かな
「先輩?バスきました。」
カナちゃんの声で我に返る。
海老茶と白の古ぼけたバスが、バス停に入ってきて
これから、また、いつもの日常のはじまり。
でも、何かが違う、ような気がする。どこかに希望があるような....
そう、古い神話にもあった。女神が禁断の箱から取り出したのも「希望」だったっけな....。
と、僕は、小雨がぱらつく舗道を見下ろしながら、床油の匂いがするバスのステップに立ったまま
桜花が舞い降りる様を思い浮かべていた。
scene #4 cut #2
バスは割と空いていた。
夏名はそれでも車内をさっ、と見渡して「あ、先輩!あそこ空いてますよ。」
とことことこ...と、空席に向かって小気味良く。
ちょこん、と腰掛けて、松之が来るのを待っている。
可愛いな、と、松之は思う。
でも、どことなく違和感を禁じえなかった。それは、彼なりの秩序感覚のようなものだろう。
現在では、夏名のように自由に競争して席を得るのが普通になっている。
でも....
彼、柳松之の祖先は中国で代々栄えた階級の出である。当時は劉、と名乗っていた。
そういう土着感覚があるのだろう。席、のような些細な事で争う事には馴染めなかった。
...もし、リョーコさんなら....
やはり、泰然と振舞うだろう、もちろん、空いていたら着席するだろうけれど
誰か、困っている人に席を譲ってあげるのではないだろうか。
と、無意識に彼は、桜花舞う中で出会った昨日の事を思い出している。
無論、これは彼の空想であるし、夏名とて、やはり困っている人が居たら席を譲るだろう。
好意を持って想う人と同じでありたいと思う同化の感覚である。
...そう言うところが稀有なのだろう。でも...
リョーコさんのような人は不利益を被る事が多いのではないかな?
そう松之は思う、そして、若々しい自負と開拓精神とが混じったような感覚で
決意を新たにする。
法秩序を司る人になろう。困っている人を法律で守ろう。
以前から漠然とそう思っていた。この春の出会いはたぶん、その起爆剤。
松之の中の正義感は、恋愛、の感覚を得て、それを慈愛、として展開した。
彼の脳裏を、大学構内に張り出されていた行政書士試験案内の張り紙がかすめる。
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試験日:11月第2日曜日
受験資格:不問
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とあった。司法試験なら大学を卒業してからでないと受験できない、だから今、
とりあえず、なんでも良いから挑戦したい、と思った。
「どうしたんですか?先輩?...」
夏名は、黙って考えこんでいた松之を気遣う。彼女なりの感覚で。
そんな夏名をやはり可愛いと、松之は思う。「今」の感覚で現世を生きている。
それは当たり前の感覚、普通の若い女の子のありのままの姿。
........。




