15.異名轟く、そして迫る新たな脅威
Dランク冒険者バルドを打ち倒したことで、アースのダンジョンは、その名を周辺地域に轟かせることとなった。名もなきダンジョンはいつしか「スライムの巣窟」という異名で呼ばれるようになり、冒険者ギルドの間でも、その危険度が囁かれるようになった。
しかし、バルドを倒した直後、アースは予期せぬ事態に見舞われた。バルドが持っていた魔力、そしてダンジョンコアに蓄積されていた魔力が一気に解放され、アースの身体に奔流のように流れ込んできたのだ。
「うっ……! なんだ、この魔力は……!?」
その魔力量は、アースの許容量を遥かに超えていた。このままでは、身体が魔力に耐えきれず、爆発してしまうかもしれない。アースは、危険を察知し、苦渋の決断を下した。
「仕方ない……! 魔力を放出するしかない……!」
アースは、意を決し、空気中に大量の魔力を放出し始めた。ダンジョンマスタールームは、瞬く間に魔力の奔流に包まれた。
1400魔力もの魔力を放出した後、ようやくアースの身体は落ち着きを取り戻した。しかし、アースは、放出された魔力がダンジョンに及ぼす影響を、懸念していた。
「……大量の魔力を放出してしまった。スライムたちに、悪影響がなければいいのだが……」
しかし、アースの心配は杞憂に終わった。むしろ、放出された魔力は、スライムたちにとって、好影響をもたらしたのだ。
魔力濃度が高まった空気の影響で、スライムたちは少しずつ強化されていったのだ。体組織が変化し、より強靭な肉体を手に入れた個体や、新たなスキルを獲得した個体も現れた。
さらに、ダンジョンの支配領域も拡大した。これまでの半径50メートルから、なんと半径500メートルにまで拡張したのだ。
「すごい……! まさか、魔力を放出したことが、こんな良い結果に繋がるとは……!」
アースは、驚きを隠せない。しかし、支配領域の拡大は、新たな問題も生み出した。
「支配領域が広すぎる……! これでは、スライムたちの統治が、行き届かない……!」
現在のスライムコマンダーは、群体統率(低)のスキルしか持っていない。半径500メートルもの広大な領域を、完璧に統治するには、能力が不足していた。
そこで、アースは、スライムコマンダーの強化を決意した。
「スライムコマンダーを強化し、統治能力を高めるしかない……!」
アースは、ダンジョンコアに残された、貴重な600魔力を全て使い、スライムコマンダーをもう1体召喚することにした。
新たに召喚されたスライムコマンダーは、既存のスライムコマンダーと共に、互いを高め合い、スキルが群体統率(中)へと進化した。
群体統率(中)のスキルを得たスライムコマンダーは、半径500メートルの領域を、完全に掌握することができるようになった。
「よし……! これで、安心して領域を拡張できる……!」
アースは、満を持して、ダンジョンの支配領域を半径1キロメートルまで拡張した。領域内は、無数のスライムがうごめき、まさにスライムの楽園と化していた。
しかし、アースが安堵したのも束の間、新たな脅威が迫りつつあった。
ホーリー神聖統一国家。大陸最強と謳われる、巨大な国家である。そのトップ戦力である神聖騎士団は、並みの冒険者では、太刀打ちできないほどの、圧倒的な実力を持つ。騎士団員は全員先のDランク冒険者10人を単騎で倒せるレベルの実力者である。
その神聖騎士団にも、スライムダンジョンの噂は、耳に入っていたのだ。騎士団内では、スライムダンジョンを討伐するかどうか、会議が開かれた。
しかし、会議の結果、スライムダンジョンは見逃されることになった。理由は、現時点では、脅威度が低いと判断されたからだ。
マペットの情報網を通して、神聖騎士団の決定を知ったアースは、安堵のため息をついた。
「……助かった。神聖騎士団に目をつけられたら、ひとたまりもなかっただろう……」
しかし、アースは、気を緩めることはなかった。
「神聖騎士団は、今回は見逃してくれた。だが、いつまでも安全とは限らない。油断せずに、ダンジョンを強化し続けなければ……!」
アースは、決意を新たに、ダンジョンのさらなる発展を目指すことを誓った。