよ。奈月さんにもよろしくって、何でも近いうちに大きな作戦があるとかで」


「ああ」


 円はあの事かと続けた。


「…もしかして地球の危機です?」


「ああ、かなりヤバイね。俺も多分出張る」


 『ヤバイ』らしいのに円はいい笑顔で返す。


「俺も何か手伝えないですかね?」


「やめとけ、それぞれ関わって役に立つレベルってもんがある。

 宇宙を守る戦い、星を守る戦い、国を守る戦い、街を守る戦い…」


 円は指を折り、街を守るのところで京介を一度見る。


「他人を守る戦い、家族を守る戦い、自分を守る戦い。

 お前が手を出していいのは街を守るところまでだな」


「そう、ですね…」


 今回の戦いで恐ろしい敵の上のその上の敵の上の敵、くらいの存在を知れば、納得せざるを得ないものだ。


「別に馬鹿にしたもんじゃないぜ、俺なんていい例だろ。

 星は守れても街も、家族も守れねぇんだぜ」


「……」


 なるほど墓参りか。京介はそう理解した。


「ま、だから宇宙や星くらいは俺に守らせろ」


 ちょっと自分の台詞に照れ気味に言った。 





 能力者たちは戦いの後自分たちの生活に戻っていった。

 違うのは能力を残したままというところである。

 ザ・ソードは意識は取り戻したものの、ここ数年の記憶を失い、能力の事も忘れてしまっているようで、範子のうちでボディガードとして雇われる事となった。

 その際に本名は生栖霧雄(なます きりお)と名乗った。

 間球太郎はそのまま野球選手を続行。

 範子に能力を使えば契約を切ると言われているため、実力で挑んでいる。

 元々超がつくほどの野球馬鹿らしく、苦にはなっていないようだ。

 津院無我は範子に雇われる話を蹴って、能力を使って悠々とセコい暮らしをしている。

 悪さはしているが、月に数万程度の遊ぶ金を能力で忍び込んで失敬している程度のようだ。

 普段働いてはいるらしい。


『千両範子には、後処理を任せたようで気が咎めるな』


「能力者の手綱を握れる能力者なんてあの人くらいしかいないからな」


 京介はサイコに答える。


「金の力は偉大だね」


『金の力(物理)ってのも妙な話だがな』


 堅辰葉はまた死にぞこなったと笑い、それでも何かを掴んだようで、再び旅に出た。

 早馬俊足は相変わらずバンドマンでコンビニバイトだそうだ。

 能力を生かしたギターの速弾きで注目されつつはあるようだが。


「さて、俺はどうするかな」


『とりあえずは学校へ行け』


 京介は苦笑した。


「そうそう、もうすぐ新学期だよ」


 瞳が顔を出した。


「悪の組織より手ごわい受験との戦いだよ?」


「そこに関しては戦わないという選択肢もあるしな」


 就職とか。専門学校とか。


「人生は戦いだよ、任意君!」


 詰め寄る瞳から目を逸らす。


「勘弁してくれよ~俺は十分戦っただろ~」


「人生とは全然戦ってないでしょ!」


「…じゃああの、卒業後は自分探しの旅へ…」


「自分なんてものは、どこに行ってもここにしかないんだから、旅に出ても見失うだけだよ任意君?」


「不憫そうに言うな!」


 しばらく進路は決まりそうになさそうだ。

 もうすぐ彩子も帰ってくる。

 またやかましくなるなとサイコは思った。





 暗闇。モニターに光がともると、ネヒーテが片腕で胸に軽く手を当てた。


『…そうか、支部は壊滅したか』


 モニターにはアークスのマークが表示され、音声が響き渡る。


「地下基地の機材もデータもすべて破棄しました」


『ご苦労…ところでテグスは、本当に死んだのか?』


 その声にネヒーテはそっと後ろを見る。

 薄暗い部屋の隅で車椅子にもたれ掛かり、うわ言で小さく何かをぶつぶつとつぶやいている男。

 すでに目に正気はない。


「…ええ、ライオネット・シナバーとの戦いにおいて、死亡されました」


 ネヒーテは視線をモニターに戻してそう報告した。


『…そうか、もう2年もすれば本社に呼び戻せてやれたのだが…残念だったな』


「ええ…」


『ここからは、総統閣下のお言葉だ、心して聞くがいい』


 声が少し緊張したものになる。


『ネヒーテ副官は新たに新設されるアークス支部の最高指揮官へと昇格、転属を命じる』


「は、謹んでお受けいたします」


 ネヒーテの口元が歪む。


『総統閣下も今後の活躍を期待しておられる。そのお心、裏切らぬように勤めよ』


 たかが支部の人事に総統閣下がいちいちそんな言葉をかけるはずもない。

 用意された定型文である事はネヒーテも理解している。


「は!ワールドエンド総統閣下に、血の忠誠を!」


 ネヒーテの敬礼とともに、モニターの光は消えた。

 それを確認するとネヒーテは、車椅子の男に近づき、耳元でつぶやく。


「次の戦いまで…いい夢を」


 そしてその男を置いて部屋を後にした。

 後に残された男は虚空を見つめるばかりだ。




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