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秩序が崩れたとき

翻訳のため投稿が遅れました

ピストス(皮斯托ス)

かつて、天上には繁栄した都市——オリンピスがありました。そこは光に満ち、世界に平和をもたらし、無数の天使たちの故郷でした。しかし、今やそこは悪魔と堕天使に踏みにじられた廃墟と化してしまいました。

私たちを守る淡い青色の障壁が大きな穴を開け、悪魔と堕天使が洪水のように押し寄せ、すべてを破壊しました。


輝かしい金色のドームはひび割れ、栄光と光明を刻んだ壁画は戦火に黒く焦がされて色を失いました。

街中には壊れた像と命を奪われた天使たちの遺骸が散らばり、絶望の絵画のような光景を作り出していました。天使たちの哀しげな叫び声と堕天使の冷酷な嘲笑が街に響き渡り、深紅の血が広がり、オリンピスを赤く染めました。


【ピストス(皮斯托ス)!上を見て!】

私は空を見上げました。本来ならば清らかであるはずの空は、無数の翼をはためかせる悪魔に覆われ、彼らは嘲笑しながら私を見下ろしていました。


悪魔の両手から赤い光が放たれ、熱い炎が空を切り裂いて耳障りな音を立てながら私を目掛けて降り注ぎました。熱波が顔を襲い、私を飲み込もうとしています。


逃げようと身を起こしかけたその瞬間、激しい痛みが私を襲いました。

矢が無情にも私の太腿を貫き、骨を焼くような痛みが全身を駆け巡りました。私は地面にひざまずき、血が次々と溢れ出し、涙が止めどなくこぼれ落ちました。火球の熱波が迫り、死が目前に迫るのをただ見つめるしかありませんでした。

「まだ死にたくない!誰か助けて!」

絶望が冷たい手のように私の喉を締め付け、心は真っ白になりました。——これで終わりなのか?


【ピストス!気をつけろ!】

戦士の姿が私の目の前に現れました。彼は私を押し倒し、自分の身体で炎の衝撃を受け止めました。焦げた匂いが漂い、彼の鎧は黒く焼け焦げていました。


【痛えな!】

彼は歯を食いしばって痛みに耐え、傷を負いながら私を抱え上げ、足を引きずりながら近くの残骸へ向かい、私を角に置きました。そして再び門の前に立ち、防御の構えをとりました。

彼の背中はひどく焼け、筋肉は焼けただれた傷口から血が滲んでいました。それでも彼は門の前に立ち、盾のように私を守ってくれました。


私は壁にもたれかかり、荒い息を繰り返しました。身体は空っぽになったように感じました。

傷口には不気味な赤い肉腫が広がり続け、力が抜けていきました。


外からは羽ばたきの音と悪魔たちの重い足音が聞こえ、呪いのような低い声が耳に侵入してきました。

彼らは繰り返し同じ言葉を口にしました。【皆殺しだ!皆殺しだ!】その声は針のように私の心に突き刺さり、無限の殺意と嘲笑を含んでいました。


動く力が尽き、戦士が火光に照らされる背中を見つめるしかありませんでした。壊れた鎧の下から血が滴り、衣の裾を赤く染めていました。それでも彼は崩れることなく、私を守る盾となり続けていました。


【ごめんなさい、もう力が残っていません。】

震える声で、悔しさと自責の念に満ちた言葉を紡ぎ出しました。本来ならば戦士たちを治癒し支援すべき私が、大きな負担となってしまったのです。


しかし彼は私の無力さを責めることなく、微笑みながらそっと私を抱きしめ、まるで怯えた子供を慰めるようでした。


【大丈夫、ちょっとの傷だ。】

彼は腰から水晶を取り出し、それを凝視しました。水晶は淡い青色の光を放ち始め、それが戦士の顔を照らしました。その瞬間、彼の顔には驚きと静けさが混ざり合った表情が浮かびました。


【君は優しくて思いやりのある女神だろう?使命を果たしてくれ。俺たちは滅びる運命だが、これが終わりではない。】

慰めの中に、決意が込められた言葉でした。


私は疑問を抱えながら口を開こうとしたが、突然の眩しい白い光が視界を覆い、洪水のように私を包み込んだ。体がふわりと軽くなり、無数の欠片に引き裂かれたような感覚の中で、その光に流され、遠くへと運ばれていった。


