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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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死の大地に住む者たち

事前に本編で告知していた通り、未来の魔界を舞台にした外伝のスタートです。

今日第一話、明日第二話、それ以降は隔日更新となる予定ですのでよろしくお願いします。



 神界、魔界、人界、三つが次元の壁を隔てて連なるように存在する世界……トリニィア。三界の中で最も広大であり多種多様な種族が住む魔界には、圧倒的な力を持つ六体の王と呼ばれる魔族、通称六王が存在していた。

 冥王、死王、界王、戦王、竜王、幻王、いずれ劣らぬ圧倒的な存在……そのうちのひとり、死王アイシス・レムナントの治める地は魔界の最北に位置し、死の大地と呼ばれる極寒の地だった。


 その死の大地には巨大な城があり、そこには死王アイシスに付き従う死王配下或いは死王陣営と呼ばれる者たちが住んでいた。

 魔界には一種の階級制度のようなものがあり、一定以上の力を持つと認められた者は幻王配下によって爵位級高位魔族という称号の認定を受ける。


 男爵級、子爵級、伯爵級、公爵級……侯爵級は存在せず、また特殊な一体の魔族のためのメイド級という称号も存在するが、基本的には公爵級が最も上で男爵級が一番下である。

 いちおう公爵級の上が王ではあるのだが、公爵級と比較しても六王の力はあまりにも隔絶しており、六王という存在が生まれて以降新たな王となった魔族は存在しない。

 そもそも男爵級高位魔族であっても、選ばれた一握りの天才にしか到達できない高みであり、100億を優に超える者が住む魔界に置いて、爵位級高位魔族は5万弱という極めて少ない選ばれし者たちであった。


 そんな魔界において、死王配下は六王陣営の中では最も少数の総勢48人でありながら、その全員が爵位級高位魔族という少数精鋭と呼べる者たちであり、その全員が死の大地にある死王アイシスの居城で暮らしていた。


****


 死の大地にある死王アイシスの居城の廊下を、どこか楽し気に歩く小柄な少女の姿があった。白銀のセミショートの髪に狐のような耳、茶色の瞳の幼さが残る顔立ちの狐型獣人魔族。異世界において巫女服と呼ばれる上着に、スカートとレギンスという格好も特徴的だが、それ以上に目を引くのは十本の巨大な白銀の尻尾だった。

 その尻尾を上機嫌に揺らしながら歩くのは、死王配下幹部『六連星(むつらぼし)』のひとりであり、狐妖星(こようせい)という通り名を持つ公爵級高位魔族……ウルペクラ。


 男爵級高位魔族ですら数万年の鍛錬を経て辿り着く魔族が多い中、最上位の公爵級まで百年未満でたどり着いた稀代の天才魔族である。


「ふふふ~ん。今日は珍しく晴れてていい天気っすね。死の大地じゃ珍しいっすから、これだけでテンションも上がるってもんですよ」


 廊下の窓から差し込む日差しを楽し気な表情で眺めながら歩いていたウルペクラの耳に、戦闘の音のようなものが聞こえてきて、彼女は窓に近付いて外を見た後で呆れたようなため息を吐いた。


「……騒がしいと思ったら、またシリウスの馬鹿とラサルの阿呆が喧嘩してるんすか……いつも通りと言えばいつも通りっすけど」


 窓から見えたのは、城からある程度離れた場所で結界魔法を展開しぶつかり合っているふたりの魔族……ウルペクラと同じ六連星に属する幹部であり、天刃星(てんじんせい)シリウス、地縛星(ちばくせい)ラサル・マルフェクだった。

 犬猿の仲と言っていいふたりはことあるごとに喧嘩をしており、死王配下にとってはこのふたりの喧嘩は見慣れたものである。


「はぁ、やれやれ、たまにはおとなしくしてほしいもんすね」


 そんな風に呟きながら窓を開け……着弾地点で激しく爆発する魔法を丁寧に隠蔽を施した後で、両者がぶつかる中心に向けて放ってから、ウルペクラは何事もなかったかのように廊下を歩きだした。

