アルカディアに到着!
ヨシは体力もない。オリビィエ師匠の背中で寝てしまった。
「ミク、何か布を持っていないか?」
マジックバッグの中をまさぐって、細長い布を引っ張り出す。
「よく、そんな物を持っていたわね!」
サリーに呆れられた。
「これは、この前、卵サンドイッチを売ったら、ヴィーガ師匠がくれたのよ」
織物のヴィーガ師匠も、料理は苦手みたい。美味しかったと、この布をくれたのだ。
細長い布で、うとうとしているヨシをオリビィエ師匠にくくりつける。日本昔ばなしの背負い紐みたい。
「さぁ、早くベッドに寝かせた方が良いだろう!」
それに、蜂や火食い鳥も、小屋に早く入れた方が良いからね。
養蜂箱は、一つ空いている。女王蜂が何処かに飛んで行ったのだ。気まぐれだね!
「火食い鳥の小屋は、帰ったら大きくしないといけないかも」
「まぁ、それは頼んでやるけど……雄は潰して食べたら良いんじゃないのか? 冬は、餌にこまるのでは? 揚げたのが美味しかったぞ」
オリビィエ師匠がそんな事を言うから、アリエル師匠も我儘を言う。
「そうね、唐揚げが食べたいわ! それに、小さな壺に火食い鳥の肉を入れたのも! 雄は潰しましょう!」
サリーは、私が飼っている火食い鳥を潰したくないのを知っているから、無理にとは言わないけど、唐揚げ、凄く食べていたんだよね。
私は、家畜だと言い聞かせているし、駄目だとはわかっているけど、情が移っている。
卵から孵った雛鳥の雄の何匹かは、唐揚げにしたんだけどさ。
確かに、オリビィア師匠の言う通り、餌の確保が難しくなる冬に、卵を産まない雄は潰した方が良いのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、アルカディアに戻った。
「わぁ! 本当に木の上に家があるのね!」
ヨナが驚いている。ジミーも驚いているだろうけど、無反応だよ。
「ほら、あそこが物見の塔よ! スミナ山から見えていたでしょう!」
「ああ」とジミー。相変わらず、言葉が少ない。
「登れるのよ! 明日、登ってみましょう!」
サリーの説明に、ヨナとジミーが頷いている。
「奥の大きな木が、木の家なのよ」
サリーがヨナに教えている。二人は、一緒に蜂を探しに行ったりしてから、仲良く話している。
「あの木に住むのか?」
「ええ、そうよ!」
ジミーは、大きいとはいえ、木の中に何人も住めるのか、首を捻っている。
ふふふ、驚くだろうね! ちょっと楽しみ!
「ミク、扉を開けてくれ」
先ずは、ヨシを居間のソファーに寝かせる。いつも、アリエル師匠が寝転んで本を読んでいる場所だ。
すやすや寝ているヨシを見て、ヨナはホッとしたみたい。お姉ちゃんは、ヨシが心配で付いて来たんだ。
「蜂を養育箱に入れるわよ!」
アリエル師匠とサリーは蜂を養蜂箱に入れている。
ヨナは囲いの外で、それを見学だ。
「サリー、怖くないのかしら? 蜂に刺されたら死ぬこともあるのよ」
「サリーは、光の魔法も上手いから! 守護魔法を掛けているから、刺されないわ」
「ふうん、やはり光の魔法を習わないといけないのね」
ヨナは、ハチミツが好きみたいだけど、蜂を飼うのは、風の魔法が使えないと無理だと思う。
巣を空気のボールで包んで持って帰らなきゃいけないからね。
「なぜだ?」
ジミーは、外から見た木の家と、中の大きさが違うのが変だと首を捻っている。
ドアを開けて、中に入ったり、外にでたりを繰り返している。
「木の家は、オリビィエ師匠が空間魔法で作られたのよ」
ジミーがハッとした顔になる。
「マジックバッグとマジック壺!」
その通りだけど、その説明は後にして、火食い鳥を鶏小屋に放さなきゃ!
「ミク、先に蜂の死骸を投げ入れた方が良いぞ。お腹いっぱい食べていたら、新しい火食い鳥を攻撃しないだろう」
それ、名案だね。
「手伝おうか?」ジミーが言ってくれたけど、まだ無理かも?
「うん、守護魔法を自分に掛けられるようになったら、餌やりを手伝ってもらうよ」
ジミーは、自分にできるのかと首を捻る。
「ジミー、竜を討伐したいなら、守護魔法が絶対に必要だ! 少しずつ覚えていけば良い」
蜂の死骸を投げてやると火食い鳥達は、争って啄む。
その間に、ぐるぐる巻きになっている火食い鳥を解放して、鶏小屋の中に入れる。
「おお、元気そうだ!」
ぐるぐる巻きにされて、マジックバッグの中にいたのに、前からいる火食い鳥に負けない勢いで蜂を啄んでいる。魔物だから丈夫なのかな?
「後は、卵を集めて、掃除をして、水をいっぱいにしたら、火食い鳥の世話はおしまいよ」
ジミーは、それのどれもが守護魔法が使えないとできないと気づいて、深い溜息をついた。
「私も、最初は守護魔法が掛けられなかったの。師匠に掛けて貰ったり、サリーに掛けて貰ったのよ」
「俺に掛けてくれ!」
あっ、そうかも? でも、私は自分に掛けたことしかないんだよね。
「ミク、やってごらん! 大丈夫、私が見ているから、ジミーの守護魔法が解けそうなら、掛け直してあげる」
師匠がフォローしてくれるなら、やってみよう!
「ジミーに守護魔法よ掛かれ!」
薄ぼんやりと緑色の守護魔法が掛かった。自分にも掛けて、鶏小屋に入る。
「この籠に卵を集めて!」
ジミーが集めている間に、私は汚れた藁を外に出して、綺麗な藁と取り替える。
「ほら、ミク! ジミーの守護魔法が解けかけているよ」
えっ、その時は師匠が掛けてくれるんじゃないの? 注意してくれるだけ?
「ジミーに守護魔法よ掛かれ!」
水は、昨日は替えていないから、全部捨てて、新しいのに替える。
「これでお終いよ、外に出ましょう!」
外に出た途端、守護魔法が切れた。
「もう少し、しっかりと守護魔法を掛けられるよう頑張りなさい」
オリビィエ師匠の言う通りなんだけど、自分に掛けるより、難しい。




