St.ベイべー13
次の日。
帰宅途中に私を待ち伏せる黒塗りの車があった。
「湖山ゆきさんですね?」
「……。」
身長約175センチ。中肉中背。40代前半。眼鏡。濃紺のスーツに暖色系のネクタイ…。
変質者だったら通報せねば。
「ああ。すいません。突然なことで驚かれているのですね?私は藤代虎之助様の秘書をしている宮部というものです。虎之助様は悠里様の祖父。あなたは悠里様とお付き合いされているのですよね?」
女子高生に名刺攻撃はいまいちピンときませんが。いかにも切れ者です!みたいなおじさんです。答えない私にちょっとイライラして子供相手に何で俺が…みたいなオーラでてます…。でも、私の脳内データによるとこういう待ち伏せ系の人と関わるとロクな事がありません。ええ。確実に。
「…分かっていらっしゃるんでしたらご用件をドウゾ。」
「虎之助様があなたとお話をしたいそうなのでついて来て頂きたいのです。」
「…家の人が心配しますし、悠里クンにも何も聞いていませんので行きません。」
これで付いて行ったらユリウスにお仕置きされてしまいます…。その方が怖い…。
「思っていたより利口そうですね?」
よく言われますが「思っていたより用心深い」が正解です。ハイ。
回れ右で逃げようと脚を踏み出したら
…ゲッ!
ンコ踏んでしまいました!!
こ、この大きさは…バロン(近所の猛犬:宿敵)!お、おのれ~!
と、私が油断した隙に切れ者風のおじさんに黒塗りの車に押し込められてしまった。
ぎゃ~っ!
暴れる私を無理やり車内に入れたくせにおじさんは恨めしそうに私の靴を見つめて鼻をつまんだ。
…
わ、私は悪くないもん!!
~~~~~
カコーン
と、ししおどしが水を落とす。ほぁ~。いかにも敷居の高そうな日本料理店。
30分おきに良子ちゃんに電話してもらう事を条件に仕方無しに座る私。なんだかこの座布団ふかふかすぎてヤダ…。部屋の隅で黙って座ってる宮部さんはもっとヤダケド…。
ここで待てって言われてもう20分以上は経っていますがいつまで正座しなくちゃいけないのでしょうか…。
「お待たせしましたね。」
襖を開けたのは眼力のある洒落たお爺さん。この人が虎之助さんか。ユリウスが爺さまになったら禿げちゃうのかな…。私は禿げウェルカムですが。
「はい。」
「…正直な。」
そういうとお爺さんは二カッと笑う。切れ者宮部さんがビックリして私を見た。嘘ついてもしょうがないでしょ?
「はじめまして、お嬢さん。わたしは悠里の祖父で虎之助という者です。」
「はじめまして。湖山ゆきです。」
「悠里がぞっこんだと聞いたが…。」
えっと。それはノーコメントで。みんなが言うほどそうでもないはずです!私の方がまいっちゃってるんですから。
「ここに私が呼ばれたという事は、交際を辞めて欲しいとかそういうことでしょうか?」
それくらいしか無理やりつれてこられる理由が見つかりません。
「…そう言えばそうするのかな?」
「…いえ。」
「それでは呼んでも仕方ない。なに。会いたかっただけですよ。」
…でもそれなら正規ルートで御呼ばれですよねぇ…。昨晩からの藤代自動車のリコール騒ぎ。ユリウスは「大丈夫だ」って言っていたけど。…このタイミングで私が呼ばれるなら実は婚約者がいてかその婚約者が会社関係で悠里のことを諦めろとか…っていう展開かと思ったのですが。
私が首を捻っていると私の背後の襖が開いた。と、同時に引き寄せられて…
毎回なんですか?こうやって腕に抱えられるのは…。
「悠里くん?」
「……。」
返事もせずに前方を見ている悠里クン。突然の登場にビックリする暇もありません。
「よほど大事らしい。いくらわたしが呼んでも来ないのにそこの「ゆきちゃん」が居ると言えば飛んできよった。」
ユリウスに見つめられながら虎之助おじいさんがカカカと笑い宮部さんに告げる。な、なんか照れます。
「宮部さん。昨晩断ったはずですよ?祖父までそそのかして誘拐まがいのことをするなんて。手段を選ばないと俺も怒りますよ?」
「ですが、悠里さま。このままでは藤代自動車のイメージが保てません。」
「…だから俺が保有してる会社に今回の責任をかぶれって?トカゲの尻尾切りで収拾をつけるつもりですか?」
なんのことか私にはさっぱり分かりませんがユリウスが静かに怒っているのは伝わります。グッとつまる宮部さん。面白そうに見守る虎之助おじいさん。…明らかに場違いな私。
「まあまあ。ゆきちゃんにはわたしが会いたかったんだ。許せ悠里。みんなが大絶賛の「ゆきちゃん」を冥土の土産に見たかったんだよ。」
ウインクする虎之助お爺さん。う~ん。チャーミング。
「ところでお誕生日パーティをするんだってな?」
「……。」
「わたしも友達と行きたいんだが。いいかな?」
「いいかな?」ってところだけ私のほうをみて言うお爺さん…。え!?私?
そりゃ、私は…。
「は…い?」
「あ~よかった!うれしいなあ!プレゼントは好きなものをやろう。何でも宮部に言ってくれ。じゃあ、またな。」
やや大げさに私の承諾をとって喜んだお爺さんはわたしの手を握って早々と宮部さんを連れて去って行ってしまった。
その様子を私を腕に抱えながら見ていたユリウスは
「……狸め。」
と呟いた。
ユリウスが折角だからと言うのでそのまま夕食を取る事にして30分後にせっせと電話をかけてくれた良子ちゃんもご相伴に預かった。ユリウスを褒めちぎる良子ちゃんと褒めちぎられるユリウスと「まずいことしたかなぁ」とちょっと不安な私での初めての3人での食事をした。