8.魔力の奔流、そして選択の時
ダンジョンマスターのアースは、ダンジョンマスタールームで瞑想していた。静寂の中、彼の意識はダンジョン全体に広がり、その隅々までを把握する。スライムたちの活動、罠の配置、そして、ダンジョンに流れ込む魔力の動き。それら全てが、アースの意識の中で鮮明に映し出されていた。
ふと、アースの意識の中に、これまでとは異なる、強い魔力の奔流が流れ込んでくるのを感じた。
(これは……魔力が溜まっているのか?)
アースは驚き、瞑想を中断して目を開けた。ダンジョンマスターの力として、ダンジョンに蓄積された魔力を感知できることは知っていたが、これほどの魔力を感じたのは初めてだった。
「エミリー、大変だ。魔力が溜まりすぎている。今、ダンジョンにどれくらいの魔力が蓄積されているか分かるか?」
アースは隣にいたエミリーに声をかけた。エミリーは魔法陣に手をかざし、魔力の流れを読み取ろうとしている。
「うーん……すごい魔力だね。まるで、ダムに水が満タンになっているみたい。数値で言うと……300ポイントくらいかな」
「300ポイント!? そんなに溜まっていたのか……」
アースは驚愕した。ダンジョンマスターの力として、魔力は様々な用途に使うことができる。ダンジョンの拡張、新たな施設の建設、スライムの強化、そして、強力な魔法の発動。しかし、魔力をどのように使うかは、ダンジョンマスターの裁量に委ねられている。
「それで、アース。この魔力をどうするの? 何かやりたいこととか、考えていることはある?」
エミリーがアースに問いかけた。アースは少し考え、答えた。
「ああ、いくつか候補はある。まずは、ダンジョンの拡張だな。今のダンジョンは、まだ狭すぎる。もっと広い空間を作り、新たな罠を仕掛けられるようにしたい」
「それも良いけど、スライムの強化も魅力的だよね。特に、あの4匹は、アースの最初の仲間だもん。もっと強くしてあげたい」
エミリーは、スライムたちへの愛情を込めて言った。
「スライムの強化か……それも確かにありだな。今のスライムたちは、まだ戦闘力が低い。もっと強力なスライムに進化させることができれば、ダンジョンの防衛力は格段に上がる」
アースは腕組みをして考え込んだ。魔力の使い道は様々だが、300ポイントという魔力は、決して多いとは言えない。慎重に使い道を決めなければ、後で後悔することになるかもしれない。
「それに、アースは魔法も使えるんだから、新しい魔法を習得するのも良いんじゃない? もっと強力な魔法を覚えることができれば、いざという時に役に立つと思うよ」
エミリーはそう提案した。アースは目を丸くした。
「魔法か……確かに、それも選択肢の一つだな。今の俺は、まだ初歩的な魔法しか使えない。もっと強力な魔法を覚えることができれば、戦いの幅も広がる」
アースは悩んだ。ダンジョンの拡張、スライムの強化、そして、新たな魔法の習得。どれも魅力的だが、全てを実行するには、魔力が足りない。
「どうしようかな……決められないな……」
アースは頭を抱えた。エミリーはそんなアースを見て、微笑んだ。
「ねえ、アース。一つ提案があるんだけど」
「なんだ?」
「この魔力を使って、ダンジョンに特別な施設を作ってみるのはどうかな?」
「特別な施設? 具体的には、どんなものだ?」
アースが尋ねると、エミリーは目を輝かせて答えた。
「例えば、スライム専用の訓練施設とか! スライムたちが、安全に、効率よく訓練できるような場所を作るんだ。そうすれば、スライムたちは自然と強くなるし、アースは他のことに時間を使えるようになる」
「スライム専用の訓練施設……それは面白いな。でも、そんな施設、本当に作れるのか?」
アースは半信半疑で尋ねた。
「大丈夫、私に任せて! 土魔法を使えば、どんな施設でも作れるよ! スライムたちが喜ぶ、最高の訓練施設を作ってあげる!」
エミリーは自信満々に言い放った。アースは、エミリーの熱意に心を打たれた。
「……分かった。エミリーの提案に乗ろう。魔力300ポイントを使って、スライム専用の訓練施設を作ることにする。エミリー、力を貸してくれ」
「うん! 任せて! きっと、最高の訓練施設にするから!」
エミリーは満面の笑みを浮かべた。アースもまた、希望に満ちた表情で頷いた。