St.ベイべー5
「おんなじ苗字なのねえ。偶然だわあ。」
…久しぶりに会う従妹は蔑んだ目で私を見て言う。
分かっていて知らんぷりすることにしたようですね。ハア。
相変わらずド真ん中の陰険さです。未来ちゃんがいてくれてよかったです。
「それじゃ、ゆきちゃん、またね。次こそ絶対ね。」
何も知らない桜さんが私に笑顔で手を振ると美咲ちゃんを連れて行く。横を通り過ぎる瞬間美咲ちゃんが私に小声でつぶやく。
「疫病神…。」
私の思考を止める呪いの言葉…。
「なにあれ。相変わらず性格悪ッ。悠里クンのお母さんのお花の教室通ってるなんて…。考えただけでもああ、嫌。…ゆきちゃん、大丈夫?」
「…う、ん。平気ですよ。関わらなければいいんですから。心配ご無用です!さ、帰りましょう!」
久しぶりに会ってびっくりしました…。本当は平気なんかじゃありませんが未来ちゃんに気を使わすわけには…。
今朝の夢見のせいもあって、なんだか嫌な感じです。
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「それで、「カメ」というのはどんな生き物なんですか?」
「あ、そか。え~っと。こうなってて…。」
未来ちゃんとお別れして家に帰ると部屋から直行で魔界へと出向いた。もちろんリラさんに衣装作りを手伝ってもらうため。
白い紙に色鉛筆で「カメ」を書く。リラさんは魔界の人だからカメを知らない。私が描いたカメの絵を見てリラさんが一瞬息を呑んだ。
??どうかしたのかな?
「と、とにかく全身を緑色の布で作って、背中に丸いものがくっついてるんですね?」
「まあ、そんな感じです。それで、どこかにこのリボンをつけようかと。」
未来ちゃんはウサギさんなのでリボンだけおそろいです。結局愁子ちゃんの分も「ついでに作っとけ」と言われているので愁子ちゃんとは超おそろい(リボンの色違いで同じ)ですけどね。2つも作るなんてリラさんがいなきゃ到底無理ですよ。
「リラの腕を信じてください!姫様にはすばらしいご衣裳を提供いたします!!」
あ、そんなに意気込まなくても。
腕まくりしたリラさんが活き活きして言うと緑の生地を持って立ち上がる…。
「え、ゆきが作りますよ?手伝ってもらえれば…。」
「このくらいさせて下さいな!派手なものにはしませんから!」
「あんまり凝らないで下さいね!あくまでも私が作った程度でへたくそにお願いします。」
キラキラした目のリラさんから布を取り返せそうもない。
ま、いっか。こんなことなら未来ちゃんのもお願いすれば良かったかな。でも、未来ちゃんはお母さんが器用だから…。
トン、トン。
「あ、ユリウス様がいらっしゃったようですね。」
扉を開けてユリウスが部屋に入ってきた。立ち去ろうとしたリラさんから先ほど私が描いた絵が落ちる。拾い上げたユリウスが変な顔をした。
「これは…ユキが描いたのか?」
「…。はい。姫様が来週ご入用の衣装のデザインです。」
それを聞いてユリウスがいっそう怪訝な顔をした。
「……。リラはこれでわかるのか?」
!!!!わ、なにその暴言!
…まあ、確かに絵がうまいといわれたことは一度もありませんが…。
「後で参考になるものを届けさせよう。」
「! 助かります!感謝します。ユリウス様!」
ぱあっと明るい顔をしたリラさんを少し恨めしく思いながら仕方ないと独りごちた。
トウビーコンティニュウ……。