第11話『突撃』
警報が鳴り響く。
「何事だ!?」
テグスが作戦司令室へと駆け込んでくる。
「ライオネット・シナバーとインフィニティがこの基地に潜入したようです」
ネヒーテが厳しい表情で言った。
「馬鹿な、どうやってこの場所が…」
「おそらくですが、ネクスター反応をたどったものと思われます」
「奴らにそのような手段が…!?」
「お気づきになってなかったのですか…?」
何度も鉢合わせしておいて、敵にネクスター反応を追う手段がないと思っていた事にネヒーテは驚いた。
偶然だとでも思っていたのだろうか。
その可能性があるからこそネヒーテは二手に分かれて能力者を襲う事を進言したのだ。
「くっ、スパル・ダーマ! 行くぞ!」
テグスは焦りを見せると、スパル・ダーマを連れて司令室を後にした。
テグスが間が抜けていたとしても。
(行動が早い)
ネヒーテも昨日の今日で動きを見せるとは思っていなかった。
もう少し戦力を整えてからだと、こちらから攻め入る余裕はあるものだと思っていた。
(無謀な特攻か…?)
「面白い」
ネヒーテは妖艶な笑みを浮かべた。
突入したアークス支部の地下基地内は、思ったほど敵はいなかった。
戦闘員に混じってまばらにアントルが出てくる程度で、シナバーは元よりインフィニティでもそう苦労はしなかった。
これは人員削減のために採用したアントルが、作戦時に数を作り、終了後には処分するという形式を取っていたためであった。
襲ってくる戦闘員も戦闘員というより警備当番員という有様で、逃げ惑う内勤員や研究員がーの数の方が多めである。
『悪の組織も様変わりしたもんだ』
シナバーは適当にブラスターを撃ち非戦闘員を混乱させて追い立てる。
「貴様ら!」
怒りの形相のテグスと、その後ろからスパル・ダーマが現れる。
『おいでなすった』
「作戦開始!」
言うが早いか、裏で待機していたハイスピードは加速してテグスたちの脇をすり抜けると、基地の奥に入っていった。
「くっ、スパル・ダーマ、追え!」
「ギッ」
スパル・ダーマも超加速を開始し、ハイスピードの後を追った。
「貴様ら、なめた真似を!」
テグスは怒りに任せて怪人体に変化した。
デッド・テンタクル、白い烏賊の怪人である。
『ヤツの相手は俺に任せろ。インフィニティは露払いを頼む』
『はい!』
インフィニティはショットガンとマシンガンを両手に持つと、近寄ってきたアントルに向けて引き金を引いた。
地下基地において空気口の存在は特に必須である。
そこからドロリしたゲルが壁をつたい、データ管理室内の地面に広がると、人型を取った。
「へへへ、進入成功と」
無我は小声でつぶやくと、破壊データの入ったマイクロディスクをポケットから取り出した。
央真が提案した作戦は、基地を混乱させて怪人の目を逸らし、その間にブルーパウダーのデータを破壊する事であった。
無我が協力する気になってこそ成立する作戦であった。
「やはりな」
声が響いた。無我はビクリとすると、ネヒーテが立っていた。
「うっ…」
「今回の作戦はこの部屋にある、ネクスターを探知するレーダーとそのデータの破壊…違うか?」
違う。
違うが、同じ部屋にそれがあったのが運が悪かった。
しかしそれだけブルー・パウダーに対しての危機感の違いに差があるのだ。
無我は再び液状化して逃げようとする。
ネヒーテは用意しておいた火炎放射器を無我に向けて発射した。
炎がゲルを炙る。
「あづぁ!?」
思わず固体化してしまう。
「侵入作戦と分かれば、誰がここに来るかなんて事は、データを見れば明らかだ」
壁にもたれて座り込んでいる無我に近づいていく。
「我々を少し、甘く見すぎだ」
無我の首を掴む。
「へへへ…どう、かねぇ」
無我は苦しそうに笑った。
「何…?」
その笑みが理解できずネヒーテの表情が歪む。
次にこの部屋のコンピューターが放電を始めた。
ネヒーテが視線を移すと、いつの間にか瞳がデータディスクをはめ込んでいた。
「馬鹿な、いつの間に!?」
「模倣能力者が誰を模倣するのかなんて、そう読めないもんな!」
無我はそういい残すとゲル化してネヒーテの腕をすり抜けると、空気口へと逃げた。
瞳もいつの間にかいない。
無我の能力をコピーした瞳が液体化して無我と混ざって侵入していたのである。
「…やられた!」
ネヒーテはヒステリックに叫ぶと、放電しているコンピューターに向けて腕を凪ぐと、破壊した。
ハイスピードは障害物を避けながら超スピードで基地内を失踪する。
後ろをちらりと見ると、これまた超スピードで飛んで追ってくるスパル・ダーマ。
ハイスピードとイージースカイの能力をあわせている。
「ギャイッ!」
