獣王の城
「ど・うして、こんなところ・にいる?」
見上げるほど長身のマッチョな人は遥か頭上で確かにそう言った。
上半身裸なようだが体毛がわんさか生えていて服を着ないのが当たり前みたいに思える。
赤茶にも見える金髪に薄茶の瞳で彫が深い顔。その姿は筋肉系のハリウッドスターな感じだ。
…無精ひげがお似合いですね。
観察するのに首が痛いです…。
「あ、の。ぶつかって、ごめんらにゃい。うで、はなしてくらにゃい。」
掴まれた腕が痛いので訴えてみた。
「話方が変・だな。」
それは、このエロクワガタがですね…。
なにか言い訳を…と考える隙も無く私は大男さんに首ねっこを掴まれて顔のまん前で宙吊り状態。
クンクン…
なんか思いっきり臭われてるし!
「獣の臭い・がしない。」
ひぇっ!バレタ!?変なオプションつけるからですよ!
瞬間、逃げようと暴れたら、腰をつかまれ腕一本で抱えられていた。
ガッシリ掴まれた腰は動けそうも無いほどホールド状態。下を向いている私は手足をバタつかせるも効果が無く、されるがまま。ユサユサとマッチョマンの歩幅に合わせて情けなく揺れるしかない。
胸のところに留まっていたクワタンに助けを求めると…
「揺れる胸もなかなか…」
…
全部、
全部、
お前のせいだ~~~~~~~!!!!!!!!!
エロクワガタ!!!!!!!!!
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「クワタン、ここって…。」
「牢屋かな?魔法防止柵がついてるから、俺様でもなんもできないな。」
上部に小さな窓があるだけの一面土壁の空間。一方だけ空いた壁面には牢屋らしい鉄格子がついている。
「クワタンだけなら逃げれるよ?」
「逃げたって姫さん死んだらアウトだろ?」
「…そっか。」
「…逃がすつもりだったのかよ?バレたのは俺のせいだろ?」
「二人とも摑まること無いって思っただけですよ。」
「変な奴だな。獣族の奴に気に入られて生き延びるのも手かと思ったんだけどな。」
「はあぁ。…ほんとクワタンは自分がよければどうでも良い主義だね。」
「よくわかってんじゃん。てか、姫さんは最初から見抜いてたな。」
「あ、誰か来たみたいです。」
コツコツと土壁に響く音がして誰かがやってくる。音が複雑なので一人ではないようだ。
「ウーゴ様が言ってたのって、この娘?」
「わ、めっちゃかわいいじゃん。」
悲壮感が漂う根暗そうな顔の割には明るい声の男の人が二人来た。
ハイエナ?
…にしても顔がそっくり。兄弟かな?
「獣王様が会いたいってさ。出ておいで。」
じゅうおう? さっきの人?
二人に促されて牢屋から出だ。逃げないようにか一人に腕を持たれて、もう一人は後ろについて歩いた。ユリウスが住んでいた城と違って随分素朴な土の城は明り取りの為か上部が細長く空いている。
なんか、遺跡みたい。
螺旋状のスロープを下へ下へと降りていくと次第に薄暗くなっていき、明かりは壁にあるランプのようなものだけが頼りになってきた。
だんだんと空気が湿気てきたのか重くなり、微かな水音までもしてくると、目の前に重厚なつくりの扉が出てきた。
「ウーゴ様、先程の娘を連れてまいりました。」
うでを掴んでいた方の男の人がそう言うとギギギとドアがゆっくり開いた。
うわ…。
目を向けたその先には揺らめく炎を映し出した水面に浮かぶ王座。
そこには先程の大男が座っていた。
「 どうして禁猟・区にいた? お前はジ・リルの手先か?」
独特の話しかたをする大男は鋭い目を向けていた。
警戒されている、それだ。
「ただ、走ってたらあそこに居たのにゃ。ジリルって人はしらないにゃ。」
ああ、緊迫感を破る話し方がうらめしい…。
「そこに・手を突いて水・面に顔を近づけ・ろ。決して目を開・けるな。」
よくわかんないけど言われたとおりにするしかないようだ。
膝を折って水面を覗き込むように顔を近づける。
が、使い慣れない猫手が滑って…
ドボン!
勢いあまって水の中に落ちてしまった。
ブクブクブク…
もー!!こんなときにプチ不運を発揮しなくても!
水中は思ったよりも暖かく奥深くに金色の二つの光が見えた。
空気欲しさに水面へともがいていると身体に巻きつくヌメヌメとした鱗の感触を感じ、私の身体は一挙に水面から引き上げられた。
ザバッ!
そのまま先程跪いた場所にころがされる。
「げほ、げほ、げほ…」
気管支に入った水を吐き出すように涙ぐんで咳をしている私の前には…
虹色の鱗を持つ大蛇…。
金色の二つの目が私を射抜くように見つめていた。
「あなたが獣王?」
思わずそう口から言葉が漏れると
大蛇は目を細めて面白いものでも見つけたように笑った…ように見えた。
しばらくシリアスかも?です。
できればお付き合いください。