人界での依頼
明るい昼の陽ざしが差し込む中、ウルペクラは普段活動の中心となっている魔界から出て人界にやってきていた。
人界には、シンフォニア王国、アルクレシア帝国、ハイドラ王国の三国が存在し、彼女が今回訪れているのはシンフォニア王国の王都にある屋敷で、過去に幾度となく足を運んだ場所であり……シンフォニア王国の王都に有りながら『あらゆる国や政治形態に属さない』という特殊なルールのある場所であった。
「……いや~本当に急なお願いをしてしまって申し訳ないっす」
「気にしないでください。妾は絶対者、助力を求める者の手を振り払うことなどありません」
「助かるっすよ。あっ、お金は不要ってことでしたけど、それじゃ申し訳ないので死の大地で採れた特産品をいくつか持ってきたんで、よろしければ貰ってくださいっす」
「ありがとうございます。せっかくのご厚意ですし、受け取らせていただきますね」
ウルペクラの前に居るのは、夜の星空のような髪の一メートルほどの体躯の少女……この屋敷の庭にある世界樹の精霊であるネピュラだった。
ネピュラはそれは素晴らしい物作りの腕前を持ち、今回ウルペクラはとある目的のために彼女にアイスクリスタルと呼ばれる高価な結晶の加工を頼みに来ていた。
快く請け負ってくれたネピュラに感謝しつつ、納期などを簡単に打ち合わせをして話がひと段落したタイミングで、幼く可愛らしい声が聞こえてきた。
「あ~! ウルちゃんだ! いらっしゃい」
ウルペクラを見て嬉しそうに駆け寄ってくるのは、膝下まである長い白髪と灰色の目が特徴的な130cmほどの小柄で可愛らしい少女であり、その姿を見たウルペクラも明るい笑顔を上げる。
「お~リン、久しぶりっすよ。また背が伸びたんじゃねぇっすか?」
「ふふん、成長期だからね~。このままいっぱい大きくなって、番と同じぐらいの身長になるんだ~」
「おっ、それじゃあ、アタシも近い内に追い抜かれちゃうかもしれねぇっすね」
「えへへ」
駆け寄ってきた少女……リンドブルムの頭をウルペクラが撫でると、リンドブルムは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
彼女は世界の特異点たる宮間快人のペットである白界竜リンドブルムであり、現在は人化の魔法で人型になっている。ウルペクラにとっては顔なじみの相手であり、比較的年齢が近いこともあって仲良くしていた。
「ウルちゃんは、番に会いに来たの?」
「ああいや、ネピュラさんにちょっと頼みごとをしに来たんすけど、いらっしゃるならカイト様にも会っていきたいっすね」
「ん~残念! 番は、朝からリリアちゃんたちとピクニックに行ってるよ~」
「ありゃ、それは残念っすね。リンは一緒にはいかなかったんすか?」
「うん。今日は、番はリリアちゃんたち家族と水入らずだから、行かなかった。あと、私はヒナちゃんと一緒にパフェ食べに行く約束してるから」
今回の主目的はネピュラへの依頼ではあったが、快人はウルペクラにとっては父親のように慕う相手であるため、会えるならぜひ会っていきたいとは思っていた。
だが、残念ながら外出中のようではあった。とはいっても、あくまで居るなら会いたいなぁ~程度だったので、それほど気にした様子もなく苦笑を浮かべていた。
「お~パフェっすか、いいっすね」
「ウルちゃんも一緒に行く?」
「ん~魅力的ではあるっすけど、ここに来る前にニフティの店舗でスイーツ食べてきたばっかりなので、遠慮しておくっす」
「了解!」
「あはは、元気のいい敬礼っすね」
ビシっと可愛らしく敬礼をして言葉を返すリンドブルムを見て、ウルペクラは微笑まし気な表情を浮かべる。
するとそのタイミングで、ふとリンドブルムがなにかを思い出したように口を開いた。
「……あっ、そういえば、アンリちゃんだけはきんきゅーかいぎ? っていうのでピクニックじゃなくて、お城に行ったよ」
「あれ? そうなんすか? それはそれは、また落ち込んでるでしょうね……せっかくですしちょっと顔でも見に行くっすかね」
そんな風に呟きながら、ウルペクラは王都の中央からやや北寄りに見える王城に視線を向けた。
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シンフォニア王国王城にある大会議室では、シンフォニア王国の政治の中枢といえる役職の者たちがあつまっており、真剣な表情で話し合いを行っていた。
「――以上が、現時点で発生している問題点と今後の展望になります。いかがでしょうか、陛下?」
「うん、綺麗に纏まってて分かりやすいよ。内容に関しては、どうしてもある程度の問題や混乱が出てくるのは仕方がないとは思う。だけど、それはあくまで新しい試みに対する困惑を主としたものであるべきで、それ以外のルール的、設備的な混乱はしっかり煮詰めて潰してから実行するべきだね。ひとつずつ話していこうか、まずは……」
会議室内で最も権威のある者が座るであろう雰囲気の席に座っているのは、やや暗めの金髪をセミショートに纏め、邪魔にならないようにヘアピンで止めた青い目の女性だった。
少女と大人の中間のような若々しい雰囲気ながら、発する気配には威厳が溢れており、軽い口調で告げられる言葉ひとつひとつに不思議な重みがあり、場を支配しているかのような存在感があった。
「――この辺りは、ラグナ陛下とかの方がノウハウを持っているだろうから、情報をいただけるように話を通しておくよ。予算の割り振りに関しては、基本は財務大臣を主として取り決めてもらうけど、初回のみじゃなくて今後継続して実施する上での想定予算案も合わせて練っておいて欲しい。広報に関しては、三日前に宰相補佐から出されていた案のうちから……」
女性の名はアンリ・リア・シンフォニア20世……本名はアンリ・アルベルト。
世界の特異点を父に、稀代の天才を母に持ち、若くしてアルクレシア帝国の皇帝クリスや、ハイドラ王国の国王ラグナと対等以上に渡り合う存在。
圧倒的な支持率と国民人気を持つ現シンフォニア国王にして……シンフォニア王国史上最高の王との呼び声も高い傑物である。
~ちょっとキャラ紹介~
【リンドブルム】
本編では竜の姿のみだったが、現在は人化の魔法も覚えて人型になれるようになっている。
いまは肉体の成長期が訪れており、人間などに比べれば非常にゆっくりと成長している。本人的に理想の見た目はシャローヴァナルのような体型らしく、身長などもその辺を目標にしている。
ウルペクラとは比較的年が近いこともあって仲が良い。陽菜とはパフェ好き同士、よく一緒にパフェを食べに行っているらしい。
快人の事は番と認識しており、そう呼んでいる。
【ネピュラ】
外伝でも絶対者。




