St.ベイべー18
PM12:30
何人かの男の人の声で目が覚めました。
う。けっこう時間が経っているのではないでしょうか…。目隠しされては何も見えませんが隣にはテオくんがいるようです。一緒にぐるぐる縛られてるようだし。
う~ん。ユリウスに膝召還されてないようですが…。まさか、見捨てられたのでは無いでしょうね…。お腹痛いって言ったのが裏目にでた!?トイレで唸ってるって思われてるのかな!?
「おい、このカッパはなんなんだよ?クレーメンスの会長の孫だけのはずだろ?」
「ガキが放さなかったんだよ!」
「…ったく。後始末が大変になるだろうが!少しは考えろよ!」
…後始末って嫌な言葉ですねぇ。
ああ、クワタンを人型に変えたのが間違いでした。絶対、今頃メイキンラブだ…。
肝心な時にいつもいない…。使い魔の自覚あるのかな。も~。
ああ。お腹すいたよう。今日は豪華バイキングランチなのにぃ!
ユリウス呼んじゃおうかな…。呼ぶしかないよね…。
来てくれなかったらどうしよう。ショック死しちゃうかもしれない。
しくしく…。
あ…テオくんが隣で泣き出してしまった。
そうだよね、怖いよね…。え~っと、あいにく私の知っているドイツ語は「イッヒメヒテ」と…
「ガンツェ~ボンマ~ネヒテラング~…へ~レンウィルデンフロシュデザング~…グァ、グァ、…。」
…英語の先生に習った「かえるのうた」でテオくんを元気付けよう|(あってるかは知らない)…といっても私はカッパだけど。いやいや元々カメのはずなんだけど。…緑つながりでもう、いいや。
「おい。カッパが呪いの歌を歌い出したぞ!」
ちょ、小声で歌ったからって「呪いの歌」は無いじゃないですか!失礼な!
その時、なにかがふわりと指先に止まった。
「姫様、お迎えにまいりました!」
そ、その声はイモムー?
「おい!黒い蝶がカッパの指に止まってるぞ!どこから入ったっていうんだ!やっぱり呪いだ!」
蝶?蝶って言った!?
そう思ったとき視界が広がった。
ええっ!!
目の前には両手のひらほどある美しい黒蝶が居た。
「い、イモムーなの!?」
「はい!姫様の為に頑張っちゃいました!」
…ま、またまた頑張ってしまったのですね…。蛹にはなったのでしょうか…。後で調べさせてください、ハアハア。
あ、それよりも…
「あの、あのさ…ユリウス…怒ってた?」
「ユリウス陛下ですか?…そうですね、犯人には怒ってましたけれど。」
「お、おい!そこのカッパ!妙なまねするとガキの命はねえぞ!どうやって目隠し取りやがった!」
あ、忘れてました。誘拐犯。え~っと。取り合えずここの見張りは二人?
外の景色が一望って事は結構高いビルなんですかね?廃屋って言葉が似合いそうな…。ワンフロアーがだだっ広い感じです。テオくんは目隠しされたまま。
「グダグダ言ったら尻こだま抜きますよ…。」
取り合えず脅しといていいですかね。大きな図体してカッパ信じてるなんてメルヘンですよ!
イモムーが綱を食べてくれて、おお、体が軽くなりました。
「ば、化け物だ…。」
とにかくテオくんを助けないと。こんな時は!ジャじゃ~ん!このイチゴミルクの錠剤です!
常備していたサモンさんとの試行錯誤の研究の結晶!いざ!
ボアン
カッパの衣装があるので誘拐犯の皆さんには見た目変わらないでしょうけど、うふふ。中身は猫娘に変身です。
どうです?クワタン無しでも変身できちゃうんですよ!あ、でもホントは半日効き目があるので今はちょびっとかじっただけです。
耳を動かしてあっちの部屋での気配が…3人。目の前には2人ですか。まあ、ドイツ人誘拐するんだから交渉できる人が絡んでないとおかしいもんね。多分隣の部屋の人がボス。
「こいつ!」
私を捕まえようと二人が必死で追いかけますが、猫娘の私にはスローモーションです。えへへ。
「姫様!お任せください!」
え?イモムーに必殺技が!?
見ると誘拐犯の顔に張り付いている模様。あらあら、ドシン、と二人が床に倒れてしまった。
「え、と。死んじゃった?」
「そこまで効果はないはずですが…。」
「もしかして鱗粉が?」
「毒みたいですね(ハート)」
「じゃあ、隣の部屋もやっつけてきてくれる?」
「あ、それは駄目です。ユリウス陛下に言われてますから。」
にっこり。
「…何を?」
ドゴン
ものすごい音と共に部屋が揺れる。パラパラ…。なんだか嫌な予感。
「姫様には耳を塞いで何かの下に隠れるようにと。」
イモムーの声を聞くや否やテオくんを抱えてひとつしかない机の下に逃げ込む。
耳を押さえながら窓の外を見れば景色が落ちていく!
ひえ~~~ッ
ドゴン
やめてぇ~
ドゴン
何だかわかんないけどゴメンナサイ~!
ドゴン
も、もしかしなくても…。
廃屋ビルで達磨落とし…。
青ざめながら衝撃を堪えて…
涙で視界が滲んでいます。
ううっ。ユリウスのいじめっ子!!