29.潜む狂気、歪む日常
ノワールを仲間に迎え、ダンジョンには、平穏な日々が戻ったかのように見えた。アースは、ノワールと共に、ダンジョンの管理や強化に励み、エミリーは、新たなポーションや魔法の研究に没頭し、スライムたちは、それぞれの役割を果たしながら、日々成長を続けていた。
しかし、アースは、心の奥底で、拭いきれない不安を感じていた。ダンジョンコアの歪みが、本当に消え去ったのか、確信が持てなかったのだ。
(……ノワールは、確かに俺の意思に従ってくれている。だが、ダンジョンコアの奥底には、まだ何かが潜んでいるような気がする……)
アースは、警戒を怠らず、ダンジョンコアの状態を常に監視していた。
そんなある日、ダンジョン内で、奇妙な現象が発生し始めた。
「……アース様、大変です! 一部のスライムたちが、急に凶暴化し始めたのです!」
スライムヒーローが、慌てた様子で、アースに報告してきた。
「……何だと!? 凶暴化……!? 一体、何が起こっているんだ!?」
アースは、すぐに現場へと向かった。
現場に到着すると、そこには、目を血走らせ、互いに攻撃し合うスライムたちの姿があった。彼らは、普段は温厚な性格なのに、まるで狂ったように、相手を攻撃していた。
「……一体、何が……!?」
アースは、混乱しながら、スライムたちを止めようとした。しかし、凶暴化したスライムたちは、アースの言うことにも耳を貸さず、攻撃を続けていた。
その時、ノワールが、アースの前に立ち塞がった。
「……アース様、下がってください。このスライムたちは、ダンジョンコアの歪みに影響されています。近づくのは危険です」
ノワールは、冷静に答えた。
「……ダンジョンコアの歪み……!? やはり、まだ残っていたのか……!」
アースは、覚悟を決めた。
「……ノワール、こいつらを止める。力を貸してくれ」
「……承知いたしました、アース様」
ノワールは、その体から、黒いエネルギーを放出した。そのエネルギーは、凶暴化したスライムたちを包み込み、彼らの動きを封じた。
「……今だ、アース様! スライムたちを、【マインドコントロール】で正気に戻してください!」
ノワールは、アースに指示した。
アースは、ノワールの言葉に従い、凶暴化したスライムたちに、【マインドコントロール】を放った。スライムに対する【マインドコントロール】は、対象の精神を支配するだけでなく、知性と、言語能力を付与する効果がある。これは、アースがスライムたちとの意思疎通を円滑にするために意図的に魔法を調整した結果だった。すると、スライムたちは、徐々に正気を取り戻し、我に返った。
「……あ、アース様……? 俺たちは、一体……?」
正気に戻ったスライムたちは、混乱した様子で、アースに問いかけた。
「……大丈夫だ。もう、安全だ。少し、ダンジョンコアの歪みに影響されていただけだ」
アースは、スライムたちを安心させた。
しかし、アースの表情は、険しかった。ダンジョンコアの歪みは、完全に消え去ったわけではない。それどころか、徐々にその力を増している。
「……このままでは、ダンジョン全体が、狂気に染まってしまうかもしれない……」
アースは、深刻な事態に直面していることを悟った。
その夜、アースは、ノワールを呼び出し、今後の対策について話し合った。
「……ノワール、ダンジョンコアの歪みは、確実に力を増している。このままでは、ダンジョン全体が、狂気に染まってしまうだろう」
アースは、真剣な表情で、ノワールに語りかけた。
「……はい。私も、それを感じています。ダンジョンコアの奥底には、強大な負のエネルギーが蓄積されています。このまま放置すれば、いずれ、ダンジョンは崩壊してしまうでしょう」
ノワールは、同意した。
「……何か、対策はないのか? どうすれば、ダンジョンコアの歪みを抑えることができる?」
アースは、ノワールに問いかけた。
ノワールは、しばらく考え込んだ後、答えた。
「……方法が、一つだけあります。それは、アース様が、ダンジョンコアの奥深くへと入り込み、直接、歪みを浄化することです」
「……ダンジョンコアの奥深くへ……!? そんなことが可能なのか!? それは、非常に危険な行為ではないのか!?」
アースは、驚きと不安を隠せない。
「……はい。非常に危険です。ですが、他に方法はありません。アース様が、ダンジョンコアの歪みを浄化しなければ、ダンジョンは滅びます」
ノワールは、真剣な眼差しで、アースを見つめた。
「……わかった。俺は、ダンジョンコアの奥深くへ行く。ダンジョンを救うために……!」
アースは、決意を新たにした。
しかし、アースは、知らなかった。ダンジョンコアの奥深くには、想像を絶するほどの狂気が渦巻いていることを。そして、アースの精神が、その狂気に触れた時、何が起こるのかを……