7.侵入者、現る。そしてスライムたちの反撃
ダンジョンマスタールームに緊張が走る。アースはダンジョン全体を見渡せるその場所から、侵入者の動きを監視していた。エミリーはアースの隣で、土魔法の発動準備を整え、いつでも援護できるように構えている。
「来るぞ、エミリー。準備はいいか?」
アースが低い声で尋ねる。エミリーは小さく頷き、魔法陣に魔力を注ぎ込む。
ダンジョンの入口に現れたのは、3人組の冒険者パーティーだった。リーダーらしき屈強な戦士、魔法使いのローブを身につけた男、そして、弓を構えたエルフの女。手慣れた様子から、ある程度経験を積んだ冒険者たちのようだ。
「ふん、こんなところにダンジョンがあるとはな。情報屋の奴、なかなかやるじゃないか」
戦士が嘲笑するように言い放った。魔法使いは周囲を警戒しながら、杖を構えている。エルフの女は、鋭い目で周囲を観察し、わずかな変化も見逃さない構えだ。
「罠には気をつけろよ。こんな辺境のダンジョンだ、何があるかわかったもんじゃない」
魔法使いが注意を促す。戦士は鼻で笑い、大剣を構えた。
「罠なんて、この俺が全て叩き潰してやるさ!」
戦士は自信満々に言い放ち、ダンジョンの中に足を踏み入れた。
その瞬間、ダンジョンが牙をむいた。
通路の天井から、巨大な岩塊が落下してくる。エミリーが仕掛けた、落とし穴の罠だ。
「なっ!?」
戦士は咄嗟に大剣で岩塊を打ち砕いたが、その衝撃で体勢を崩してしまう。
「落とし穴だ! 気をつけろ!」
魔法使いが叫んだが、時すでに遅し。戦士の足元が崩れ、彼はそのまま奈落の底へと落下していった。
「グワーッ!」
戦士の悲鳴がダンジョン内に響き渡る。落とし穴の底には、エミリーが土魔法で作り出した、無数の鋭い石の針が待ち構えている。
「……串刺し、か。なかなかエグいな」
アースは冷静に呟いた。エミリーは少し顔をしかめた。
「やりすぎ、かな……?」
「いや、あれくらいで丁度いいんだ。ダンジョンは、侵入者を拒むためのものだからな」
アースはそう言い、エミリーの肩を優しく叩いた。
残された魔法使いとエルフの女は、完全に動揺していた。仲間が一瞬にして罠に嵌められた光景を目の当たりにし、恐怖の色を隠せない。
「くそっ、なんて罠だ……! こんなの、聞いてないぞ!」
魔法使いは震える声で叫んだ。エルフの女は、弓を構えながら周囲を警戒している。
「落ち着け! まだ終わったわけじゃない! 罠があるなら、それを突破すればいいだけだ!」
魔法使いは自分を鼓舞するように言い放ち、杖を構えた。
その時、背後からヌメヌメとした気配が迫ってきた。
「!?」
二人が振り返ると、そこには、アースが強化したスライムたちが待ち構えていた。
「スライム……? こんなところに、スライムがいるのか?」
魔法使いは呆然とした表情で呟いた。エルフの女は、弓に矢をつがえ、スライムたちを射抜こうとする。
だが、アースのスライムは、ただのスライムではなかった。
「行くぞ、スライムたち! お前たちの力を見せてやれ!」
アースが号令をかけると、スライムたちは一斉に動き出した。
一体のスライムが、口から毒液を吐き出した。毒液はエルフの女に命中し、彼女は苦悶の表情を浮かべた。
「毒!? こいつら、毒を持っているのか!?」
エルフの女は毒に侵され、弓を構えることすらできなくなってしまった。
残りのスライムたちは、魔法使いに襲いかかった。魔法使いは杖で応戦しようとしたが、スライムたちの動きは素早く、杖を叩き落とされてしまう。
「うわああああ!」
魔法使いはスライムたちに押し倒され、身動きが取れなくなってしまった。スライムたちは、魔法使いの全身を覆い、毒液を浴びせかける。
「グギャアアアア!」
魔法使いの悲鳴がダンジョン内に響き渡った。
ダンジョンマスタールームでは、アースとエミリーがその光景を見守っていた。
「……あっという間、だったね」
エミリーが呟く。アースは頷いた。
「ああ。スライムたちは、確実に強くなっている。エミリーの罠も効果的だった。この調子でいけば、本当に最強のダンジョンを作れるかもしれない」
アースはそう言い、ダンジョンの奥を見据えた。
「次は何をしようか、エミリー。もっと強力な罠を作るか? それとも、スライムたちをさらに強化するか?」
アースがエミリーに問いかける。エミリーは少し考え、答えた。
「……そうだね。次は、スライムたちがもっと活躍できるような、そんな罠を作りたいな」
エミリーの言葉に、アースは微笑んだ。
「いい考えだ。それなら、スライムの特性を活かした罠を考えてみよう。例えば、スライムを隠れ蓑にして、敵を油断させるとか……」
アースとエミリーは、新たな罠のアイデアを出し合った。二人の間には、確かな信頼と絆が生まれていた。