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St.ベイべー4

…誰かの声が聞こえる…


「だからあの時言っただろう!産むなって!こんなことになるんじゃないかと思ったんだ!アレを手放して実家に帰って来いと何度も言っているだろう!」


「…ゆきが起きてしまう。静かにして兄さん、お願いよ。」


「フン、疫病神がいなくなったと思えば疫病神の子がいたか!」


「あの子は疫病神なんかじゃない!今回だってあの子は悪くないんだもの!私にとってあの子が生きがいなの。…お金はちゃんと返します。だから…」


「ひき逃げされて入院だって立派な疫病神だろ!ヒモ男にいい様に騙されて19でアレを産んでから良い事なんか有ったか?借金作らされて売られそうになったのは誰だよ?いつからそんな安物の服を着るようになったんだ!毎日食べていくのにやっとだろ!親にまで勘当されてなにやってんだ!」


「兄さんにだってゆきと同い年の娘がいるでしょう!子供を助けたいって、思うのが親じゃない!…お願いよ、兄さん!今回だけでいいの!」


「…どうせ借金すらできないんだろ?…その金は返さなくていい。但し、今回だけだぞ。」


「…ありがとう。」


…伯父さんが来てたのか。白いカーテンが揺れてる。

まいちゃんちから帰ってくるのが遅くなったからいけなかったんだ。

空が夕焼けに染まってて、カドを曲がる途中で自転車ごと車に突き飛ばされちゃった。


目を開けたら良子ちゃんが泣いてた。


ごめんね、良子ちゃん。


どうして死んじゃわなかったんだろ。


いつも伯父さんはゆきのこと要らない子だって言う。疫病神だって。良子ちゃんを不幸にするんだって。


そのとおりなのかな。


でもそんな時必ず良子ちゃんが言うの、私を抱きしめて…



…私の大事なスイートちゃん。…







「怖い夢でもみたの?わたしのスイートちゃん。」







「よしこちゃん…。」


優しく微笑みながら良子ちゃんが私の顔を覗き込んだ。どうやら小学校の時の夢をみたらしい。


「昨日は藤代さんところにいったんでしょ?楽しかった?」


「…うん。みんな良い人だったよ。」


「よかったね。」


そのまま頭を撫でられる。ユリウスとは違う、でも同じくらい優しい手…。

いつのまにか私を甘やかす人が増えたことに気付く。





幸せで…涙が出そう。






*****






「ゆきちゃんはどっち?」


「カメですよ。」


「え、ウサギじゃないの!?」


「小学校のとき飼育係でしたケドいい思い出ないですヨ…。ストレスの溜まりまくったウサギ…。」


「…お願いだからそれ以上は口を開くな。」


…軽く未来ちゃんに制されてしまいました。


私が通っている女子高はミッション系で進級してからのオリエンテーションで福祉活動に参加する。無事進級して未来ちゃんと同じクラス(特進クラスなのでずっと一緒だけど)になっていた私も参加2回目。今回は「ウサギとカメ」を題材にしたミュージカル…というかウサギとカメに扮装して合唱する出し物だ。老人ホームに出向くことになっている。


「愁子ちゃんは?」


「今日はお休み。…カメ人気ないからカメになるんじゃないかな?」


「カワイソ…。」


「可愛いですよ!カメだって!」


愁子ちゃんは体が弱いことになっているからよく病欠する。本当は魔界でお仕事だ。自分で衣装は作らなきゃいけないから後で教えてあげなきゃです。お裁縫かぁ。良子ちゃんは無理だから…。ここはリラさんに手伝ってもらおう。


駅前の一番大きな手芸屋さんに未来ちゃんと寄って帰ることにした。生地は支給だったけど糸は買わないと。装飾もしてもいいってことだから未来ちゃんとおそろいのリボンを買った。


愁子ちゃんにも買ってあげようかな。


そう思って水色のリボンを手にした時に後ろから声がかかった。


「ゆきちゃん!偶然ね!」


「あ、桜さん。」


「だあれ?」と隣で聞く未来ちゃんに「悠里クンのお姉さん」と教えてあげると「は~美人!」と未来ちゃんが感嘆の声を小さく上げた。

桜さんは趣味でビーズアクセサリーを作っているそうだ。


「これからお花のお稽古があるんだけど、一緒に来ない?母が教えてるのを手伝っているの。お稽古後にお茶しましょうよ!おいしいケーキがあるの。ゆきちゃんが来てくれたら母も喜ぶわ!ね、お友達も一緒にどう?」


「桜さんのお誘いはとっても魅力的なんですけど未来ちゃんも私も衣装作りがあるので…ごめんなさい。」


うう、残念です。でも一週間しか時間が無いので不器用ズは涙をのんで諦めまっす!未来ちゃんなんか部活もあるし。


「そっか、残念ね。でも次は逃がさないよ~~!」


桜さんは私の鼻の頭に人差し指をちょんと乗せて言った。

なんだかちょっとユリウスの仕草に似ています。さすがキョウダイ!


「センセ! 桜先生!」


桜さんの後ろから声が聞こえる。あれ、どこかで聞いたことのあるような…。


「やっぱり桜先生だあ。」


甘ったるい砂糖菓子のような話し方には聞き覚えが…。


「ああ、美咲ちゃん。偶然ね。」


「いまから伺おうとしてたんですよお。」


ふわふわとした栗色の長い髪を丁寧に内巻きにしてる女の子と目が合う。


「こちら湖山ゆきちゃん。あ・の、悠里の彼女なのよ。かわいいでしょ!うふふ。あ、そういえば美咲ちゃんの苗字も湖山さんだね。」



…。



私は体を動かすことができなかった。


隣にいる未来ちゃんがぎゅっと手を握ってくれる。


それもそうだ…


世界で2番目に会いたくなかった人が目の前にいるんだもの。




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