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待っていたのはMMでした!-②

 カードの中は平衡感覚がない。宇宙空間にでも放り出されたみたいだ。呼吸は出来るみたいだけど。


 あたりを見渡すと、遠くにポツンと光源が見えた。手に取りたいと思った途端その光が近づいてきた。


 いや、自分がその光に寄って行ったのだろうか。そばで見るとその光源は驚くほど小さい。手のひらに収め、なんとなく握りしめてみた。


 すると、光が強さを増し、指の隙間からこぼれ出るほどの光が俺だけでなく、周りを照らし始めた。あまりにも眩しく、数秒間目を閉じてしまった。


 次に目を開けた時には周りに真っ平の草原が広がっていた。雲が漂う青空。恒星のようなものは空に見当たらない。風の囁きが耳を撫でた。景色が余りにも綺麗なせいだろうか。空気が美味しく感じる。


「…よく来てくれた」

 

 突然老人のような、しゃがれた声が耳に飛び込んできた。パッと後ろを振り返ると、そこには異形の姿をした怪物がいた。


「あ…あなたはまさか…真羅の魔導師グリモ・ダラス!」

「私の名を知っているとは…流石選ばれただけのことはある」

「知ってて当たり前じゃないですか!不死惑星の守護者コスモラスを主軸においた攻撃型デッキの屋台骨!支払うコストで変わるサーチ精度、味方のパワーアップ…序から終盤まで隙がなく、今でもファンの多い貴方にお会いできるなんて…とても光栄です…」

 

 夢でも良い。現物を見たことすらなく、ネットに転がっている語り草でしか知らない知識のみの存在が、今こうして俺と言葉を交わしてくれている。歓喜の波が俺の身体を駆け巡った。

 

グリモ・ダラスは突然の賛美に満更でもないというような顔をしながら言葉を返してくれた。

 

「その活躍も、今は昔の話。こちらこそ貴殿に会えて光栄であるぞ。……さて、本題に入ろうかの」

 

 空気がほんの少し、重くなった気がした。彼から発せられる声のトーンが少し、下がる。

 

「儂は貴殿のようにアルノシアの『外』からやってくる存在の案内役を仰せ使っておる。理由を話さず放り出すのは身勝手極まりないというもの。よって今から、貴殿が成すべきことを伝えよう」

 

思わず生唾を飲み込む。


「貴殿に与えられた使命は一つ。アルノシアの森羅万象を貴殿が元いた世界に届け、アデイの循環を促すこと。その使命を全うした時、元いた世界に戻ることができるだろう…」


「アデイってなんですか?初めて聞きました。それに、何をすればいいのか今の説明では全く分かりません…」


「アデイとは、アルノシアを満たしているエネルギーのこと。貴殿はアルノシアの…む?」

 グリモ・ダラスは突然、顔を空の一方向に向けて、睨むような目つきを見せた。一瞬の沈黙が訪れる。


「どうかされたのですか?」

 

「奴らめ…召喚の痕跡を早くも嗅ぎつけたか。大変申し訳ない。後の話は貴殿に授ける使い魔に任せることにする。くれぐれも、気をつけてな」


「え?使い魔ってなんのこ…」

 

 言い終わらぬうちにあたりは一切の光の無い暗闇に閉ざされ、足と地面の接地感覚が消失するのに合わせて身体全体が再び浮遊感に包まれる。


 次の瞬間視界に広がったのは前後左右に広がる青空。気づけば浮遊感は消え去り、背中方向へ身体全体が引っ張られていた。


「うおわああああああ!!!」

 唐突な肌寒さと体全体を容赦なく打ちつけてくる風に身悶えていると、頭の中に直接声が響いた。


 「シオン、君はもう空の飛び方を知っている。君が実現したいと思ったことをそのまま、頭の中でイメージして」


 声と同時に目線を感じ、右肩に目線を移すとそこには猫に似た生き物が俺の目をじっと見つめていた。その吸い込まれそうな瞳にギョッとしつつも、先ほどの声の通り、空に滞空するイメージを思い浮かべた途端、中空に静止することができた。

 

「うおぉっ、おっと…。風が止んだ…空に浮かべたのか…?」


 一呼吸おいて一望すると、遥か下には雲の合間に見える深緑が大地に根を深く下ろしていて、山を覆い隠すほどの大樹が地平線の一部を遮っていた。


 遥か彼方にまで山脈が連なり、その一部は溶岩を垂れ流していた。手付かずの大自然に思わず心揺さぶられたが、あまりにも現実感が無い。

 

「これは夢だな。そこまで恐怖を感じないから。でも、あのカードに引き摺り込まれてから今まで、意識を失った感覚はない……」


「まさか現実…いやそれなら空に浮かべるはずがないし…うっ…」


目まぐるしく重力に引っ張られたせいだ。急に吐き気を催した。手を口に当てがった時、またあの声が聞こえてきた。

 

「僕からしたら君たちの世界の方こそ夢物語だよ、シオン」

 

「うわっまたさっきの声が…」

 

「鈍感なヤツだな〜。声の主がキミの肩に乗ってるだろ?キミの使い魔がさ」

 

「まさか、この猫が…?確かグリモ・ダラスも使い魔がどうとか言ってたな…」

 

「そう、それがこのボク、使役獣ニャンバルさ♪」

 

 俺はこれから始まる永い旅の入り口にすら、まだ立てていないことを知ることになった。

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