獣王の願い
…『お前には私が獣王に見えるか。』…
頭の中に艶っぽい声が響いた。低すぎず、高すぎず、でも聞きほれてしまいそうな女の人の声…
…『では、この姿をどう思う?』…
大蛇が目の前の水面から1メートルほど水面に出たかと思うとその顔の部分だけが妖艶な女の人の顔となった。切れ長の瞳は先程見た黄金の瞳。水からでたその身体は水面に映る光をわずかに反射していた。虹色の鱗がキラキラと水滴を交えて光る。
神秘的で…
「…綺麗…」
それ以外の言葉が見つからないほど、目の前の幻想的な情景に酔ってしまう。思わず手を伸ばしてそのしなやかそうな身体に触れてみた。女の人は特別嫌な顔もせず、私に触れられるままにさせていた。
「獣・王!!!!」
王座に座っていたウーゴと呼ばれていた大男さんの声でビクリと触れていた手を引っ込めた。
わわ、勝手に触っちゃった!
『くくくっ。ウーゴ、この娘、気に入ったぞ。』
そういうと大蛇は水面を王の座へと移動し始めた。ウーゴさんが慌てて王座から降りるとその傍で膝を折った。
ずるり、ずるりと音を立てながら水面からその巨体を上げて今は彼女ためにあつらえたとわかる王座に横たわった。
『我の名はアルダ。獣王とよばれている。
許せ、人間の娘。お前を騙すつもりは無かった。が、この姿を忌み嫌うものが多くてな。表向きはウーゴを王として据えている。私の存在を知っているのは獣族の中でも少数だ。』
え、と…
「 湖山ゆきにゃす。」
よろしくです。ハイ。
『ユキ…お前は面白いものを持っているな…』
アルダの視線が私の胸に…
あ!忘れてた!!クワタン!!!
「姫さん!ひどいぜ!この姿では泳げないんだぜ?あ~死ぬかと思った!」
ムムゥ!甘えるな!胸から離れれば浮くはずです!
しがみついてるからですよ!何気にハート部分に入ろうとしてるの、知ってるんですからね!
『…有翼族が人間の使い魔に?個人主義のお前たちにしては珍しいこともある。企み無くして誰かの傍に仕えるなど気でも狂ったか。』
…アルダさんの声に心なしか棘があるような。
「ふん。俺様の勝手だろ?謎多き獣王が水蛇だったとは驚きだな。そんな姿じゃ引きこもっても仕方ないよなぁ?」
『「不吉な子」である有翼族に言われても痛くも痒くもないわ!人の精を糧にする外道が!』
わ、わわっ
「ちょ、ちょっと!なんれ喧嘩ににゃるんですか!?」
クワタン!挑発しないの!どう、どう。
『すまぬ。昔から有翼族とは反りがあわん。』
なんだか、にらみ合ってるようですが…。きまずいなぁ。
『ユキ、人間のお前がどういう理由でここにいるのかは知らん。が、獣族にとって好都合ではある。頼みごとがあるのだが頼まれてくれないか?もちろん、礼は十分にするつもりだ。』
お礼…。
『ここ最近、獣族の者が攫われて帰ってこない。魔力が強いものを狙っているようなのだが。』
ま、まって!ゆきはキングオブ無力です!しかもプチ不運がついて回るのです!
「私は知ってのとおり人間なのにゃ。にゃんにもできにゃいです。」
あわてて両手を横に振って猛アピールです!無駄無駄無駄無駄無駄…!スタンド出たかな!?
『…鍵を開けて欲しいのだ。ジリルの城の鍵を。魔力があるものでは近づけん。ユキ、人間のお前にしか出来ない。開けさえしてくれれば後は我々で何とかできる。鍵も入手済みだ。ただ、鍵穴に差して回してくれさえすれば、同胞を助けられるのだ。…頼む。』
「俺は反対だぜ、危険すぎるだろう!」
クワタンが唸るように言った。
クワタン…自己中…人間界に私を帰す気…無し。
アルダ…プライド高い…お礼…希望???
何もしないで思うようになるほど世の中は甘くない…。
「わかりにゃした。自信は恐ろしいほどにゃいですが、ベストは尽くしますにゃ!」
握りこぶしを突き出して自信満々にそういうと
アルダは少し吹き出しながら
そしてゆっくりと微笑んだ。
無駄無駄無駄…ジョジ〇の奇妙な冒険…わかる方いらっしゃいますかね?
私は愛読しておりました。




