島の魔女様2
魔女様の家は、島民の家と同じくらいに質素だった。
木でできた平屋で、寝室と居間が一つずつあるだけ。
居間は、本で埋め尽くされていた。
寝室の一つしかない簡素なベッドに、私は丁寧に寝かされる。
物腰もなにもかも島の人間とは違う。
「魔女様は、なんで親切にしてくださるんですか?」
「自分の家の近くで子どもが動けなくなってたら、誰だってこうするわよ」
「でも、魔女様は偉い人です。父も村長も、魔女様のことを尊敬しています」
このときの私にとって、偉い人間とは横暴な人間だった。
だから、偉い魔女様が私に優しくするのは、理屈にあわないことだった。
魔女様は私に毛布をかけなおす。
「今はそんなことを気にしないでゆっくりしなさい。足が治るまでここに居ていいから」
「でも」
「大丈夫。ご家族には話をつけておくわ。あなた、どこの村からきたの?」
「南の村です」
「そう。よく登ってきたわね。あの村なら飛ばせる鳩がいるわ。安心してお休み」
私が一番心配していたことを、心を読むように言い当てる。
夜の森で冷えた体が弛緩し、魔女様が見守る中、私はまどろむ暇もなく眠りについた。
ベッドの中から魔女様を見上げながら、自分がこの人を好きになってしまっていることを悟っていた。
起きると朝になっていて、冷え込みが激しかった。
魔女様の家は島で最も標高が高い付近にあり、
海と山の中間に位置する私の村よりもだいぶ気温が低い。
魔女様の姿はない。
私は痛む足を引きずりながら、ベッドから降りた。
おそるおそる外にでると、正面が急な斜面になっていて、島の南側全体を見下ろすことができた。
私の村も豆粒みたいに見える。あんなに小さい村で、私たちは暮らしているのだ。
「あら、起きたの。足は大丈夫?」
「魔女様。足、まだ痛いです」
「そう。無理しないでね。あなた、足をくじいてからも無理して登ってきたでしょ。松葉杖を作っておいたから、それ使ってね。ほら、そこ」
みると、家の入口に松葉杖がおいてあった。