epilogue~エピローグ
一連の事件が解決して我が主を迎えた城は平和そのものだ。
今日はシュウをさそって園庭でお茶をすることにした。
ここでお茶をすするのは例の祝賀会の事件以来であった。
テレニアが好きだった。このバラの庭園。
お前を疑った父を許してくれるか?
お前が恋いこがれた陛下は私に頭を下げて下さったよ。「悪かった」と。
元々私たちの報告書によっての正しい判断だったので陛下には非は無かったのだ。
なのに陛下はテレニアの汚名を晴らすために城下町の中央にテレニアの名前のついたバラの公園も作ってくださった。噴水と小川が流れる美しい公園だ。
「待たせたな、クレオ。」
「いや。」
「久しぶりだな、ここでお茶なんて。」
「平和そのものだな。」
「……テレニアのことは悪かった。陛下を救っていたとは知らず、クレオには酷いことも言った。」
「気にするな、シュウ。その話はもういい。それに、テレニアが有翼族にどう願ったかは知らないが、ユキ様の一部となったのなら、今、余すことなく愛されているからな。満足しているだろう。」
「正直、面食らっているんだが…陛下はあんなだったのか?ユキに甘すぎるだろう?明日からまた人間界と魔界を往復して生活するって言っていたぞ?」
「陛下も人間界の家族のところと二重暮らしすると仰っていたな。向こうでもユキ様を離す気は無いらしい。あの陛下とは思えんな。」
「まったく…陛下がゲテモノ好きとは…。」
「…シュウ、お前は陛下の人間界での家族のことを考えたことがあるか?」
「いや?」
「私はある。調べてみたが、いい家族だった。こども想いの両親に仲のよい兄弟。まさに理想の家族像だった。」
「……。」
「12の時に魔王であった記憶がよみがえったユリウス様には魔界を捨てて自分の幸福を掴むという選択も有ったはずだ。…でも陛下は魔界に帰ってきてくださった。4年の間、葛藤と戦いながら「呼び寄せの石」を探されただろうな。」
「一人の人としてではなく王として…か。」
「私は時々考えるのだよ。どうして先人たちは「かえらずの石」と「呼び寄せの石」を作ったのか。…彼らにとっては人間界が故郷だったのではないかと。魔力という力さえ持って生まれなければ幸せに暮らせた…まあ、あくまで私の個人的意見だ。」
「…今はもう必要ないだろう。私たちはここが故郷だからな。」
「少しくらいのわがままは仰った方がいいのだ。陛下は。」
「確かに。」
向こうでリラが血相変えて走っている。…また何か逃げ出したのだろう。ユキが魔界の虫の研究をすると言っては北の森からなにやら持ち帰ってきてしまう。獣王が娘のようにユキをかわいがっていて毎月のように出かけている。
不思議な娘。ユキ。
どうかユリウス様のそばに。
「ところで、クレオはユキについてるというテレニアの印は見たのか?私が陛下に聞いてもとりつく島もないのだが。」
「 ! 聞いたのか?」
「ああ。」
「では、もう二度と聞かぬ方がいいぞ。テレニアの印は…ユキの右足の付け根の内側にあるらしいからな…。」
「…。そこまで見られといて陛下にお預け食らわしてるのか?あの珍獣め!」
「まあまあ、陛下もまだ激しい運動は…。」
虫網を持ったリラが今度はこっちに向かってきた。
「すいませんが…お二人とも手伝っていただけませんか?姫様が持ち帰ったノモコ(蜘蛛のような魔界の虫)の卵がサモン様の研究所に入る途中で孵ってしまって、ウジャウジャと…。」
毎回青い顔しているリラだがユキの世話を外れたいと言ったことはない。ほかの使用人も。
「またか!」
シュウの頭からは湯気が。ま、いざとなったら「イモムーに会わせてあげようか」作戦でユキもシュウをかわすだろう。リラから虫網を引き取って立ち上がる。
「シュウ、行くぞ。」
今日も城は平和だ。
本編終了しました!
ここまで読んでいただいて有り難うございます!
番外編など書きたいと思っていますのでもう少し続編の設定のままで。
「あとがき」を長々書いておりますので興味のある方は読んでいただけると嬉しいです。