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魔女の見習い  作者: なす
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島の魔女様

ここから抜け出したい。


始まりはそれだけだったんだと思う。

外の世界を知らない私が、なぜそれを求めたのかは分からない。


山羊の酪農と樹木の輸出だけで成り立つこの島は、

食べていくのに困らない程度に栄えており、

だから人々はここで人生を終えていった。


この島にとって外とは、山羊の乳と樹木を持っていって、

生活に必要なものを送ってくるだけの存在だった。


木を伐り、子を産み、死んでいく。

それしか知らない9つの私は、なぜかそれを否定した。

その平凡の価値を、幼い私はまだ知らなかった。


陽が暮れていく森の中で、自分の短い人生を考えていた。

右足が痛む。まだ動けそうにない。

島の魔女様にお守りの作成を頼みにいく道すがら、足を滑らせて転んでしまった。


闇が少しずつ深くなり、茂みの奥からは獣の気配がする。

私が安全に食べられる存在であるかを、用心深く探っていた。

魔女様の家に訪れていいのは一人まで。それも女と決まっているから、

村からの助けもいよいよにならないと来ないだろう。


私の人生もここまでかな。

これまでの9年間を思い浮かべるけれど、大した思い出はなかった。

妹や弟たちの世話をして、木を伐りにいく男たちに食事を作って、帰ってきた男たちに酒を注いだ。

それがこの島の女の生き方だった。


突然、山上の方から明かりが揺れた。

ゆらゆらとした明かりは、その源がランタンであることを示している。


「あらあら、大丈夫?村の方?」


美しい女性だった。これまでに私が見てきた誰よりも。

長い亜麻色の髪で、すとんと落ちる黒い服を着た長身の女性。

ランタンの揺らぎは、その姿をより幻想的にしていた。


私は魔女様にあったことがない。魔女様が作ったお守りや薬草は見てきたけれど、

私にとっては魔女様は、大人たちの話の中だけで聞く存在だった。


「魔女様ですか?」

「そうよ。足、くじいてるみたいね。ちょっと待ってね」


そういって、私の足首を包帯で固定した。

現実離れした美しさと、包帯を巻く所帯じみた動きがアンバランスだ。


「魔女様、こういうのって魔法で治さないんですか」

「あら、無遠慮な子ね。そういうものじゃないのよ。魔法は」


そういうと、魔女様は私をおんぶした。

背負ったまま、山の上へ登っていく。

一歩あるくごとに揺れる背中の上で、

お礼を言うタイミングを逃してしまった。そんなことを考えていた。

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