アルカディアのミク
アルカディアに来るまで、狩人の村を下に見ているという噂を聞いていた。
でも、それは違ったよ! 私の師匠のオリビィア様は、とても親切だし、薬師としても優れている。
サリーの師匠のアリエル様は、普段はソファーで寝転んで本を読んでいるけど、竜退治のベテランだ。
師匠達が住んでいるのは、木の家。大きな木に窓や扉があるけど、中に入る時に変な感じがしたんだ。
オリビィア師匠が空間魔法で木の家を広げているんだってさ。
アルカディアでは、十歳までは子ども扱いなのにも驚いた。五歳までは赤ちゃん扱いっぽい!
でも、私もサリーも、師匠達の家・木の家に住まわして貰うのだから、家事はするよ!
下働きをするのが条件だったし、師匠達は壊滅的に家事ができないんだもの。
多分、その辺が変人と呼ばれる理由かも?
私は、料理と畑仕事! アルカディアには結界が張ってあるから、共有の小麦畑と自分の家の菜園があるんだ。
サリーは、掃除と洗濯。小川に樽の洗濯機があるから、楽! それに、サリーは風の魔法で洗濯物を乾かせるからね。
それと、アルカディアでは、子どもは午前中は学舎に行く。
初めは、他所の子って目で見られている気がしたけど、すぐに仲良くなったよ!
ただ、サリーは、順調に魔法を覚えていった。でも、私は光の魔法で躓いてしまったんだ。
この光の魔法! これがとても重要なんだ!
アルカディアの森の人は、三百歳も生きる。それは、光の魔法を使って老いないようにしているからだ。
狩人の村の森の人が七十歳を超えたら、急に歳を取って亡くなると知った師匠達は、凄く驚いた。
狩人の村の森の人が、人間の戦争に巻き込まれそうになった魔の森の端にあるエバー村の森の人が、木から木へ移動できなくなったと知った時みたいにね!
その時は、森歩きの指導者のヨハン爺さんが、子ども達を中心に鍛えたんだ。
大人達も、基本的には狩人スキルがあるので、身体能力は高いから、すぐに木から木へと移動できるようになった。
つまり、狩人の村の森の人達は、光の魔法の使い方を忘れちゃったみたいなんだ。
「狩人の村の森の人は、魔法を使えないのに大丈夫なの?」
オリビィア師匠に心配して尋ねた。ママやパパ、そしてバリーとミラも長生きして欲しいんだ。
「狩人の村の森の人も赤ちゃんから幼児へと成長するのが早いだろう。それは、光の魔法を使っているんだよ。それに、狩人スキルも身体強化の魔法なんだ。だから、光の魔法の使い方を思い出せば良いだけさ」
師匠は、楽天的だったけど、長老会が派遣した森の人は、説得に失敗したんだ。
原因は、お互いの実情を知らなすぎた事!
アルカディアでは、子どもは学舎で学ぶのが普通なので、狩人の村の子どもから光の魔法を学べば良いと思ったんだ。
それに、子どもは成長するのに光の魔法を使っているから、覚え易いと考えたんだよね。
でも、狩人の村の森の人は、アルカディアが子どもを連れ去ろうとしていると警戒したんだ。
それに、三歳から若者小屋にいる森の人は、自分達は自立した大人だと思っていたから、今更、学舎に行きたくないと思ったみたい。
そんな失敗したことも知らず、私は夏休みを満喫していた。
石窯を作ってもらったので、パンを焼いたり、トマトがいっぱい採れたので、ピザを焼いたよ!
私は、アルカディアに来てから、料理スキルで色々と美味しいものを作れるようになったんだ。
パンやピザは、アルカディアでも好評だよ! お小遣いも稼げるしね!
火食い鳥を飼って、卵を産ませているから、それを料理したり、集会所で売って、お小遣いも貯めている。
サリーもキラービーを飼って、ハチミツを取っているんだ。それと、ガラス細工も上達している。
私は、料理と畑仕事関係が多いけど、森で薬草を採ったり、トレントを討伐して油を搾って石鹸を作ったよ。
マジックバッグの作り方も教わっている。まだ容量は少ないのしかできないけどね。
第一号は、サリーにあげたんだ! もっと上達したら、マジックバッグの手入れの時に、容量を大きくする予定!
二人でお金を貯めるのは、師匠の所を卒業したら、人間の町で暮らす時の為なんだ。
サリーは風の魔法と光の魔法で治療師。私は薬師! 二人で診療所を開こうと話している。
ただ、卒業できるか、少し不安! だって、アルカディアの卒業試験って厳しすぎるよ!
「竜ぐらい討伐できないと、安心して人間の町なんかに行かせられないわ! 大丈夫、若い馬鹿な竜で良いのだから!」
サリーの師匠のアリエル様は、エンシェントドラゴンも討伐したドラゴンスレーヤーだ。
「優れた調合薬には、竜の肝が必要なんだ。だから、竜を討伐できないと薬師にはなれないぞ! ミク、頑張れば、竜ぐらい討伐できるさ!」
オリビィア師匠は、ぱふぱふと私の頭を撫でて笑うけど、無理だと思うんだ。
「もしかして、ミクの料理が美味しすぎるから、卒業させないつもりなのかも?」
サリーとこっそり話し合ったよ。他の学舎の友だちに聞いたら、大爆笑された。
「ミクやサリーが卒業試験を受ける時は、私が手伝ってやるよ!」
自信満々のリュミエールだけど、大丈夫なのかな?
「俺も手伝う!」
初めは、無視されたけど、人見知りだけだったヘプトス。こちらは、信頼できそう!
「そうか、皆で討伐すれば良いんだ!」
私とサリーは、ホッとしたけど、学舎のメンター・マグスに「全員、かなり修業しないと無理だな!」と笑われた。
特に私は、魔法攻撃も駄目だし、武術訓練も酷いんだ。
「ミク、狩人の村に説得に行くなら、光の魔法をもっと使えるようにならないといけないよ」
メンター・マグス、厳しいけど、その通りなんだよね。
もっと頑張らなきゃ! 冬になったら三歳なんだもの!
狩人の村の事情を知っている私とサリーが師匠と共にバンズ村に話に行く事になったんだ。
サリーが光の魔法を使えるのは、元々、風の魔法のスキルがあるからと思われそう。
だから、薬師や調理スキルの私が光の魔法を使えたら、説得しやすいと思うんだ。
長老会が派遣したメンバーがことごとく失敗したから、最後の一手なんだよ!
懐かしいバンズ村! ママやパパ、バリーとミラに会うのが楽しみだ!
お土産、いっぱい持って行こう! だって、バンズ村は全員が親戚だからね!