 するとほどなくして進行方向から歩いてくる人物を見かけた。


「おっ、イリスじゃないっすか」

「ウルペクラか……さっきの爆発音は貴様だな」

「善意から喧嘩の仲裁したんすよ」

「やれやれ、また追いかけ回されても知らんぞ……」


 現れたのは上下ともに黒色に統一された魔導士風の服を着た灰と黒のツートンカラーの髪の女性。彼女は六連星のリーダーであり、死王配下筆頭でもある黒暴星(こくぼうせい)イリス・イルミナスである。

 ウルペクラの姿を見て、少し前に聞こえた大きな爆発音が悪戯好きのウルペクラが行ったものだと察したイリスは、どこか呆れたように呟く。


「こっちに歩いてきてたってことは、イリスは食堂っすか?」

「ああ、そろそろ夕食の献立を考えようかと思ってな。せっかくここで会ったのだ。お前にも聞いておこうか、なにか食べたいものはあるか?」

「う~ん……ホワイトシチューっすかね!」


 ウルペクラやイリスのような高位魔族にとって食事は必須ではなく一種の娯楽ではあるのだが、イリスは料理が趣味であり、またそんな彼女や王であるアイシスに釣られて、死王陣営では朝と夜に全員で食事をするのが恒例となっており、その調理を取り仕切っているのがイリスである。


「ふむ、シチューか……たしか、少し前に仕入れた鶏肉がまだそれなりにあったな。悪くないかもしれんな」

「はいはい! アタシ、パイで包んだやつがいいっす!」

「まだシチューにすると決めたわけではないのだが……まぁいい、一考しておこう」


 手を挙げてリクエストをしてくるウルペクラを見て、イリスはフッと微笑んだ後で軽く手を振って食堂の方に向けて歩き出し、ウルペクラもその後ろ姿に軽く手を振ってから再び廊下を歩き始めた。


 すると進行方向の先に見知った人物を見つけた。腰まである少し青味の入った白髪、貴族の令嬢のようにも見えるチュニック風の上品なドレス、髪に瞳の色と同じ青い結晶のような花の髪飾りを付けた女性で、窓の外を見て穏やかに微笑んでいた。


「スピカは、日向ぼっこっすか?」

「うん? あ~ウルや。いや~朝ご飯を食べた後で、食後にちょおのんびりと景色でも見てたんよ。今日はええ天気やな~」

「……朝食って五時間ぐらい前っすけど、それからずっとここに居たんすか? まぁ、スピカらしいと言えばスピカらしいっすね」


 女性の名はスピカ、ブルークリスタルフラワーという青い結晶のような花の精霊であり、ウルペクラと同じく死王配下幹部六連星のひとりであり、晶花星(しょうかせい)と呼ばれている。

 スピカは魔界一と言っていいほどののんびり屋であり、死王配下に加わる前はそれこそ数十年単位で同じ場所にとどまってのんびりしていた様な人物であり、食後に五時間程度のんびりしているのは、本当にいつも通りと言える光景だった。


「けど、そうやね。そろそろブルークリスタルフラワーの花畑の手入れでもしようかな?」

「おっ、じゃあアタシも手伝うっすよ。水やりなら任せて欲しいっす」

「お~それは頼りになるなぁ。せやったら、一緒に行こうか~」

「了解っす」


 ウルペクラとスピカは、性格的な相性もあって非常に仲が良くふたりで行動することも多い。今回も居城の近くにあるブルークリスタルフラワーの花畑の手入れに行こうとするスピカに、ウルペクラが手伝いを申し出てふたり並んで廊下を歩き始めた。