蜘蛛怪人本来の能力である口から糸を吐くもハイスピードはうまく避ける。
「まったく蜘蛛が空を飛ぶなよなー!」
悪態を付きつつも注意は崩さない。
「おっ」
ハイスピードは何かに気付くと、状態をかがめて腕を地面に滑らす。
「どうだ按配は?」
「成功しました!」
今の動作は液体化した瞳を拾ったのだ。
実体化した瞳はハイスピードにお姫様抱っこされた形になった。
「よし、じゃ、もう一働きだ」
ハイスピードが瞳を放り投げると、瞳は着地し、超スピードで別方向に走り出した。
ハイスピードの能力をコピーしたのだ。
「ギッ!?」
スパル・ダーマは突如現れたこれまた超スピードで逃げる相手に、どちらを追うか迷った。
そして考えて瞳の方を追う事にした。
『央真さん! 作戦成功です、ブルーパウダーのデータは破壊されました』
インフィニティは通信を受けてそれをシナバーに伝える。
「何だと…それが目的だったというのか!?」
テグスの変身したデッド・テンタクルが声をあげる。
『ゆくゆくは街全体にばら撒く予定だったんだろう? 残念だったな』
「貴様ら…!」
その脇を瞳がすり抜け、インフィニティの横で止まる。
そして追いかけてきたスパル・ダーマはデッド・テンタクルの横で止まった。
『あとはお前たちをここで倒せば、俺たちの勝ちだ』
シナバーが前に出る。
「…確かに」
デッド・テンタクルが静かに口を開く。
「確かにブルーパウダー計画はお前たちに阻止された…が…」
デッド・テンタクルの瞳が光る。
「お前たちはここで死ぬ」
デッド・テンタクルの背中の髪のように垂れている10本のテンタクルソードが蠢くと、横にいたスパル・ダーマを突き刺した。
「ギャッ!?」
スパル・ダーマは驚きの声をあげる。
その体から、テンタクルソードを通してスパル・ダーマの力はデッド・テンタクルへと吸収される。
『くっ、させるか!』
シナバーが飛び掛ろうとすると、数本のテンタクルソードが邪魔をした。
「くはぁぁ…!」
スパル・ダーマの全てを吸収すると、デッド・テンタクルの色が変色した。
黒く。そしてパワーが満ちる。
「デビル・テンタクルス」
そして名乗る。
『それがどうした、倒すヤツがまとまってくれた手間が省けただけだ』
シナバーが逆鱗モードになる。
「ひひっ!」
デビル・テンタクルスは奇声を発すると超スピードで加速した。
『ぐっ!?』
シナバーの後ろに現れたデビル・テンタクルスはテンタクルソードの一本でシナバーをハタく。
シナバーは弾き飛ばされ、空中で持ち直し、着地する。
すでに超スピードで後ろに周っていたデビル・テンタクルスの肘打ちがシナバーの背中に決まった。
『げはっ!?』
シナバーがうめく。
スパル・ダーマに吸収させた能力まで取り込んでいる。
出会ってからここまで苦戦を見せなかったシナバーがやられている。
だがインフィニティは動けないでいた。
超スピードが見切れないのもそうだが、あの状態からさらに強くなった怪人の一撃を受ければ、ばらばらにされてしまう。
『くっそ…!』
「任意君、今となっては無駄かもしれないけど…」
瞳はインフィニティの手を握った。
『円奈…?』
「がんばって!」
インフィニティの全身から光が発した。7色の光、虹色の光。
『この力は…!?』
一年前、奈月円と殴りあった時の光。
「今まで黙っててごめん、虹色インフィニティだよ!」
京介が増幅した力を、さらに模倣した瞳の増幅能力で増幅する。
『そうか…あの時の力、お前がくれたんだな…!』
インフィニティは拳を握ると虹色の光がはじけた。
超スピードとテンタクルソードで弄ばれているシナバー。
『ぐっあっ…!』
痛みで動けないところに迫ったテンタクルソードを虹色インフィニティがはらった。
『…お前…!』
『ちょっとは戦えるみたいです、俺も』
シナバーと虹色インフィニティは背中合わせになって構えた。
これで少なくとも後ろは守れる。
「ほぉう…ここに来て妙なパワー見せたな、だが、無駄だ!」
デビル・テンタクルスはそう叫んで加速し、消えた。
辺りが静かになる。
2人のヒーローは警戒する。足音もしない。
『……』
「ここだぁ!」
声とともに頭上に現れたデビル・テンタクルスは、テンタクルソード10本を束ねて、そのまま真下に突っ込む。
咄嗟に2人は散開するが、背中に大きくダメージ追い、地面に転がる。
「はははははは!」
テンタクルソードを体後と回転させると、左右に転がったヒーロー2人を弾き飛ばす。
「ああ…虹色インフィニティでも勝負にならない…!」
瞳が泣きそうな声で言う。
『はあ、はぁ…一瞬、スキが一瞬出来れば…』
「スキが出来れば何とか出来んのか?」
呻きながら言ったシナバーのつぶやきに、誰かが答えた。