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第6話 舞台裏

 それから史季は危なげなく三連勝し、アリスはリングに立つ彼の背中を見つめながら、陶然と心の中で独りごちる。


(これは思った以上かもしんないっすね~❤)


 一人目の茶髪をクロスカウンターの一撃で仕留めた史季は、二人目三人目を、多少時間をかけながらもキックを使わずに倒してみせた。

 しかも、いまだまともな攻撃は一発ももらっていないものだから、自称斑鳩派ナンバー3のアリスとしても、ただでさえ高かった史季の評価を改めざるを得なかった。


(攻撃面はキック力以外は、まあまあってとこっすけど、防御面がもう反則っすね。打たれ強いくせに防御も回避も上手いとか何なんすか? てゆうか、一年最強決定戦で折節先輩を追いかけ回した時も、なんだかんだでこっちの攻撃はほとんど防がれてたっすよね……)


 アリスの曲芸師並みの軽業は、それだけで初見殺しとして機能する。

 なのに史季は、ついぞ一発の決定打ももらうことなくアリスの攻撃を凌ぎきってみせた。

 防御と逃走に専念していたから凌げたという側面も確かにあるが、それを差し引いても、史季の防御能力の高さは脅威の一語に尽きるものだった。


(敵として見たら割りとマジで相手にしたくないタイプっすけど、味方ってゆうか賭ける対象として見たら安定感があって安心して見てられるからいいっすね~❤)


 などと浮かれている間に、四人目の対戦相手がリングインする。

 運営もそろそろ史季の強さに気づいたらしく、あてがわれた相手はプロレスラーを想起させられるほどの巨漢だった。


 だが、


(見たとこ、荒井先輩ほどの体格ガタイじゃないっすね。これなら余裕そうだから、今回も折節先輩に全額賭け(ベット)っと……)


 アリスはバッグからスマホを取り出すと、運営がつくった地下格闘技賭博用のアプリを起動し、ポチポチと操作してこれまでに儲けた三万円超を全額ベットする。

 一番最初に賭けた金額はたったの一〇〇〇円だったが、これまでの三試合、史季の賭け率(オッズ)が全て三倍前後で、その度に全額ベットしていたため、一時間そこそこで金額を三〇倍にまで膨れ上がらせることに成功した。


 そして今回の試合のオッズは、赤コーナーの巨漢が一・三倍に対し、青コーナーの史季は三・二倍。

 普通、三連勝もすればオッズが下がりそうなものなのに、史季の見た目の弱々しさと、巨漢の見た目の力強さの対比が、観客に「(こいつ)の快進撃もここらで限界だろう」という印象を植え付けたらしく、史季のオッズは依然として三倍のままだった。


(相手はまともにやり合ったら苦戦もあり得たかもしれないっすけど、ここまで折節先輩はまだ一度もキックを見せてないっすからね)


 四試合目にして、目標額の一〇万に届くことを確信したアリスは、ワクワクしながら試合開始を待つ。


 そして、審判が「始めッ!!」と叫んだ直後、


「がぁッ!?」


 巨漢の苦悶の叫びが、フロアに響き渡った。

 予想どおりキックを解禁した史季が、巨漢の太股に強烈なローキックを叩き込んだのだ。

 たまらず膝を突く巨漢の側頭部に、とどめのハイキックが炸裂。

 一撃で意識を絶たれた巨漢は、糸が切れた操り人形(マリオネット)のようにその巨体をリングに沈めた。


 四試合目にしてまさかの秒殺劇に、観客たちが静まり返る。

 

「しょ、勝負あり! 勝者、青コーナー!」


 呆気にとられていたのか、審判は慌てて史季の勝利を宣言する。

 途端、賭けに勝った者たちの喜声と、賭けに負けた者たちの悲鳴が耳をつんざいた。


 ここに来てようやく観客たちが史季の強さに気づき、フロア全体が異様な空気に包まれる中、


(さすがにもう三倍とかにはならなさそうっすけど、この分だと獅音兄のプレゼントだけじゃなくて、新しいバッグも買えそうっすね~❤)


 そんな空気には気づきもしないアリスは、目を「¥」にしながら最後の試合が始まるのを心待ちにしていた。



 ◇ ◇ ◇



 笑いが止まらないアリスとは対照的に、地下格闘技場を運営する、()()()()()()()()の幹部――松尾まつおは、冷汗が止まらない思いだった。


「何なんだよあのガキは! 見た目は俺でも勝てそうだってのに、なんであんなにつえぇんだよ!」


 地下格闘技場がある、地下四階のフロアと隣接しているモニタールームで、松尾は声を荒げる。


「ど、どうやらあの折節史季とかいうガキ、出禁になった斑鳩と同じ、世紀末学園の生徒らしいですよ」


 パソコンで史季の情報を確認していた下っ端が、動揺した声音で松尾に報告する。


「また世紀末かよ! つうか、受付はなんであんなの通しやがった!?」

「それはたぶん、あんなクソ弱そうな見た目をしていたからかと……」


 おそるおそるな下っ端の意見に、松尾は舌打ちする。


 荒事があまり得意ではない松尾自身も、史季を見て「俺でも勝てそう」だと思ってしまった。

 そんな弱そうな見た目をした奴が、ちょっと参加者が少ない日に試合に出たいとか言ってきたら、松尾でも数合わせには丁度いいかと考え、参加を許可していただろう。


 あのガキを通してしまったからといって、これ以上受付スタッフを責めることは松尾にはできなかった。


「さっきの試合で、折節に有金(ウォレット)全額突っ込んだバカは何人いる?」


 下っ端はパソコンを操作し、相も変わらず動揺した声音で松尾に答える。


「ろ、六人です。内三人がさっきの試合でウォレットが一〇万を越え、内一人が五〇万を越えました」

「半数以上かよッ!? って、五〇ってアホかぁッ!! うちはあくまでもどつき合いメインでギャンブルの方はオマケだってのに、マジ賭けしてんじゃねえよッ!!」


 頭を抱える松尾に、下っ端はおそるおそる提案する。


「ど、どうします? もうここらで、無理矢理にでも折節の出場を止めた方がいいと思いますが……」

「駄目だ! 現状はあのガキのせいで損した奴の方が圧倒的に多い! 下手に運営こっちで出場を止めようものなら、暴動が起きるのが目に見えている! ()()()にしても、そいつはあくまでも最終手段だ!」

「じゃ、じゃあどうするんですか!? 次の試合もこの六人が全ツッパして折節が勝ってしまったら、間違いなく赤字になってしまいますよ!?」

「んなこたわかってるッ!! ……赤字なんて出したら、()()()()からどんな制裁受けるか、わかったもんじゃねぇってこともな」


 入山(いりやま)という名前を出した途端、下っ端のみならず、言った本人である松尾すらも一瞬震え上がる。


「……今いる参加者の中で、一番つえぇのは誰だ?」

「ちょっと待ってください……」


 そう言って下っ端はパソコンを操作し、わずかに弾んだ声音で答える。


山下(やました)がいますね!」

「あぁ、あのキックボクサー崩れか。あいつなら勝てるかもしれねぇが、さっきのえげつねぇ蹴りのような隠し球がまだ残ってたら、さすがに厳しいかもな……」


 松尾は顎に手を当てて黙考し……下っ端に告げる。


「よし。入山さんがたまに使ってた〝あの手〟でいくぞ」

「わ、わかりました。すぐに人員を手配します。ですが、もしそれでも折節が勝ってしまった場合は?」

「それこそ最終手段だ。配置する人員の中に〝火種〟を何人か紛れ込ませておけ」

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