 髪の色などが似ていることもあって、並んで歩いていると姉妹のようにも見える。


「そういえば、またシリウスとラサルが外で戦ってたっすよ」

「いつも通りで仲がええな~。近くでやっとったら、またイリスに叱られそうやけど」

「そうならないように、アタシが吹っ飛ばしときました」

「それなら安心や……うん? 安心やろか?」


 そんな他愛のない雑談をしながら歩くふたりの前から、白いとんがり帽子を被った魔女のような見た目の女性が歩いてきて、ふたりを見て軽く手を上げる。


「やぁ、ウルペクラにスピカ、奇遇だね。奇遇ついでに尋ねたいんだが、筆頭殿を知らないかい?」

「ああ、さっき食堂に向かって行ってたっすよ」

「ポラリスはイリスになにか用事なん?」


 現れたのはウルペクラとスピカと同じく六連星のひとりである極北星(きょくほくせい)ポラリスであり、どうやらイリスを探している様子だった。


「ああ、紅茶でも淹れてもらおうと思ってね」

「自分で淹れろって言われるだけだと思うっすけど……」

「ははは、私もそう思うが筆頭殿が淹れたほうが美味しいのだから、物は試しに言ってみるつもりだよ。ともかく助かったよ」


 ウルペクラの言葉に苦笑を浮かべ、軽く手を振った後でポラリスは食堂に向かって行く。ポラリスはイリスと仲がいいので、紅茶は建前で茶化しに行くだけだろうと察し、ウルペクラとスピカも顔を見合わせて苦笑した。


****


 彼女たちが住む居城から少し離れた場所に、スピカが管理するブルークリスタルフラワーの花畑がある。青色の結晶のような花びらが特徴的なブルークリスタルフラワーが一面に咲き誇る光景は非常に幻想的で美しい。

 ウルペクラとスピカがその花畑に辿り着くと、そこには先客がいた。

 体長にして三メートルほどの、全身が特殊な金属でできたゴーレムのような存在であり、椅子に腰かけて巨大なキャンパスに絵を描いているようだった。


 そして、その直後に赤いモノアイがぐるっと後頭部に移動するとともに、響くような声が聞こえてきた。


『やや? これはこれは、ウルさんにスピさん、今日は良い天気でありますな。明るい日差しに照らされるブルークリスタルフラワーの花畑の美しさときたら……小生の筆もいつもより乗っている気がするであります!』

「リゲルも来てたんすね」

「リゲルは絵を描いてるんやね~。お~相変わらず上手いなぁ」

『ふははは、流石スピさんはお目が高いでありますな。小生の溢れる芸術性が、キャンパスに煌めいていることでしょう!!』

「うん? 光る絵の具があるってことやろか?」

『おおっと、素敵な天然を発揮したキラーパス……小生の技量では処理が難しいであります』


 そのゴーレムの名はリゲル……死王アイシスが死の大地の地下で見つけた空洞の最奥に封印されていた謎の金属で作られて、よく分からない謎の動力で動くゴーレムであり、アイシスが発見して以降は死王配下に加わっている。

 絵を描くのが趣味であり、いまも美しいブルークリスタルフラワーの花畑の風景画を描いているところだった。


『ここは必殺の話題転換を使うであります』

「話題転換でなにを必殺する気なんすかね……まぁ、いいっす」

『では、話題転換します……ムジさんもそっちにいますよ』


 そういってリゲルが指さした方向の先、少し離れた場所には黒色のつば広フェルトハットを被り、黒い服に黒いコートと全身黒い服で固めた30cm~40cm程度の小柄な……赤髪のセミショートヘアで、翡翠のような色合いの目をした妖精族の少女が、足を組んで寝転がっていた。


「おっ、ムジカも居たんすね」

「……その名で呼ぶな。俺の名は……シャドー……そう呼んでくれ」

「……前はヴォイドとか言ってなかったですっけ?」

「それは捨てた過去の名だ。いまの俺はシャドー……ふっ、妖精族のはみ出しものには相応しい名だ」

「そうっすか……で、ムジカは昼寝っすか?」

「シャドーだ……昼寝というわけではなく、ハーモニカでも演奏しようかと思ってたところだ。今日の日差しは日陰者の俺には眩しすぎる。だがまぁ、彩ぐらいは添えてやってもいいだろうさ」


 自称シャドーと名乗る少女の名はムジカ……死王配下の一員であり、本人曰く妖精族のはみ出しもの。なにやら拘りがあるらしく、ニヒルでクールな性格でダークな存在だと……本人だけはそう思っている。

 妖精族の住処を単身で飛び出して、あちこちを放浪した末にアイシスの配下となった存在であり、他の妖精族がそうであるように演奏が好きらしく、ハーモニカを演奏していることが多い。

