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『退院おめでとう』

「ん?」


 入院していたことを教えたのか。急に不安になって二人のやり取りをさかのぼってみた。


『清水先輩大好き! 今度の土日、デートしませんか』

『弓弦は積極的だね』

『息抜きも必要ですよ。先輩のためならなんでも協力します!』

『気分転換がしたくなったらデートに誘うよ』

『身体洗って待ってますねw』

『弓弦のほっぺた、柔らかかったよ』

『いやーん、清水先輩のエッチ♡』

「なんだ、これはー!!!!!」


 思わずスマホを投げそうになって、ぐっとこらえる。俺と森崎よりも、清水と美羽のほうが進展しているのが信じられない、信じたくない。


「清水の野郎、紳士なツラしてむっつりスケベじゃねえか。こうしてやる」


 指は滑らかに動いた。


『ジャジャーン。全部冗談だぞ。おつきあいご苦労さん。さよなら』


 送信。すぐに既読がついた。


「なんてことすんのよ。先輩に嫌われたらどうすんのよ、弓弦のバカ!」


 美羽が耳元で喚いているがかまうことはない。


「俺の穴は俺が守る。清水とエロいことして成仏しようとすんな。諦めろ。あれ……?」


 トークをさかのぼって気付いたが、入院のことは一切書かれていない。削除したのだろうか。削除する意味はないと思うが。


「清水先輩はすごく頭がいいんだよ。何にも書かなくても退院したことがわかるんだもん」


 美羽は鼻高々に腕を組む。


「そんなことあるわけないだろ」


 俺の知らないうちに電話をして、履歴を消したのかもしれない。


「昨夜会ったときに、着ていたのが患者衣だと気付いていたみたい。指摘しなかったのは優しさだよね」

「そうか。左手首にバンドを巻いていたしな」


 入院中、姓名、生年月日、病院名が印字されたバンドをつけていたことを思い出した。


「病院から抜け出して会いに行ったのは一目でばれてたろうな。にしても、退院したかどうかはわからないだろう」

「ああ、そうね。なんでだろう。愛の力かな」


 探偵倶楽部同好会。清水が会長をしているという同好会とは覗き趣味を取り繕ったものらしい。


「それになんで清水は律儀に返信しているんだ。暇人か?」


 美羽はむっとした顔で睨んできた。 

 病院から抜け出した、頭のネジがはずれちゃったやつと思われているのなら、むやみに刺激しないように気遣ってるのかもしれない。そりゃそうか。いきなり肉体関係を迫るなんて、どう考えても頭がまともじゃない。用心して当然だろう。そう考えたら、昨日のあれこれや、このLINEの文面も理解できる。

 美羽は清水の頭の良さをアピールするが、特に頭がよくなくても、俺程度でもつきとめることはできるだろう。

 見舞いのふりして病院を訪ねれば俺が退院したことはすぐにわかる。とくにおかしなことはない。


「高校生探偵、はっ、たいしたことねーな」


 妄想しすぎて心配性を発動させるような変わったやつだ。お勉強はできるのだろうが、芯の部分はそこらの高校生男子と大差ないと知って心から安堵する。


「既読ついたのに、先輩からの返信来ないじゃない」


 美羽は画面を凝視しながら泣きそうな顔になっている。


「絶対に清水先輩に嫌われた。もう死にたい」

「もう死んでること、都合良く忘れんなよ」


 森崎に連絡するつもりだったことを思い出す。美羽に遅れを取ってたまるか。


「返してよ、体!」

「俺が盗んだみたいに言うな。元々俺のなんだぞ」

「交際順調だったのにい」


 画面の前に頭を差し挟んで、美羽は必死に邪魔しようとする。


「あー、もうどけよ!」


 階下で固定電話が鳴った。母さんが出たのか、すぐに呼び出し音は消えた。

だが、しばらくしたら尋常じゃない母さんの声が響いた。いまの時間は一階の一番広い部屋で小学生の書道教室を開いていはずなのに。何を言っているのかはっきり聞こえないが、まるで演説でもしているような声の張り方をしている。


「弓弦のママ、なんか怒ってない?」


 美羽がようすを見に行くと言い出した。


「たしかにヘンだな」


 俺も階下に急いだ。階段の途中で、そっとようすを覗き見た。


「誰がやったか、正直に言いいなさい! 黙っているなんて恥ずかしくないのですか!」


 母さんは生徒に怒っていた。怒声をあげる怒り方は珍しい。

 十人足らずの小学生は全員、正座をしてうつむいている。何があったのだろう。

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