St.ベイべー15
いよいよ誕生日会です。
あれから2日ほどユリウスは夜ベットに帰ってこなくなった。それだけじゃなくって顔も見ていない。私の魔界入りで警備とかなんとかで忙しいらしい。執務室に会いに行ったら入れ違いで銀髪クンしかいなくて「お前はあの島を壊滅させる気か」と嫌味をいわれたし。
…怒っているのかな。
…怒ってるんだよね。
でもさ。私にも段取りってものがあるんだもん。
明日は休日でいよいよお誕生日会。ユリウスが機嫌を直してくれればいいんだけど。
~~~~
私はあかりさんに言われて打ち合わせのためにお誕生日会が行われるホテルの会場に来ていた。
ちょっと早かったかな。
キョロキョロしていると金髪の天使みたいな子が私を見ていた。
ん?迷子?
「え、と。キャンアイーヘルプユ~?」
8歳くらいの…男の子は私の手を引いて本を見せてきた。ロビーの長椅子に座ろうと身振りで誘われる。
「日本の妖怪大図鑑」…よくこんなもの外人の子が持ってるな…。いやいや、「ぬりかべ」見れるところは知らないよ。…「いったんもめん」ならトイレットペーパーで作ってあげるけど。
巾着袋にもいっぱい妖怪の人形入ってるんだね…うん。いいよ、おねえちゃんは砂かけばばあの着物の下には興味ないから脱がせなくっても。
いやいや、それは「さるぼぼ」で妖怪ではありませんよ。
そうして一緒に図鑑や人形を見ていると向こうから金髪美人があかりさんと血相変えてやってきた。
「~~~~!」
「~~~~」
う~ん。子供が怒られているのは分かるけど何を言っているかわかんないな…。聞き取れないし、何語かな?勇ましさからいってドイツ語?
「ゆきちゃん、テオと遊んでくれたの?ありがとう。ちょっと目を離したら居なくなっちゃって。」
「あかりさんのお知り合いですか?」
「どっちかといえば義父のお友達の家族なんだけど、私が面倒見てるの。」
「もしかしてクレーメンスの?」
「…そう。」
あかりさんはちょっと苦笑した。
「ごめんね、ゆきちゃん。悠里も怒ってたわ。お誕生日会を利用するみたいにして。義父も必死なの。許してね?」
「全然平気です。気にしないで下さい。」
「…末っ子ってこともあるけれど、兄弟の中でも悠里は特別優秀でね。お爺ちゃんが昔から悠里、悠里ってかわいがってしょうがないのよ。」
ごめんね、そういいながらあかりさんがテオとお母さんに私を紹介してくれた。う~ん、言葉全然通じないんだけど、なんだか懐かれてしまった。テオが私の服の裾持って放してくれないし。
「ユキ、~~ワラシ…。」
ん?
「あかりさん、テオくんはなんて?」
「……。気を悪くしないでね?テオは無類の日本の妖怪好きなの…。その、ゆきちゃんは理想の座敷ワラシなんだって。」
頬染めながらこの天使クンはそんなこと言ってたのか!
その後私にひっつくテオクンを金髪ママが引っぺがしてくれた。金髪妖怪子泣き爺め…子供なんだけどもさ。ヤレヤレ。
明日の段取りをあかりさんと打ち合わせして別れた。段取りといっても主に私のエステ(隣であかりさんと金髪ママもいた)がメインだったんだけど。気持ちよすぎて途中から記憶がない…。
いよいよ明日で人間界最後。
それでもやっぱり
ユリウスはその日もベットに来ることはなかった。
…
…
明日はちゃんと仲直りできるよね…。
ユリウス。
~~~~~
人間界最後の日
AM7:00
起床。
隣にぬくもりなし。はぁ~なんか朝からめげます。ここ数日顔も見てないし。
寂し死にしそうです。ハイ。
眠い目を擦って起きないと…今日は色々大変です。
誕生会は10:00から。髪の毛セットしてドレス着て。
でもその前に…
「クワタン!頼んでたのは?」
壷から顔を出す金色クワガタ。またゴテゴテと宝石のついた壷を住処にしている。まあ、以前はそれで役に立ったから文句いわないけど。
「直しが入ってちょっと時間がかかってんだ。9:00に取りに行ってくる。」
「……そっか。」
「……。」
「どうしたの?元気ないね?」
「…姫さんの清い血も飲みおさめかと思ってな。」
「ふふん。そんなの問題無しですよ。第一子は女の子ですから。その子に貰えばいいです。」
「え!?」
「アルダママ情報ですから間違いないです。そのかわり守ってもらいますよ?」
ふふ~ん。私だって色々ちゃんと考えてるんですよ!見直しましたか?
ちょっと照れたクワタンが「おう。」とだけ言った。
さて、イモムーも連れて行こうかな。
「おはようございます。姫様。」
デコ壷の隣のシンプルな壷からイモムー人型が現れる。
「おはよ。イモムーってドレスあるの?」
「はい。何枚か。レイシアス様がプレゼントしてくれるので。」
「……何気に貢クンだな。」
って、いうか誰か虫だって教えてあげなくていいのかな。ここまで来ると気付かない銀髪クンって相当のニブチンです。ま、いいけど。
朝の挨拶くらいはユリウスにしよう。
そう思ってドアを開けたらリラさんが立っていた。
「おはようございます。姫様。ユリウス陛下のご伝言です。今日は会場で待つようにと。」
「あ、あの。」
「どうかなさいましたか?」
ニコニコしているリラさんに「ユリウスは怒ってなかったかな…」とは聞けなかった。