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夕食時になり、私は焚き火の番をしながら、串に刺したウサギ肉をじっくりと焼いていた。
パチパチと薪が爆ぜる音と、肉が焼ける香ばしい匂いが小屋の中に充満する。オーランドは、その香りに誘われるように、じっと炎を見つめていた。彼の目には、魔法で完璧に調理された料理とは異なる、素朴な食欲が宿っているようだった。
「お、エミリア、すごいな! 肉が焼けていくぞ!」
オーランドは、まるで初めて火を見る子供のように目を輝かせた。魔法都市では、料理も魔法で一瞬にして完成するため、火の番をするという概念自体が新鮮なのだろう。
「そうよ。焦がさないように、ひっくり返すのがポイントなの。火加減も大事よ」
焼きあがったウサギ肉を皿代わりに木の葉に乗せ、恐る恐る口に運んだ彼は、目を見開いた。
「……美味い! 」
彼の顔がぱあっと明るくなり、むしゃむしゃと食べ始めた。魔法都市での洗練された食事に慣れていた彼にとって、焚き火で焼いたウサギ肉のワイルドな味は、新鮮な驚きだったようだ。
日が沈み、夜の帳が下りた頃、オーランドは落ち着かない様子でキョロキョロしていた。蝋燭の素朴な灯りだけを頼りに、暗い森の中で夜を明かすのは彼にとって初めてのことで心細いのだろう。
しょんぼりしたオーランドの様子を見て、私は少しだけ同情した。彼はまるで、生まれたての雛鳥のように、何もかもが不慣れで、助けを求めている。
「エミリア……」
オーランドが、うつむき加減に私を見上げた。その瞳には、かつての自信は微塵もなく、ただ不安と、そして私への懇願が宿っていた。
「この先も、お前がいてくれないと、俺は本当にダメだ。 頼む、エミリア。お前がいてくれれば、俺はきっと乗り越えられる。エミリアは……まるで、何でもできる魔法使いみたいだ」
彼の必死な懇願に、私は驚いた。かつて私を馬鹿にした彼が、今、こんなにも私を必要としている。
「……分かったわ。ただし、私の指示にはちゃんと従うこと。それが条件よ。あと、文句は言わないこと」
私の返事に、オーランドは子犬のように目を輝かせた。
「本当か!? 助かる! ありがとう、エミリア!」
彼が安堵の息を漏らすのを聞き、私は改めて覚悟を決めた。前途多難な一ヶ月になるだろう。