29.スライムたちの日常と訓練
アースがダンジョンコアの歪みに心を砕いている頃、スライムたちは、いつもと変わらぬ、しかし少しだけ騒がしい日常を送っていた。
「……おい、お前! また俺のキノコ盗んだだろ!」
「……違うってば! 知らないよ! 俺は今、新しい服のことで頭がいっぱいなんだから!」
「……服? お前、スライムだろ! 服なんて着てどうするんだ!」
スライムナイトAとスライムナイトBが、いつものように言い争っていた。きっかけは、スライムナイトAが大切に育てているキノコが、いつの間にか消えていたこと。そして、スライムナイトBが、なにやら嬉しそうに、新しい服の話をしていたことだった。
「……いいじゃん! おしゃれは自由だろ! スライムだって、かっこよくいたいんだよ!」
スライムナイトBは、そう言いながら、自慢げに、新調した鎧を見せびらかした。それは、以前よりも少しだけ装飾が増え、心なしか輝きも増しているような気がした。
「……ふん! どうせ、またどこかの冒険者からパクってきたんだろ!」
「……違うって! これは、エミリー様が作ってくれたんだよ!」
「……エミリー様が!? ありえない! エミリー様は、そんな暇じゃないはずだ!」
そこへ、噂をすればなんとやら、エミリーが通りかかった。
「……あら、何してるの? そんなに騒がしくして」
エミリーは、不思議そうな表情で、スライムナイトたちに声をかけた。
「……エミリー様! 実は、こいつが、また俺のキノコを盗んで……」
スライムナイトAが、エミリーに訴えようとした瞬間、スライムナイトBが、慌てて口を挟んだ。
「……エミリー様! あの、実は、この鎧のことなのですが……」
スライムナイトBは、エミリーに、新調した鎧を見せた。
「……あら、素敵な鎧ね! とてもよく似合ってるわ」
エミリーは、笑顔で、スライムナイトBを褒めた。
「……でしょう!? エミリー様、ありがとうございます!」
スライムナイトBは、大喜びした。
「……エミリー様! なんでこいつを褒めるんですか! こいつは、俺のキノコを盗んだんですよ!」
スライムナイトAは、納得がいかない様子だった。
「……まあまあ、落ち着いて。キノコのことなら、私が新しく育ててあげるわ。だから、仲良くしてちょうだいね」
エミリーは、そう言いながら、魔法で、スライムナイトAの目の前に、たくさんのキノコを出現させた。
「……えっ!? すごい! エミリー様、ありがとうございます!」
スライムナイトAは、大喜びし、キノコに夢中になった。
こうして、スライムナイトたちの騒動は、エミリーの魔法によって、あっという間に解決した。
一方、ダンジョンの奥深くでは、ノワールが、アースのために、特訓を行っていた。
「……アース様、もっと集中してください! 精神統一ができていません!」
ノワールは、厳しい口調で、アースに指示を出した。
「……わ、わかってるよ! でも、なかなか集中できなくて……」
アースは、額に汗を浮かべながら、ノワールの指示に従おうとした。
アースは、ダンジョンコアの奥深くへと向かうために、ノワールから、特別な訓練を受けていた。それは、精神を集中させ、ダンジョンコアのエネルギーを制御するための訓練だった。
「……アース様、それでは、いつまで経っても、ダンジョンコアの奥深くへは行けません! もっと、本気を出してください!」
ノワールは、アースを叱咤した。
「……うう……わかってるってば……!」
アースは、ノワールの言葉に発奮し、再び、精神統一を試みた。
その時、アースの脳裏に、スライムナイトたちの騒動が浮かんだ。
「……あいつら、また何かやってるな……」
アースは、思わず苦笑した。
しかし、その瞬間、アースの心に、温かい感情が湧き上がってきた。
(……俺は、こんなにもたくさんの仲間に囲まれているんだ。みんなのために、絶対にダンジョンを救わなければ……!)
アースは、決意を新たにし、再び、精神統一に集中した。
すると、不思議なことに、今度は、すんなりと精神を集中させることができた。アースの体から、ダンジョンコアのエネルギーが溢れ出し、周囲を照らした。
「……素晴らしいです、アース様! ついに、精神統一ができました!」
ノワールは、喜びの声を上げた。
「……やった! これで、ダンジョンコアの奥深くへ行ける!」
アースは、興奮した。
しかし、アースは、まだ知らない。ダンジョンコアの奥深くで、待ち受けているものが、想像を絶するほどの狂気であることを……
そして、その狂気が、アースだけでなく、ダンジョン全体を飲み込もうとしていることを……