獣たちの森1
「いつまでも泣くなよ、姫さん。」
いつの間にか草木の匂いのする洞窟へと連れられて来られていた。
湿気た空気が身を包み、奥からは水滴が落ちる音が定期的に聞こえる。
ズズッ
「…ここ、どこ?」
思いのほか反響する自分の声に少し驚いた。
「北の森。獣族の住む森だ。しばらくここで身を隠した方がいい。」
スン…
「人間界に帰りたい」
「…今は無理だ。間違いなくそのルートは見張られているからな。」
「 … 」
「ああ、もう、好みの男でも思い浮かべろよ、俺がなぐさめてやっから!」
そういうとクワタンは私の手に乗った。
…
…
何にも起こらないじゃん…
「…俺様にもプライドが有るんだ。てっきりユリウスかと思ったのに…。それはムリ。」
!!何がプライドだ!
全国の温水〇一ファンに謝れ!
この役立たずぅ!
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明け方近く、またもシュウ=レイシアスの自室の扉を叩くものがいた。
つかれきった表情で扉を開けるのはクレオ=モノクレールである。
「遅くなりました。」
今朝起きた西の境界の結界破りに今の今まで翻弄されていたらしいクレオはそう言うと水差しにある水をピッチャーごと呷った。
時々魔界の原始鳥がぶつかって破ってしまう結界は力の強いものでなければ直せない。私はこのとおりベットの中であったし、普段はクレオの部下のマーリンがその仕事をこなすのだが、先日から休暇をとって新婚旅行だというのだから仕方が無い。
さっそく先程の陛下の話をまとめてクレオにぶつけてみた。
「…クレオの意見が聞きたい。」
クレオが苦笑した。
「ユキ様がテレ二アだと?」
「有り得るとおもうか?」
「…よっぽどの環境が無い限り、テレ二アがダダを飼うことは絶対にないでしょう。」
「それはつまり…。」
「有り得ないということです。」
「あたりまえか…。」
ジャングルで獣にでも育てられないとあんな珍獣にはならんだろう。テレ二アは魔界の花とまで言われたクレオの愛娘。クレオが猛烈な父心で蝶よ花よと育て上げていた儚さと純真さを併せ持つ美少女。ユキが淑女レベル1ならテレ二アは100だ。
月とスッポン…間違いなくユキがスッポンだ。
「しかし、なにか愛おしさは感じるのです。ユリウス様。」
陛下に向き直るとクレオはそう言った。
「印がついたのだから関係はあるはずだ。私たちは思い違いをしているのかもしれない。…しかしそうであるなら…クレオ、覚悟はしておけ。」
陛下の言う覚悟…それはもうテレ二アがこの世に存在しないかもしれないということだ。
罪を犯した娘に会う方がよかったのか。
娘の死を受け止める方がよかったのか。
クレオの表情からは何も読み取れなかった。
「もう一度16年前のことを調べ直す。前後の些細な事件も報告にあげよ。」
「「承知いたしました。」」
…そして、その場は解散となった。
長い夜が明けてユキが城から姿を消したのを知ったのはその直後であった。
クワタンの活躍が続きます(笑)。
次回は笑いてんこ盛りで…?
本編全く関係なしですが、クレオの部下のマーリンと妻リリの新婚旅行でのひとコマ
「マーリン、浮気しちゃだめよ?私、死んじゃうから!」
「バカだなぁ、するわけ無いだろ?こんなに君がかわいいのに」
「でも、あなたのこと一方的に好きな娘がせまってくるかも!私心配だわ」
「そんなこと無いって」
「でも、でも、あなたのこと縛ってキスしたり監禁してあれこれするかも!」
「…ダーリン、それは浮気じゃなくて犯罪に巻き込まれてるんだよ…。」
ちょっと思いつきました。スイマセン。
ちなみにマーリンは熊のような男です。