気がつくと、彼の姿はどこにもなかった。

そして私は壮麗な宮殿の中に立っていた。

ここがゼウスの宮殿、オリンポス最後の砦だということを、私は理解した。


宮殿の中はほのかな涼しさを感じさせるが、漂う重苦しい圧力を隠すことはできない。黄金で作られた高い天井の下、中央にそびえるゼウスの像は今も毅然として立っているが、その眼差しにはかつての威厳はなく、言葉にできない哀しみが宿っているように見えた。

私はこの栄光の最後の砦に立ち、手のひらに握りしめた水晶を見つめながら、戦士が最後に告げた言葉を思い出していた。

だが、その言葉の真意は分からず、これから進むべき道も見えない。全てが霧に包まれているようだった。未来がどうなるかなど、誰にも分からない。


「傷を負っているな。」

ゼウスの声は低く、隠しきれない疲れを帯びていた。彼は私のそばに歩み寄り、膝をついて座り、巨大な手で私の脚に刺さった矢をそっと引き抜いた。掌から放たれる緑色の光が、傷口を癒し、腐りかけた肉を瞬く間に再生させていく。


「ピストス、お前は私の最も忠実な従者だ。だが、それがお前にとって最大の枷にもなっている。」

ゼウスは私の肩に手を置き、目を逸らさず見つめてきた。その瞳には揺るぎない決意が宿りつつも、一抹の悲しみが滲んでいた。彼は手にした水晶を見つめ、その表面を指先でそっと撫でながら、重い記憶を抱えるような仕草を見せた。


「この水晶は、オリンポスの最後の希望だ。それは変化をもたらすが、その代償は大きい。選ぶのはお前だ。私は干渉しない。だが、どんな選択をしようとも、私はお前を信じている。」


ゼウスはそう告げると、腰に佩いた剣を抜き取り、残された禁衛軍を率いて大扉へ向かった。


大扉の向こう側には、すでに悪魔と堕天使が群れを成して押し寄せていた。

悪魔と堕天使の影が波のように宮殿へと押し寄せる。その手には血に染まった武器を持ち、嘶き声や嘲笑が響く。周囲には無数の天使の無惨な遺体と首が吊るされている。堕天使の翼はすでに深い黒に蝕まれ、手にした剣からは全てを飲み込む深淵のような闇の光が放たれていた。その冷たい眼差しは、この虐殺がただの例行事務であるかのような冷徹さを帯びていた。


ゼウスは宮殿の扉の前に立ち、迫り来る敵軍を前に長剣を高く掲げた。その背中は直立し、揺るぎない意志を感じさせた。

「我は闇に屈することなく、秩序を守り、お前たちを討つ!」

その声は雷鳴のごとく空間に轟き渡り、全ての嘲笑や喧騒を一瞬で打ち消した。彼は振り返り、まだ宮殿内に残る天使たちに低く命じた。

「扉を閉じろ!」


扉はゆっくりと閉ざされ、宮殿の中には抵抗できない天使たちだけが残された。


隅からは天使たちの無力なすすり泣きや、死を前にした絶望の叫び声が聞こえてくる。扉の外では、剣と剣のぶつかり合う金属音、魔法の炸裂する鋭い音が鳴り響き、悪魔と天使の悲鳴が混じり合い、心をえぐる死の交響曲のようだった。

ピストスは壁に寄りかかりながら、水晶の柔らかな光を見つめていたが、その心の中は嵐のように混乱していた。ゼウスの言葉が脳裏を巡り、生き延びたいという渇望と激しくぶつかり合っていた。


