アノヒノムコウヘ
真っ黒なキャンパスにドカーン、と大きな炸裂音を響かせながら方々へと散り行く先輩方を見つめる。
「あれを目指そうな!」
そう言い放ちながら、僕の同期は市販のロケット花火へと姿を変えた。
「あら、思ってた以上に見窄らしいのね」
密かに憧れていた異性の先輩は、僕を見遣るといかにも風流だろうと言わんばかりに鼠花火になっていた。確かに派手だけども。
「私は、穏やかなのが好きかな」
そうして結局、幼馴染の所へ帰ってきてしまった。
火を点けると人魂のようになってしまう彼女は、確かに穏やかで幻想的な色をしていた。
消え行く彼女を見守りながらも、僕は何も出来なかった。
僕はまだ、何者でもなかった。
「これがよ、一番花火矜持を持つんやぞ。分かったか!」
「いや、いまいちあまり......」
「アホか! 男なら打ち上がれ! 上に上がれェ!」
上昇志向の強い先輩は、言い遺すと爆速で消えていった。
楽しみなど何もなかった。
ただ、ひたすらに選ばれないことだけを祈った。少しずつ湿り気でダメになりながらも、それでも彼らと同じになることは避けたかった。
死にたくなかったのだ。
「久しぶりだねー! 線香花火!」
僕の敵として立ち塞がったのは、丁度先輩方を見送った頃、ろくに花火も知らなかった子供だ。
知らない。この子のことも、先に殺られた先輩のことも。
「それじゃ、点けるよー!」
能天気な掛け声と共に、僕は死刑場へと運ばれる。そもそもものすごい力で握られているのだから、何の抵抗も出来やしない。
ジリジリ、ジリジリと身を焼く音が響く。湿っているからきっと時間もかかるのだろう。
「あっ! 点いた!」
その瞬間、自らが、全てが、弾け飛んだ。
何故、彼らが打たれることを是とするか。
何故、各々の打たれ方を所望するか。
何故、僕は今、今までにないほど注目を求めているか。
「見ろ、見ろよ!」
僕は真っ逆さまに向かって絶叫する。
同期への同調の出来なさと、先輩への思いやりの無さと、幼馴染への郷愁が相まって、叫ぶ。
「僕が、僕こそが、花火なんだ!!」
最後の一滴はコンクリートの地面に落ちて、静かに消えていった。