11.迫りくる脅威、ダンジョン拡張の必要性
マジカルスライムの登場により、ダンジョンの罠は自動化され、より強固なものとなった。スライムたちの訓練も順調に進み、その力は日増しに増していた。アースとエミリーは、着実に最強のダンジョンへと近づいていることを実感していた。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
ある日のこと、アースはダンジョンマスターとしての能力を使い、ダンジョン周辺の状況を探っていた。すると、これまで感じたことのない、強大な魔力の波動を感じ取ったのだ。
(これは……一体何だ? こんな強大な魔力、これまで感じたことがない……)
アースは警戒心を高め、エミリーに声をかけた。
「エミリー、大変だ。ダンジョンの近くに、とんでもなく強い魔力を持った存在が近づいている」
「えっ!? どんな相手なの?」
エミリーが不安そうに尋ねる。アースは、眉をひそめて答えた。
「詳しいことは分からない。ただ、その魔力は、Eランク冒険者どころではない。もしかしたら、Dランク、いや、それ以上の実力を持っているかもしれない」
アースの言葉に、エミリーは息を呑んだ。Dランク以上の冒険者といえば、並みの実力者ではない。そんな相手が、なぜこの辺境のダンジョンに近づいてくるのだろうか。
「一体、何が目的なんだろう……? 私たちのダンジョンに、何か価値があるとは思えないけど……」
エミリーが首を傾げる。アースは、何かを考えるように、腕組みをした。
「目的は分からない。だが、一つだけ確かなことは、その存在は、私たちにとって脅威になるということだ。今のままでは、太刀打ちできないかもしれない……」
アースは、ダンジョンの現状を冷静に分析した。罠は自動化され、スライムたちの力も向上したが、それでも、Dランク以上の冒険者に対抗するには、まだ力が足りない。
「……ダンジョンを拡張する必要がある。もっと広い空間を作り、より強力な罠を仕掛けなければ、勝機はない」
アースは、決意を込めて言った。エミリーもまた、アースの言葉に頷いた。
「うん、私もそう思う。今のダンジョンは、狭すぎる。もっと広い空間があれば、スライムたちも自由に動き回れるし、新しい罠を仕掛ける場所も増える」
アースは、早速ダンジョン拡張の準備に取り掛かった。しかし、ダンジョン拡張には、大量の魔力が必要となる。
(魔力は、まだ半分以上残っている。だが、ダンジョンを拡張するには、十分とは言えない……。何か、魔力を効率的に集める方法はないだろうか……?)
アースは、思考を巡らせた。すると、以前エミリーが言っていた言葉を思い出した。
(そうだ……。ダンジョンの評判を広げれば、もっと多くの冒険者が訪れるようになる。そして、冒険者たちを倒せば、魔力を得ることができる……!)
アースは、ダンジョンの評判を広めるために、ある作戦を思いついた。
「エミリー、ダンジョンの評判を広めるために、ちょっとした仕掛けをしようと思う」
「仕掛け? どんな仕掛け?」
エミリーが興味津々で尋ねる。アースは、ニヤリと笑って答えた。
「ダンジョンの中に、宝箱を隠すんだ。ただし、今回は、宝箱の中身を少し変える」
「変える? どういうこと?」
「ただの宝石や金貨では、すぐにバレてしまう。倒した冒険者たちの武具を、宝箱に入れておくんだ」
アースの言葉に、エミリーは目を丸くした。
「倒した冒険者の武具……? それって、何か意味があるの?」
「ああ。冒険者たちは、自分の武具を失うことを、何よりも恐れる。もし、ダンジョンの中で、質の良い武具を見つけたら、**『このダンジョンには、強い冒険者がたくさん挑んでいる』と思うはずだ。そして、その噂が広まれば、『自分の腕試しをしてみたい』**と思う冒険者が、必ず現れる」
アースは、さらに続けた。
「もちろん、ただ武具を入れるだけでは、面白くない。宝箱には、強力な罠を仕掛けておく。冒険者たちは、宝箱を見つけて喜ぶだろうが、罠にかかって、痛い目を見るはずだ。そして、**『このダンジョンは、生半可な冒険者ではクリアできない』**という噂が広まれば、腕に自信のある冒険者が、続々と集まってくるようになる」
アースの作戦を聞いたエミリーは、感心したように頷いた。
「なるほど……。それなら、確かに、冒険者たちは騙されるかもしれないね。アースって、やっぱり頭がいいなぁ」
エミリーはそう言いながらも、アースの作戦に協力することにした。
アースとエミリーは、早速ダンジョンの中に、宝箱を隠し始めた。宝箱の中には、Eランク冒険者たちが使っていた、剣や鎧、魔法の杖などが、丁寧に収納されている。もちろん、宝箱には、強力な罠が仕掛けられている。針が飛び出す仕掛け、毒ガスが噴射される仕掛け、爆発魔法が発動する仕掛け……。
宝箱の設置が終わると、アースはダンジョンの入口に、小さな看板を立てた。
「このダンジョンには、お宝が眠っている! 失われた武具、名誉、そして、更なる強さを求めて、挑戦者を待つ! ただし、生きて帰れるとは限らない!」
その看板を見た冒険者たちは、色めき立った。
「失われた武具だと!? もしかしたら、伝説の武具が眠っているかもしれない!」
「名誉……か。このダンジョンを攻略すれば、俺の名前は、冒険者ギルドに永遠に刻まれるだろう!」
「生きて帰れるとは限らない……か。ふっ、面白い。俺の血が騒ぐぜ!」
冒険者たちは、次々とダンジョンの中に足を踏み入れた。そして、アースとエミリーが仕掛けた罠に、次々と引っかかっていく。
ダンジョンの中には、悲鳴と絶叫が響き渡った。しかし、アースとエミリーは、それを意に介さず、淡々と魔力を回収していった。
そして、数日後。アースは、ついにダンジョン拡張に必要な魔力を集めることに成功した。
「よし、エミリー。準備はいいか? いよいよ、ダンジョンを拡張するぞ!」
アースは、興奮した様子で言った。エミリーもまた、笑顔で頷いた。
「うん! どんなダンジョンになるか、楽しみだね!」
アースとエミリーは、手を取り合い、ダンジョンマスターの力を行使した。ダンジョン全体が、激しく揺れ始めた。そして、ゆっくりと、その姿を変えていく……。