5.魔法使いとの同居、そしてダンジョンの新たな可能性
(……殺すか? それとも、何か利用できるか?)
震えながら涙を流す彼女を見て、俺は悩んだ末、決断を下した。
「……生かす。ただし、条件がある」
俺の言葉に、魔法使いの女はびくりと肩を震わせた。潤んだ瞳が、希望と不安の色を宿している。
「条、条件……ですか?」
「そうだ。お前には、このダンジョンに住んでもらう。そして、俺のダンジョン運営を手伝ってもらう」
俺の言葉に、女は目を丸くした。予想外の提案だったのだろう。
「ダ、ダンジョンに住む……? 運営の手伝い……? い、意味が分かりません」
「お前は魔法使いだ。土魔法が使えるのだろう? それならば、ダンジョンの拡張や新たな施設の建設に協力できるはずだ。もちろん、ただ働きとは言わない。生活に必要なものは提供するし、危険な目に遭わせるような真似はしない。どうだ? この条件で、俺に協力してくれるか?」
女はしばらく考え込んだ。殺されるよりはマシ、という打算もあったのだろう。おずおずと口を開いた。
「……わ、分かりました。協力します。ですが、私に一体何ができるというんですか? 私は、そんなに強い魔法使いではありません」
「それは、これから試していけばいい。まずは、自己紹介といこうか。俺は……そうだな、名前はまだない。お前は?」
「わ、私は……エミリーです」
「エミリー、か。いい名前だ。俺は……そうだな、ダンジョンマスターとでも呼んでくれ」
「ダンジョンマスター……。あの、ダンジョンマスター。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「あ、あの……あなたの、お名前は?」
(名前、ねぇ……。そういえば、まだ名乗れるような名前ないしな……)
少し考えた後、俺は脳内に響く声で答えた。
「……アースだ。以後、お見知りおきを」
「ア、アースさん……。わかりました」
エミリーはどこか安心したような表情を浮かべた。
(さて、エミリーの能力について詳しく聞いてみるか)
「エミリー、お前の使える魔法について教えてくれ。特に、土魔法について詳しく知りたい」
「あ、はい。私の土魔法は、主に土を操ったり、岩を生成したりするものです。大規模な地形を変えるような力はありませんが、小さな穴を掘ったり、土壁を作ったりするくらいなら……」
「十分だ。俺のダンジョンはまだ狭い。お前の力で、通路を広げたり、新たな部屋を作ったりしてほしい」
「わかりました。頑張ります」
エミリーは決意を新たにしたように頷いた。
(よし、これでダンジョン運営の協力者が一人増えた。まずはエミリーに安全な場所を提供しないとな……)
俺はダンジョンコアの力を使って、ダンジョン内に新たな部屋を作り出した。簡素なベッドと机、そして簡単な生活用品を設置する。
「ここがお前の部屋だ。ゆっくり休んでくれ。明日から、ダンジョン拡張の作業を手伝ってもらう」
「あ、ありがとうございます……アースさん」
エミリーは部屋に入ると、ベッドに腰を下ろし、ほっと息をついた。長い一日だったのだろう。
(さて、これで一件落着……とはいかないな。エミリーが本当に信用できるかどうか、見極めなければならない。それに、スライムたちの育成もまだまだこれからだ)
俺は再びダンジョンコアの意識を集中させ、ダンジョン全体の状況を把握した。
(このダンジョンを、最強の巣窟にするために……やることは山積みだ)
アースはそう心に誓い、静かに意識を沈めた。