 なお、余談ではあるが有翼族に心の友が居るらしい。


『ムジさん!』

「シャドーだ」

『じゃあ、シャドさん! さっきから聞きたかったでありますが、ど、どうしてそんなに距離を取るでありますか!? 小生の肩とか空いてますよ。演奏するにはベストスポットでありますよ!』

「……」

『な、なぜそんな冷たい目をするでありますか……小生がいま、美少女モードじゃないからですか!? 確かに小生はロボットモード、ビーストモード、美少女モードと三形態に変形できるロマンの化身でありますが、今日はロボットモードの気分なのであります。で、でも、シャドさんが望むなら……美少女モードになるでありますよ?』


 ちなみにリゲルとムジカは仲がいいというか、基本的に普段からいつもふたり一緒に行動している。今回も近くに居ることは間違いないのだが、なぜか距離を取って演奏をしようとするムジカに対してリゲルが抗議の声をあげた。

 そんなリゲルを見て、ムジカは呆れたようにため息を吐いて口を開く。


「……モードとかじゃない。単純にうるさくてハーモニカの音が乱れるから、演奏する時は離れてるだけだ」

『……声とかは小さくするでありますよ?』

「いや、存在が……」

『存在がうるさい!? 小生の存在そのものが、うるさい!? ひ、酷いでありますよ、シャドさん!』


 面倒臭そうな様子で答えるムジカに対して、リゲルは無駄に感情たっぷりの声かつオーバーなリアクションで抗議するが、悲しいかなリゲルの訴えに同意は得られないどころか、追撃が入る。


「……正直分かる気がするっす」

『ウルさん!?』

「確かにリゲルはなぁ……」

『スピさんまで!? いつものほんわか優しい貴女はどこに!? 酷いであります! いいんですか、そんなにイジメたら小生泣きますよ? ギャン泣きしますよ? ボリュームMAXのギャン泣きで、真のうるささってのを分からせるでありますよ?』

「……はぁ、面倒なやつ」


 リゲルの言葉にムジカは呆れたようなため息を吐き、ふわりと浮かび上がって移動してリゲルの肩に腰かけて座った。


「ほら、これで満足か?」

『シャ、シャドさんっ……もうっ、シャドさんってばいつもツンデレなんですから!』

「うるさい時に、顔近い方が殴りやすそうだしな」

『酷いっ!?』


 呆れたようにリゲルに答えた後で、ムジカはおもむろにハーモニカを取り出して演奏を始めた。年間を通してほぼ雪か曇りの死の大地では珍しい晴天であり、太陽の光に照らされたブルークリスタルフラワーが煌めきながら風に揺れ、ハーモニカの音色が彩を添える。


 どこか物寂しさと幻想的な雰囲気を感じる美しい演奏を、ウルペクラ、スピカ、リゲルの三人は静かに聞く。少しして演奏が終わった様で、ムジカはハーモニカを消し……片手の人差し指で帽子のつばを押し上げつつ口を開く。


「……美しい光景を見た時に寂しさを感じたことは無いか? 目の前に広がる絶景、美しく幻想的な世界……それはすぐそこにあるはずなのに、なぜか己の立っている場所だけその美しい世界から切り離されているような……近い筈なのに遠い、そんな寂しい感情を感じたことは?」

「特に無いっすね」

「…………」

「あぁ、嘘っす! 滅茶苦茶感じたことがあるっす! だからそんな、しょんぼりした顔しないで欲しいっす。アタシが悪いみたいに感じるじゃないっすか……」


 同意を求めるように告げたムジカに対して、即答で「特にそんなことはない」とウルペクラが返答したことで、ムジカは明らかにシュンと肩を落とし、それを見たウルペクラは慌てて前言を撤回した。


「……お前の悪戯好きにも困ったものだな。そう、お前も感じたことのあるように美しい世界と己の立つ場所に差を感じることはある。だがそれは決して美しい世界が手の届かない場所ってわけじゃない。世界が位置を変えるわけじゃない。近寄るのも遠ざかるのも、世界ではなく己だ。美しい世界を遠いと感じるなら、それは踏み出してないから……美しい世界に存在したいなら、己自身で踏み出さなければいけない……それは、それぞれの生きざまってやつも……そうなのかもしれないな」

