寝言は寝てても言わないで
私の彼氏はよく寝言を言います。
「ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!」
「クリアリング急げ」
「頭をぶち抜いてやる」
「よっしゃクラッチ決めた」
何を言っているのかは良く分かりませんが、とても楽しそうな夢を見ているようです。
翌朝。彼が起きてから、どんな夢だったか聞いてみました。
「夢? 覚えてないな。そんなに寝言喋ってた?」
すごい寝言でした。
おかげで私は、真夜中過ぎに一度目が覚めてしまったんです。
「多分あのゲームだな。昨日は休みで昼間からゲームしてたし、その夢じゃないかな。」
***
翌週は映画を観ている夢。
昨日一緒に観た映画を、もう一度観ているみたいでした。
「この人が犯人じゃね?」
「あいつがここで出てくるのか~。ファンの気持ちが分かってる。」
「嫌な奴だな、死ねばいいのに。」
「まじか、そんな伏線あったか?」
きっとあの場面だわ、とすぐ分かるほどのリアクションです。
私も同じ感想だったなとか、こんな風に思ってたんだとか、彼の意外な一面が見えて面白いです。
「寝言で映画の感想言ってたって? そんな夢見たかな…全然覚えてないよ。」
彼は朝支度をすますと、お仕事に出かけていきました。
「行ってきます。」
***
次の週は何かを食べてるみたいな夢。
「意外にうまいな。」
「こんなの食らう奴いるんだ。」
「まずいな。隠せ、隠せ。」
「甘い、甘すぎる。」
残念ながら、昨晩私が腕によりをかけて作ったビーフストロガノフではないようです。
翌朝、私は「夢の中で何食べてたの?」と聞いてみました。
すると案の定の答え。
「夢、見たかなぁ? 昨日のお昼に食べた定食かも。」
彼は昨日あったことを夢に見るけど、その夢を覚えていないみたいです。
私がそう教えてあげると、彼は恥ずかしそうに言いました。
「ほんとに? 寝言には気を付けないとなぁ。」
***
今日、彼は夜遅くにやってきました。ひどく疲れた様子で、すぐに寝てしまいました。
彼の寝言のせいで、またまたまた私は深夜に目を覚ますことになりました。
「やっべ。これ絶対やりすぎた。」
「動かねーじゃん。」
「埋めよっか。車出せる?」
「海なんて、すぐ浮いてきて見つかるって。」
お仕事の夢でしょうか。まだまだ寝言は続きます。
「おい、はやくしろ。」
「もっと深い穴にしろよ。動物が掘り起こすことがある。」
「そっち持てって!」
「土を掛けたら、しっかり押し固めるんだ。」
それとも、いつものゲームの夢かな?
「避けといた落ち葉を被せろ。」
「慣れてる? まあな。よくやってる。」
「何も喋んじゃねぇぞ。」
「その時は、お前もその隣に埋めるからな。」
最後の彼の言葉は、低く恐ろしい声でした。
翌朝、彼は目を覚ますと一番に聞いてきました。
「なあ。俺、変な寝言言ってなかった?」
私は内心焦りましたが、顔には出さず「なんでそんなこと聞くの?」と返しました。
「ほら、いつも俺の寝言を教えてくれるじゃん。」
朝の彼は、いつもの優しい彼でした。私は安心して「埋めるとか何とか言ってた。」と答えました。
彼の顔が一瞬引きつりましたが、すぐに笑顔に戻りました。
そして、私をデートに誘ってくれました。
「そうだ。今日は山へキャンプに出かけないか?」