ジリルの城と罠2
「こんのバカ娘!よくも陛下を!ああ、陛下~!!」
「よさないか!シュウ!ユキ様のせいではないだろう!あの場合、陛下の判断は正しかったのだ!ジリル殿下にユキ様が捕まったら陛下も終わりだ!ユキ様はここにいる。陛下は死なない!」
「もともと陛下から逃げるなんてことしたからだろう!そこの虫!お前もだ!大体お前がこそこそ裏工作しなければもっと早くに見つかったものを!」
怒り狂う銀髪クンをクレオさんが宥める。
無理も無い。ユリウスはジリルの城のトラップに落ちたのだ。私の代わりに…。
ガタガタと震える身体を自分の両腕で押さえるしかできない。
何が起きたのかわからない…が、とにかく作戦は失敗だったのだろう。
一旦獣王の城に戻って体制を立て直すとクレオさんが言ってここに帰ってきたのだ。
銀髪クンがどう罵っても頭に入ってこない…
…「悪かった」…
ユリウスはそういって暗闇に落ちていったのだ。
どうして…
ユリウス…。
「心石さえ呑んでなければ!お前なんか!」
そう銀髪クンが私に吐き捨てるように言ったとき水音と共にアルダさんが出てきた。
『黙れ、シュウ=レイシアス。魔王の后に敬意をはらえ!』
「はっ!后だと?笑わせるな!獣王!」
『ユリウスは私に言ったのだ。自分の后は自分で守るとな。』
「 ぐ…。」
銀髪クンが押し黙った。
…アルダさんは知ってたの?それより、后って?簡単に殺しちゃうほどどうでもいい存在じゃなかったの?
私はポカンとアルダさんを見上げた。アルダさんは母親のように優しく微笑んでいる。
『ユキ…。獣族の嫁取りのトーナメントは武装はできても魔法は使ってはいかんのだ。あのユリウスがお前を獲得するために正々堂々と戦った。これが愛されてなければなんになる?』
「でも…。」
『ユリウスの心石を呑んでるのだろう?それは魔王の心臓だぞ?それ以上の愛情表現はないだろう?』
え。
胸の服を集めて握る。
心臓…?そんな大切なものを?
わたしに…。
『やれやれ。不器用な男だのう。』
アルダさんが銀髪クンに向き直る。
『ユキをこれより私の娘とする。シュウ=レイシアス、態度を改めるが良い。これ以上私の娘を責め立てることが有れば私が許さぬ。』
銀髪クンは悔しそうにそっぽを向いた。
「しかし、鍵を開ければ結界は解かれるはず。結界石があるはずもないのになぜ?」
クレオさんの言葉を聞いた銀髪クンが呟く。
「16年前のもうひとつのかえらずの石…。先程のものも結界石であったとしたら…」
石…。それって…。
「石ってみんな心臓で出来ているんですか?」
私が質問すると皆が顔を見合わせた。
『…頼まれて調べたが、16年前も魔力が強い獣族の者が数名攫われている。見つかった遺体が一人あったが…心臓が抜かれていた…。』
「…くそっ!こんなことを考えつくのはあの女ぐらいだろう。あの魔女め!」
「人の心臓を使って石を作っていたのか…」
『最近攫った者たちでまた作るつもりだったのだな…かえらずの石を…。』
…
凹んでいる場合じゃない!
ユリウスを…
皆を…
助けなくちゃ!
シュウが憤慨しております。
ゆきちゃんが超前向き人間なのはプチ不運のせいです。