「う、う~ん、結局なにが言いたいんすか?」

「なに、俺もたまには足を踏み出してみるのも一興ってことさ……ふたりで来たってことは、花畑に水やりをするんだろ? タフな仕事だ……手を増やしてみる気はあるか?」


 回りくどいことを長々と語ったムジカだったが、つまるところ……自分もブルークリスタルフラワーの花畑への水やりを手伝おうという申し出であり、それを聞いたスピカは嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「お? なんや、ムジカも手伝ってくれるんか?」

「……まぁ、たまにはな」

「いや、タイミングおうたらいっつも手伝ってくれるような?」

「た ま に は な !」


 なお、ムジカは本人はニヒルでクールな一匹狼と思っているが、実際は普通に心優しい性格であり……スピカが水やりを行うタイミングで会ったなら、ほぼ確実に手伝いを申し出ている。


『もちろん、小生も手伝うでありますよ!』

「「「……」」」

『なぜですか? なぜ、小生が手伝うと告げた瞬間、そんな微妙な顔をするのでありますか?』


 元気よく手伝いを申し出るリゲルであったが、その言葉を聞いた三人はなんとも微妙そうな表情を浮かべた。そして、スピカが苦笑を浮かべながら口を開く。


「いや~気持ちはすごく嬉しいんよ。それに、なんだかんだで実際そんなことにはならへんて分かってるし、過去にそうなったこともないんやけど……なんでかな? リゲルがやると、うっかり花を踏んだりしそうな感じが……」

「分かるっす」

「なんか、実際の能力はともかくとして存在がポンコツなんだよな」

『お三方? 小生相手ならなに言ってもいいわけじゃないでありますよ。小生の繊細なアイアンハートはボロボロですよ! ロボ虐もいい加減にして欲しいであります!』

「……アイアンハートってむしろ図太い時に使う表現な気がするっす」


 ワイワイと騒ぎながらもなんだかんだで死王配下同士は皆仲が良く、四人仲良くブルークリスタルフラワーの花畑への水やりを行っていった。



****



 ブルークリスタルフラワーへの水やりを終え、引き続き絵を描くリゲルとそれに付き添うムジカと別れ、ウルペクラとスピカは居城に向かって移動していた。


「スピカは戻ったらなにするんすか?」

「う~ん。なにしようかなぁ~とりあえずは、一仕事終えたんやし、景色でも見て一息付こうかな~」

「スピカの場合は、それやると確実に夕食までぼ~っとしてることになりそうっす」

「そうやね~夕食の時間になったら、呼びに来てな~」

「あはは――うん? ふむ……」


 相変わらずのんびり屋であるスピカの発言にウルペクラは楽し気に苦笑していたが、なにやらその途中でウルペクラの狐耳がピクリと動き、足を止めて考えるような表情になった。

 そして少しすると、ウルペクラは手を左右に広げると、唐突に球体状に固めた魔力……魔力弾を放った。


「ウル? いきなりどないしたん? ちゅうか、魔力弾なんて撃ったら危ないで?」

「ああ、大丈夫っす。ちゃんと広域探知かけて安全な軌道で撃ったんで……うまく当たるかどうかは、運次第っすけどね」

「当たる? なんにやろ?」


 ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべるウルペクラに対し、スピカは不思議そうに首をかしげる。しかし、悪戯が好きなウルペクラはたびたびそういった唐突な行動を取るので、いつも通りと言えばいつも通りであり、すぐに気にしないことに決めたのかウルペクラと一緒に歩き出す。


