10.固有進化
Eランク冒険者5人を打ち破った激戦の翌日、ダンジョンに異変が起きた。4匹のスライムに、明確な変化が現れたのだ。それは、ただ単に能力値が上昇したというだけではなかった。彼らは、明確な個性を持つ、唯一無二の存在へと進化したのだ。
群体を統率していたスライムは、その知性と統率力をさらに高め、頭部に小さな王冠のような突起物が現れた。アースは、そのスライムを「スライムコマンダー」と名付けた。
圧倒的な力を持っていたスライムは、さらに巨大化し、その体には硬い甲殻のようなものが形成された。アースは、そのスライムを「ビッグスライム」と名付けた。
強力な毒液を操っていたスライムは、体色がより鮮やかな緑色に変化し、毒液の生成能力がさらに向上した。アースは、そのスライムを「アシッドスライム」と名付けた。
そして、驚異的な速度を誇っていたスライムは、その体の表面に風を纏うような模様が浮かび上がった。アースは、そのスライムを「ハヤブサスライム」と名付けた。
「ハヤブサスライム……? なんだそりゃ」
アースは思わずツッコミを入れた。エミリーはクスっと笑いながら答えた。
「だって、速いスライムなんだから、ハヤブサでしょ? 他にどんな名前があるのさ」
「いや、まあ、確かにそうなんだけど……。もうちょっと、こう、ひねりが欲しかったかな……」
アースは苦笑しながら言った。しかし、その言葉とは裏腹に、アースはスライムたちの進化に興奮していた。ステータスを確認すると、以前の比ではないほど、能力値が跳ね上がっていたのだ。
「こいつら……本当に強くなったな……。Eランク冒険者を倒しただけで、ここまで進化するとは……」
アースは感嘆の声を上げた。
さらに、驚くべきことに、Eランク冒険者5人を倒したことによって、ダンジョンに蓄積された魔力が、貯蓄限界である300ポイントに達してしまったのだ。
「うわ……本当に満タンになっちゃった。どうするの、アース? また何か作る?」
エミリーがアースに尋ねた。アースは少し考え、答えた。
「ああ。魔力は、溜め込んでいても意味がない。有効活用しなければな」
アースは、溜まった魔力をどのように使うか、慎重に検討した。
「まずは、スライムの数を増やすか。今のスライムだけでは、まだ数が少ない。ダンジョンの防衛力を高めるためには、もっと多くのスライムが必要だ」
アースはそう考え、300魔力の内、半分の150魔力を使って、15匹のスライムを生成することにした。
新たに生まれた15匹のスライムたちは、まだ生まれたばかりで弱々しいが、アースは彼らをスライムコマンダーに預け、訓練を受けさせることにした。
「そして、残りの魔力だが……。これは、ちょっと特別なスライムを作ろうと思う」
アースはそう言い、残りの150魔力の内、100魔力を使った。
アースが作り出したのは、透き通るような美しい体を持つ、不思議なスライムだった。そのスライムの体の中には、複雑な魔法回路が刻まれており、微量の魔力を消費することで、様々な魔法効果を発揮することができる。
アースは、そのスライムを「マジカルスライム」と名付けた。
「このマジカルスライムに、エミリーが作動させていた罠の動力源になってもらう。そうすれば、エミリーは魔力を消費する必要がなくなる」
アースはそう言い、マジカルスライムを罠の近くに配置した。マジカルスライムは、アースの指示に従い、罠に魔力を供給し始めた。
すると、これまでエミリーが魔力を流して作動させていた罠が、マジカルスライムによって、自動的に作動するようになったのだ。
「……すごい……。本当に動いてる……。私が魔力を流さなくても……」
エミリーは、その光景を目の当たりにし、呆然とした。
「……私、もしかして、もう必要ないのかな……。罠はマジカルスライムが動かしてくれるし、スライムたちは強くなったし……。私がいなくても、アースなら、このダンジョンを最強にできるんじゃないかな……」
エミリーは、不安そうな表情で呟いた。アースは、エミリーの肩に手を置いた。
「エミリー、何を言ってるんだ? そんなこと、絶対にない」
アースは真剣な眼差しでエミリーを見つめた。
「確かに、マジカルスライムのおかげで、罠は自動的に作動するようになった。スライムたちも、お前のおかげで、強くなった。でもな、エミリー。俺にとって、お前は、それ以上に大切な存在なんだ」
「……どうして……?」
エミリーが涙目で尋ねる。アースは、エミリーの頬を優しく撫でた。
「お前は、俺の最初の仲間だ。何も持っていなかった俺に、希望と勇気をくれた。お前がいなければ、今の俺はいない。それに、お前の土魔法は、ダンジョンにとって、なくてはならないものだ。これからも、お前の力が必要だ」
アースはそう言い、エミリーを優しく抱きしめた。
「……アース……」
エミリーは、アースの温もりに包まれ、涙を流した。
「……ありがとう、アース。私、これからも、アースのそばにいる。一緒に、このダンジョンを最強にする!」
エミリーは、涙を拭い、笑顔を見せた。アースもまた、エミリーの笑顔を見て、安堵した。
「ああ、エミリー。これからも、一緒に頑張ろう」
アースはそう言い、エミリーの手を握りしめた。二人の間には、言葉では言い表せないほどの強い絆が生まれていた。