Last Message
「あなたなんか大っ嫌い!」
それが私があなたに言った
最後の言葉だった
都内にある何の変哲もない和風の一戸建ての家
そこには2人の男女が住んでいた
誤解を生まないためにもあらかじめ言っておくが恋人同士ではない
男の名は天野 涼
年は17歳で高校2年生だ
女の名は如月 藍
こちらも17歳の高校2年生だ
どうしてこの2人が一緒に住んでいるかというと
話せば長いが簡単に言うと住む家が無いからだ
天野は火事で家と両親を亡くした
如月は両親の借金で家を失くした
その両親は彼女を置いて現在行方不明だ
彼女は母方の姓を名乗っているので追われる心配はない
そんな2人がたまたま会ったのが始まり
特に不満も無かったので格安のこの家に住むことにしたのだ
ちなみにお互いは別々の学校に通っているので冷やかしを受ける心配もない
しかしこの2人、両親を亡くした以外にも共通点があった
それは―
霊が見えるということ
2人にとって霊は怖いものではない
ただ実体が無いというだけの存在だ
そんな彼らのもとには今一人の女性が訪ねていた
長い黒髪を後ろに流し、白い肌は透き通るように白く、大きな瞳が印象的だった
だが体が周りより透けている
つまり彼女は霊だ
「あの・・・俺たちに頼みたいことがあるって・・・」
そう聞いたのは短い髪をはねるようにカットした少年
天野 涼だ
顔立ちは鼻筋が通っていて目は生き生きと輝いているのだが
今は眠そうな目をしている
“・・・実は・・・私会いたい人がいるんです”
そう言った彼女の名は瀬川 奈津美、22歳
先月交通事故で死んだのだが、彼らが霊が見えると分かりここに来たのだ
彼女は死ぬ前に彼氏とケンカしてしまったのが気がかりでこの世に残ってしまったのだ
“私は彼に・・・嫌いと言って死んだのです・・・”
「それで彼氏に謝りたいと?」
そう言ったのは長い茶色の髪をゆるく巻き
大きな目の色も茶色で鼻立ちもくっきりとした少女、如月 藍だ
こうして2人が並んでいると美男美女のカップルに見える
「だったらさっさと行って謝ればいいじゃないんすか?」
その時バキッという音がした
藍が涼を殴ったのは言うまでもない
「あんたバカ?彼氏は霊が見えないからこうして来てるんでしょうが!」
「あっ・・・そうか」
「まったく・・・」
そんな2人を見て瀬川はクスクス笑っている
“お2人は本当に仲がいいですね”
「「よくないです!!」」
こうしてハモッてしまうところが仲がいいと言われる原因なのだが・・・
2人は自覚が無いようだ
ハモッてしまうのが気に入らない涼がムスッとしているので
藍が仕方なく
「それで・・・その彼氏は今どこに?」
“この近くにいると思います。引っ越していなければですが・・・”
それはそうだ
とりあえず今日は土曜日なので2人はヒマだ
クラブもバイトもしていない彼らは休日はヒマなのだ
では何故2人は生活できているのだろうか?
実は2人とも各々の高校で特待生なのだ
だから彼らの授業料は免除されている
それに彼らの境遇を案じて学校側からある程度の援助を受けている
なので彼らは生活できているのだ
「とりあえずあなたの彼氏のところへ行きましょうか?」
彼女が住んでいたのは意外にも近所だった
彼女に案内してもらい辿り着いたのは普通のアパートだった
“ここに来るのは・・・久々だわ・・・”
彼女が住んでいた部屋の表札の名は―
瀬川・瀧本
この瀧本というのが彼氏だろう
さてどうしたものかと藍が悩んでいると・・・
ピーンポーン♪
涼がチャイムを押していた
「ちょっ・・・何勝手に押してんのよ!?」
「じれったいんだよ。さっさと済ましちまおうぜ」
すると一人の男性が出てきた
浅黒く焼けた肌に鼻筋の通った爽やかな印象の青年だ
「瀧本さんですか?」
「そうですけど・・・」
いきなり現れた2人の男女に不信を抱いているようだ
しかし早く瀬川さんの意思を伝えなければならない
霊は長時間現世にいることはあまり良いことではないのだ
「実は私たち瀬川さんの知り合いなんです」
「奈津美の・・・?」
「とりあえず俺たちを中に入れてくんねぇか?」
まだ少し疑っているようだがとりあえず中に入れてくれた
“あの頃と何も変わってない・・・”
瀬川は嬉しそうだった
「奈津美の知り合いって聞いたけど・・・」
そう言って2人にお茶をだしてくれた
「あの・・・こんなこと言っても信じないと思いますが、私たち霊が見えるんです」
「なっ・・・!」
いきなり突拍子もないことを言った藍に瀧本は驚きを隠せないでいた
「大人をからかわないでもらえるか・・・!」
「本当なんだ。あんた先月瀬川さんとケンカしてそのまま彼女は交通事故に会った。あの日は彼女の誕生日だった。なのにあんたは約束の公園へ行かなかった。違うか?」
「ど・・・どうしてそれを・・・」
「彼女に聞いたんです」
2人しか知らない事情を知っているのだ
やっと瀧本は信じた
「彼女はそれが未練としてこの世に残っちまった」
「奈津美がそこに・・・」
瀬川が悲しそうに彼を見ている
自分が彼の目に映れないことが悔しいのだろう
「瀬川さん。私の体使いますか?」
“えっ!?”
「如月!?」
如月は霊を憑依させられる
彼女自身の口から言ったほうが早いと踏んだのだろう
瀬川が少し迷ったが藍のしっかりとした目を見て決心したようだ
藍の体にすっと入っていった
「聖・・・」
「奈・・・奈津美・・・」
声は藍だがその名前は瀬川しか知らない名前だ
「あの日・・・どうして来なかったの?電話も繋がらなかった・・・」
「違うんだ、奈津美!あの日本当は向かうつもりだったんだ」
瀧本は車で彼女が待つ公園へ向かっていた
しかし彼が走っている道路で交通事故が起きていた
それの処理が手こずってしまい予定より大幅に遅れてしまった
しかも携帯は警察がいたため運転しながら電話はできなかったのだ
やっとこさ着いた公園に彼女はいなかった
そしてすぐ傍では交通事故が起こっていた
「・・・・・」
「ごめん・・・あの時警察に見つかってでもメールか何かするべきだった」
「・・・そんなことあなたができるわけがないでしょ?」
「ごめん・・・本当にごめん・・・」
「私の方こそ大嫌いなんて言って・・・」
結局想いがすれ違っていただけだったのだ
「聖・・・本当は大好き・・・ずっとずっと」
「俺もだよ・・・奈津美」
瀧本がそう言った途端、藍の体から瀬川が出てきた
未練が無くなったのだ
彼女は光が射す方へと消えていった・・・
「瀧本さん・・・」
もう藍に戻っていた
「ありがとう・・・最後に彼女に会わせてくれて」
2人は嬉しかった
自分たちの能力がこんな風に誰かを救えることができて・・・
彼女の最後の言葉を伝えることができて・・・
これからもできる限り伝えていこう
Last Messageを・・・