 そして、少しして居城の前まで惑ってくると……そこには見覚えのあるふたりがいた。


 片や甲虫を思わせる玉虫色の外殻、人と虫が融合したような姿で腰に六本の剣を差した女性……天刃星シリウス。

 片ややや小柄な体型に長い髪、黒いローブをきてフードを被り身の丈を越える巨大な棺桶を担いだ女性……地縛星ラサル・マルフェク。

 共に六連星に名を連ねる公爵級高位魔族であり、死王配下の幹部……そのふたりが、明らかに苛立った様子で待ち構えていた。


「おっ、ラサルにシリウスっすね。喧嘩は終わったんすか?」

「……あア、おかげさまでナ」

「……我々が戦っている最中に、それはもう見事な隠蔽魔法が施された強力な魔法が飛んできたのだが……貴様だな、ウルペクラ」


 そう、ふたりが待っていたのは喧嘩の最中に突如飛来して両者を吹き飛ばした爆発性魔力弾を放った犯人であろうウルペクラに文句を言いに来ていた。

 余談ではあるが、シリウスとラサルは反応が面白いのか、悪戯好きのウルペクラのターゲットになることが多く、今回だけでなく日頃から頻繁に悪戯の被害にあっており、今回も考えるまでもなく犯人はウルペクラであると断定してやってきていた。


「覚悟はいいナ、性悪狐……説教の時間ダ」

「大人しく付いてきた方が身のため……うん? なぜ、懐中時計を出す?」

「……あと10秒っすね。7……6……5……」

「「うん?」」

「あ~さっきのは、そういう……」


 凄むふたりの前でウルペクラは懐中時計を取り出して、カウントを始める。意味が分からずシリウスとラサルは首を傾げ、スピカは納得したように気の毒そうな表情を浮かべた。


「おい、ウルペクラ、いったなに――おぉっ!?」

「ハ? なんだ――トォッ!?」


 そして、これまた完璧な隠蔽魔法を施され、ふたりの意識の隙を突くように大回りの軌道で事前に放たれていた魔力弾が、両者の顔に左右から直撃して爆発した。

 もちろん、シリウスもラサルも世界でも上澄みと言っていいトップクラスの実力者であり、この程度の魔力弾でダメージが入ることはない……あくまで、単なる悪戯である。


「完璧! じゃ、スピカ、また夕食時にっす!」

「はいな~」


 着弾を確認した後で、ウルペクラは軽く手を上げてスピカに告げたあと凄まじい速度でその場から離脱し、その直後に爆発による煙の中から怒りに満ちた魔力が立ち上る。

 シリウスは腕を二本から六本に変えて、すべての剣を抜き放ち、ラサルは背負っていた巨大な棺桶を手に持って禍々しい魔力を放つ。


「「クソ狐ぇぇぇぇ!?」」


 そして、逃げたウルペクラを追って猛然と駆け出し、ある意味では恒例ともいえる追いかけっこが始まった。


「……皆元気やなぁ~」


 ひとり残されたスピカはそう呟いたあとで、マイペースに居城の中へ戻っていった。




~物語の舞台~

神界、人界、魔界の三つからなる世界トリニィアの魔界が舞台。本編よりおよそ百年後ぐらいを想定しているが、まだ本編は連載中で今後追加された設定とかでズレが出てくる可能性もあるので『限りなく正史に近いパラレル』とか、そんな感じで……。


~ちょっとキャラ紹介~

【ウルペクラ】

いちおう外伝の主人公ポジであり、本編より立派に成長して現在は公爵級高位魔族。快人譲りの感応魔法とアイシスと比較するとかなり弱いが、その分コントロール可能な死の魔力を併せ持つので実質的にふたりの子供と言ってもいいかもしれない存在。

楽しいこととイタズラが好きで、主にラサルとシリウスにイタズラを仕掛けてよく追い掛け回されている。とはいえ、ふたりのことを嫌いというわけではなくむしろ姉のように慕っているので、ある意味じゃれているようなものである。


アイシスと快人の前では、イタズラ云々よりふたりが大好きという気持ちが勝つため素直で可愛らしい感じになる。




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― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ幸せで思ってた何倍よりも尊すぎる!! 果たして灯台さんはむつらぼしだからめちゃくちゃ構想ができてるのか、それともほかの陣営でもある程度は思いついているのか、、 後者ならめちゃくちゃゆっくり…
ウルが公爵級になっているという事は、リリアちゃんも公爵級か権能含めればメイド級に迫るか同じくらいになってるのかな。 というか、アメルは未だに中二病を脱していないんだね。きっと交流も増えてるだろうに…ぶ…
更新お疲れ様です。 人員がかなり増えてるだけでも驚きてすが、ネームド枠まで増えている…パラレル的な話とは言え本編にも出てくるか期待してしまいます
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