ナイト決定2
…不本意ながら求愛行為を受け入れてしまった私を黒豹さんはボクシングのチャンピオンベルトのごとく高く抱え上げると
ウオオオ~ッ
と叫び、その場にいた人々に勝利を猛アピールした。
観衆が拍手でそれを称えると灰になった私を小脇に抱えて黒豹さんは闘技場を後にした。
当然私は力の限り暴れまくったが黒豹さんはビクともしない。
こんなのバッカリ。とほほ。
…「孕むまで離して貰えないぜ…」…
クワタンの声が頭の中をこだまする。
ウガ~~~ッ!!!離して~~!!!
即なのか!?そうなのか!?
せめて、話だけでも聞いてくれ!黒豹さん!!
予想どおり城の一室に連れてこられた私の頭の中は逃げる算段ばかり。
と、言ってもあのツワモノたちを倒した黒豹さんに力で敵うわけが無い。
部屋に下ろされて黒豹さんが後ろ手にドアを閉める。
ここは、とにかく黒豹さんから離れないと!
もがく私を黒豹さんはギュウギュウと抱きしめてきた。
ビロードのような胸に押し付けられて身動きができない。
てか、息も苦しいです。
ダ・ズ・ゲ・デ~
胸を叩くとようやく少し離してもらえたのでここは、やはり!
「クワタン!」
しかし、私の声を聞いていち早く動いたのは黒豹さんだった。
バシン!
目にも留まらぬ速さでクワタンが後ろのドアに叩きつけられてしまった!
クワタンが!!
どうしよう!死んじゃった!?
ガルルルル…
不機嫌そうに黒豹さんが私を睨んだ。さっきまでは手加減されていたのだとわかる強さで私はベットに放り込まれた。
ボスッ!
獲物を捕らえた獣の瞳だ。
その顔を観察すると先程までの闘いがどんなものだったかを語っている。口の端は切れて、そのキバにまで血が滴っている。黒豹さんは長い舌でゆっくりと血をぬぐう。
黒豹さんが毛深く、長い爪の手で私の顎を強引に上向ける。
痛っ!
そう思った瞬間ブーンと羽音がした。
クワタン!?
黒豹さんは私の目では到底追えない速さで飛んできたクワタンをチラリと見ると片手で捕らえてしまった。
さっき目の前でつぶされたピンクの果物が脳裏に横切る。
「殺しちゃ駄目!!」
その声で黒豹さんは私を見た。そして、すばやくクワタンをコップに入れて伏せてしまった。再び私を押さえつけながら黒豹さんが私を見つめる。その顔が近づき、ようやく黒豹さんが私にキスしようとしているのだと悟る。
「……キスしないで」
私は声を絞り出した。
大好きな人がくれたキスを忘れてしまう…だから…
[お願い。」
どうして皆、私を困らせるの?
堰を切ったように涙が溢れ出すと同時にここ数日張り詰めていた糸が切れてしまった気がした。
ふぇ。
ふえ~~~~ん。
良子ちゃんの教えのとおり私は前向きに頑張ったもん。
どうしてこんな目にあわなきゃいけないの?
鼻水は出るわ、泣いてる顔はぐしゃぐしゃで、もうこれでもかって言うくらい私は幼児泣きした。
それはもう妖怪児泣爺も真っ青なくらいに…
…いつの間にか遠慮がちに隣に座った黒豹さんに背中をさすられていた。いい子、いい子って聞こえるかのよう優しく。
しゃくりあげ、ズビビと容赦なく鼻をかむ私の姿をみて可哀そうに思ったのか、呆れたのか先程までの嫌な緊迫感が無くなっていた。
今ならわかってくれそうに思って正直な気持ちを話す。
「私、大好きな人がいるんです。訳があって会えないし、名前すら口に出せ無いんだけど。だから、あなたと結婚できないの。あなたが半獣だからじゃないよ?」
漆黒の瞳が私を見つめる。私の精一杯伝わったかな…。
クウ。
今までと違った声が聞こえた。
黒豹さんはざらつく舌で私の頬をベロリと舐めると自分の頬をスリスリしてきた。
あ、ちょっと可愛いかも。
「黒豹さん、お名前は?」
聞いてみると首を振る。
「名前がないんですか?」
ゆっくり頷くと懇願するように私を見つめた。
「え…と。黒いから…シャドウさんでどうですか?」
私がそういうとシャドウさんは目を細め、私の手の甲にキスを落とした。
黒豹さんも苦労します(笑)