自由
scene#9 cut#1
バスは終点、丘の上キャンパス停留所で停止。
松之と夏名も、流れに乗って下車した。
バイク・パーキングは、バス停より坂の下にあるので
二人は、深町が坂を登ってくるのを待った。
「....おーい!」
深町は、鷹揚に手を振りながら。ヘルメットを腕に掛けてちょこちょこと歩いてくる。
この歩調と、彼の雰囲気が不釣り合いなところは
なんとなく、特徴的なところだが....
「おーい、じゃないよ、こら、シュウ。」
松之は、ちょっと怒った口調で。
「なんだぁ?どうしたの、マツユキくん?」
深町は、ちょっとおどけて答える。こんなところは
彼一流のユーモア、(の、つもり)。
「危ないだろ、あんな事して。」と、松之は憮然と。
「そうかねぇ....オートバイ乗り ってあんなもんじゃないか?」
と、深町はごく平然と。
「危ないです!あんな事はやめてください!」
突然、夏名がソプラノで半ば、シャウトっぽく叫ぶので
松之も、深町もちょっと唖然として、夏名を凝視した。
「夏名ちゃん....?」
「カナ、ちゃん....?」
「心配したんですっ。死んじゃうかと思ったじゃないですか!」
本気で怒っているのか、夏名は顔を強張らせて。
瞳にうっすら涙すら滲ませていたので、松之も深町も
もう、何も言葉を掛ける事ができなくなった。
ひとりで、キャンパスへの登り坂、ちょっとした林の中にある
その道を登っていった夏名の後姿を見送りながら、ふたり....
「ああ、驚いた」と、松之。
「うん、びっくりしたな」と、深町。
「なんかあったのかな....」と、深町は言う。
さあ、知らないけれど...と、松之は答える。
ほんのさっきまで喜んでたのに、と、松之は
バスの中でも情景を話した。
そうか、と、深町は笑いながら
「でも、ああいう子と結婚すると結構....楽かもな」なんてヘンなことを言うので
松之はなぜ?と尋ねてみた。
ちょっと興味があったのだ。
深町はちょっと困ったような顔をして「うん、だってあの様子だからさ...
今だってしちゃいけない事してたのは俺の方だしな。結構コントロールされるんじゃないかな」
なんて、言うので、松之はまた、笑い出したくなる。
自由を絵に書いたような深町が、制御されたいと思うなんて。
そういう意味の事を松之が、深町に言うと、彼はまた困惑した面持ちで
「いや、俺は自由なんかじゃないよ」と。真面目に言うので松之は思わず吹き出した。
なんだお前、俺が真面目に話してるのに。コノヤロー、と深町が怒るので
松之はなんだか愉快になって、からかうように走って逃げた。
子供の頃のように。
子供の頃、シュウと一緒だったら楽しかっただろな...そう思いながら。




