ジリルの城と罠1
決行の朝は不安でいっぱいだった。
いくら簡単なこととは言え、役割は重要だ。失敗したら誘拐された人たちも突入するウーゴさんたちも危ないかもしれない…。
でも、今それが出来るのは私しかいない。
顔を洗って鏡の中に映る不安げな女の子に叱咤する。
お前は非力だ
魔法だって、体力だってなんにもない。
じゃあ、
何にも出来ない?
そうじゃない。
どんな小さい事だってできることがある。
そんなことかって、笑われても、呆れられても、どんな物事だってほんの小さな事の積み重ねだ!
自分を奮い立たせるんだ湖山ゆき!
先のことはその時に考えればいい。
自分が出来ることに集中しろ!
目を瞑って気合を入れる。両手で頬を鳴らして目をあける。
さあ、出発だ!
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森の奥にあるジリルの城の門の近くには魔法に対するトラップがいくつも仕掛けられていて、そこでは少しでも魔力があるものは魔法が使えなくなるどころか返り討ちにあってしまう。猫耳姿はクワタンの魔力がついている形になるので何らかのトラップが発動する恐れがあるし、そもそも人間の姿に戻ってしまう。今回は初めから人間の湖山ゆきとして鍵を開けることになった。
私は制服を着込んだ。
うん、制服は女子高生の戦闘服さ!
鍵が空いたらすぐにシャドウさんとクワタンが助けに来てくれる。問題ない。大丈夫。
暗い森をウーゴさんに誘導されて進む。隣にはシャドウさんがついてくれて、不安な私の手を握っていてくれた。獣道が少し開けるとそこからは異様に暗い空間がみえた。
なんか、怖いんですけど…。
「こ・こから真っ直・ぐ行ったと・ころに門があ・る。」
ウーゴさんがそういうと暗闇しかないそこを指差した。
私の手を握るシャドウさんの手に力が入った。
顔を見上げると「大丈夫か」と言わんばかりに心配そうなシャドウさんの顔。
う、行きたくないのは山々ですが、もちろん、行きますよ!
ウーゴさんから鉄色の鍵を受け取ると意を決して暗闇に足を踏み出した。
まとわりつくようなこの空気がたまらなく嫌な感じです…。
ドキドキしてるので長く感じたが、きっと100メートルほどしかないと思うところで冷たい壁に当たった。手探りで鍵穴を探す。慎重に…。
これかな…。
案外簡単に入った…。よかった…。
コレをまわせば…。
カチャリ…
カチッ…
鍵が回った音のほかにスイッチのような音が加わった…その音と共に私の足元が崩れる!
わ、わわわ!!
なに!?落とし穴?
聞いてないよ~~!!!
後ろに体制を崩しながら落ちる。
ひえ~ッ!
もう駄目かと思った瞬間右腕が掴まれる。
シャ、シャドウさん!?
しかし私を掴むシャドウさんの手はみるみる爪が引っ込み、ビロードのような毛がなくなっていく…
なんで?
どうして!?
黒豹の姿が人の姿に変っていく…
その腕を掴んでいるのは…
ユリウス!
ただ、ただ後ろに倒れながらビックリしている私をユリウスは引き寄せ、耳元で「悪かった…」と言った。
ザザッ
暗闇の中あるかないかも判りづらい壁を蹴るような音がした。
次の瞬間ユリウスは自分の身体を反動にして私を上へと投げる!
「クレオ!」
ユリウスは上に向かって叫んだ。
落ちていくユリウスとは逆に上に向かう私…
穴から寸でのところで私を掴み取って引き上げたのはクレオさんだった…。
どうなってるの?
混乱したまま私は引き上げられたクレオさんの腕の中で頭を巡らせる…
シャドウさんはユリウスだったの?
そして、ユリウスは
ユリウスは…
私の代わりに…!
3、4日更新空きます。盛り上がってきたところなのですが…。諸事情有りまして。しばしお待ちください。
ナイト戦あたりをユリウス視点で読んでいただけたら嬉しいなぁとか思っています。ご拝読ありがとうございます。