「逃げる?本当にそれでいいの?」

「死にたくない!死にたくない!」

「もし逃げたら、この世界はどうなる?混乱でどれだけの命が消えるだろう?」

「全部ゼウスの責任なのに!どうして私がその責任を負わなければならないの?」

彼女は膝を抱え、耳を塞ぎ、外の耳障りな殺戮の音や心の中の喧騒を追い払おうとした。しかしその音は呪いのように耳に染み込み、彼女を窒息させるような無力感に陥らせた。


「どうして?どうして私がこんな選択をしなければならないの?天使なんかになるんじゃなかった!」

涙がこぼれ落ち、彼女は自分の手が震えているのを感じた。胸には重い石が乗っているようで、息ができない。

その時、ゼウスの声が突然脳内に響いた。


「お前は私の最も忠実な僕だ。」

この言葉はかつて彼女に誇りを与えたが、今では見えない枷となって彼女を縛りつけていた。


過去の記憶と感情の葛藤

彼女は涙でぼやけた目を開き、脳裏には過去の記憶が浮かんだ――オリュンポスの日々。

来たばかりの頃、戦士が優しく案内してくれたこと。裁判所での激しい議論。ゼウスに専属の僕として選ばれたときの喜び。暗殺団の刺客の照れた告白。同僚たちとのじゃれ合い、そしてゼウスへのちょっとしたいたずら……

これらの記憶はかつて彼女の人生のすべてだったが、今では灰となり、血と火とともに消え去った。


彼女の目は再び水晶に向かい、その微かな光が瞬き、まるで彼女に選択を迫るようだった。


ゼウスの堕落と苦悩の選択の引き金

ドン――バタン!

大きな音とともに扉が開かれ、悪魔と堕天使たちがゼウスを引きずって宮殿に入ってきた。彼の体は矢と傷だらけで、血がマントを真紅に染めていた。

悪魔たちはゼウスを弄ぶように地面に投げつけ、「秩序」とやらを嘲笑した。堕天使は大剣を高く掲げ、容赦なくゼウスの首を斬り落とした。


「ゼウス!」

ピストスは叫び声を上げたが、ただ見ていることしかできなかった。悪魔たちはゼウスの体を次々に解体していった。心臓、脳、腕、脚、翼、目……一つ一つの器官が切り取られ、最後に残った胴体はゴミのように投げ捨てられた。

堕天使は剣を手に取り、次々と天使を処刑し始めた。


五人……四人……三人……二人……

ピストスの心は完全に崩壊した。堕天使が彼女の前に立ったとき、彼女は無力感と絶望に押しつぶされそうだったが、その奥底には怒りと反抗心が燃えていた。


「お前に治療してもらった恩があるから、何か遺言は?」

堕天使は冷たい笑みを浮かべ、剣の切っ先を彼女の額に当てた。

ピストスは彼を見つめ、最後の反抗の炎を灯した。彼女は戦士の姿を思い出した――傷だらけの顔、そして彼の揺るがない言葉:


「たとえ私たちが滅びるとしても、それは終わりではない。」


再び涙がこぼれたが、今度の彼女の目は揺るぎない光を放っていた。

「私たちが滅びるとしても、それが終わりではないなら……希望はまだあるはず!」

彼女はゆっくりと水晶を掲げ、指先から光があふれ出し、宮殿全体を眩い白色に染め上げた。堕天使は目を見開き、不安そうに動揺した。

「この世界に新たな希望をもたらして!」

水晶から放たれる柔らかな光とともに、ピストスは自分の命が少しずつ吸い取られるのを感じたが、そこに後悔はなかった。


「希望……それは本当に終わりじゃないんだ。」

彼女は最後にそうささやき、身体は塵となり、風に乗って宮殿中に舞い散った。光が徐々に消えたとき、彼女の姿もオリュンポスと共に消え去り、水晶の中には未来を育む微かな光だけが残っていた。


「おばあちゃん!どうしてあの女神はそんなバカなことをしたの?逃げればよかったじゃない!生きること以上に大切なものなんてあるの?」


「それはね、彼女が信じていたからだよ。生きること以上に大切なものがあるって。」


「生きること以上に大切なもの?例えば家族のこと?」

孫娘は首をかしげておばあちゃんを見上げた。おばあちゃんは微笑みながら、彼女の頭をそっと撫でた。


「そうかもしれないね。いつかあなたにもわかるよ。自分を犠牲にしてでも、もっと大切なものを守らなければならないときがあるって。」

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