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第24話 蒼絃の実力

 廃病院本棟一階。

 そこでは、上階とはまた違った様相を呈した戦い(ケンカ)が行われようとしていた。


「まさか、卑怯とは言わねえよなあ?」

「なにせこいつはバトルロイヤルだからな」

「一番邪魔くせぇ奴を潰すのに手ぇ組むのも、ルール上は何の問題もねぇ」

「つうわけだから、てめ~はここでご退場お願おうか。〝鬼剣きけん〟さんよ~?」


 決定戦開始早々、四人の不良に囲まれた〝鬼剣〟――鬼頭蒼絃(あおい)は、小さくため息をついてしまう。


 暴力一つで名を上げたい不良が、聖ルキマンツ学園に入学することはそう珍しい話ではない。

 そして、中学時代から不良をやっていた者が、同年代においては最強とさえ言われている〝鬼剣〟を脅威と見なすのも、そう珍しい話ではない。


 けれど、


「徒党を組んでいる時点で、自ら〝最強〟から遠ざかっていることにも気づかないなんて……ここまでくると愚かを通り越して哀れだね」


 挑発ついでに、思ったことをそのまま口にする。

 案の定、蒼絃を取り囲む四人のこめかみに青筋が浮かんだ。


 実のところ、蒼絃は姉の朱久里あぐりにお願いして、決定戦の開始位置を、六階にいる史季からは最も離れた一階にしてもらっていた。

 先に一年生を全滅させ、自分が一年最強であることを示した上で、折節史季メインディッシュと心置きなくやり合いたいという算段だった。


 史季が他の一年生にやられる可能性もなくはないが、その場合は所詮はそれまでの相手だったと思うまでの話。

 だからこそ蒼絃はくことなく、今自分が置かれている状況を楽しむように、さらなる挑発を四人にぶつけた。


「キミたち如きが相手なら、()()までもないよ」

 

 そう言って、肩に背負っていた竹刀袋を床に置く。


「ほら、ハンデだ。今ならキミたち全員でかかれば、ボクに勝てるかもしれないよ?」


 ブチィッと何かが切れる音が四つ、重なって聞こえたような気がした。


「ぶっ殺すッ!!」

「調子乗んなクソダボがぁッ!!」

「死ねやボケッ!!」

「ナメてんじゃね~ぞッ!!」


 てんでバラバラな怒声以上にバラバラに、四方から不良どもが突っ込んでくる。

 瞬間、右側からくる不良が最も早く殴りかかってくることを見抜いた蒼絃は、あえて自らも右側に飛ぶことで、互いの間合いを刹那に潰す。


 まさか自分から突っ込んでくるとは思ってなかったのか、右側の不良は慌てて殴りかかってくるも、まさしくその行動を望んでいた蒼絃は、旋転しながら拳をかわすと同時に相手の腕を掴み、一本背負いの要領でぶん投げた。

 蒼絃を追撃しようとしていた、他三人の不良目がけて。


 一年最強決定戦に名乗りを上げるだけあって、そこそこに反応が良かった三人は瞬時に散開し、ぶん投げられた不良は誰もいなくなった床に背中から(したた)かに叩きつけられ、白目を剥いて昏倒する。

 

 直後、誰よりも先んじて反撃に出た不良が、こちらの側頭部目がけてハイキックを繰り出してくる。

 蒼絃はボクサーのダッキングさながらに身を沈めてハイキックをかわすと、お返しとばかりに、立ち上がる勢いを利用したアッパーカットをお見舞いした。


 下から顎を打ち抜かれ、一撃で意識を絶たれた不良は、アッパーのあまりの威力に足が浮き、そのまま大の字になって床に仰臥(ぎょうが)する。

 刹那、残った二人の視線が、アッパーで沈めた不良に一瞬だけ向けられたことに気づいた蒼絃は、弧を描くようにして回し蹴りを放ち、二人の顎を同時に蹴り抜いて意識を刈り取った。


 剣道は言わずもがな、柔道、ボクシング、空手も含めた様々な格闘技を、それこそ一線級の競技者に通じるほどにまで仕上げている。

 それこそが〝鬼剣〟――鬼頭蒼絃の強さだった。


蒼絃は床に置いていた竹刀袋を拾い上げると、倒れている四人の不良(ザコ)には一瞥もくれることなく階段へ向かう。

 倒した人数を考えると、上からおりてこない限りはこの一階に獲物はいない。

 だから、次の獲物を求めて上の階に上がる。

 実に単純(シンプル)で、実に傲慢な行動方針だった。


「問題は、どこかで折節クンとかち合う恐れがあることだけど……彼の性格なら、こちらから仕掛けない限りは無理な抗戦(ケンカ)は避けるはず」


 考えをそのまま口にしながら、階段を上がっていく。

 その足取りは、誰が相手だろうと絶対に負けないという自信を表すように、どこまでも揺るぎなかった。



 ◇ ◇ ◇



 弟の蒼絃が二階に上がろうとしていた頃、姉の朱久里(あぐり)はようやく一通りの連絡を終え、廃病院本棟と別棟の間にある中庭のベンチで人心地ついていた。


(あね)さん、こいつをどうぞ」

「あぁ、悪いね」


 缶コーヒーを買ってきてくれた下っ端不良を労いながら、缶を受け取る。

 下っ端が一礼して去っていくのを見送ってから蓋を開け、缶の中のコーヒーを一息に三分の一ほど飲み干した。


「おーおー、やってるねぇ」


 本棟各階の窓から見える、一年生たちのケンカを眺めながら、朱久里は楽しげに笑う。


 朱久里自身、必要とあらばやるというだけで好んでケンカをするタイプではないが、一途に自分が最強だと(うそぶ)き、自分よりも強い奴に立ち向かっていく連中を見ていると、なんとも痛快な気分になってくる。

 ケンカというものはこうあるべきだと、殴られる覚悟のある奴同士でやり合うのが一番だと思えてくる。

 そういう連中の中に自慢の弟が混じっていることが、誇らしくもあり、心配の種でもあった。


「無傷で勝ち抜けなんて無茶を言うつもりはないけど……大怪我だけはするんじゃないよ、蒼絃」


 派閥の(トップ)としてではなく、一人の姉として心配していると、先程まで大人しくしていたスマホがにわかに騒がしくなる。


 着信音と振動の両方で自己主張するスマホの画面には、廃病院最寄りのバス停を見張らせていた派閥メンバーの名前が記されていた。

 それだけでおおよそのことを察した朱久里は、缶コーヒーを一口(あお)ってから電話に出る。


『あ、姐さん! 大変です!』

「来たんだね? 小日向のお嬢ちゃんたちが」

『さ、さすが姐さん! そのとおりです!』

「で、誰が来てるんだい?」

『〝女帝〟と月池と氷山に加えてもう一人、一般生徒(パンピー)っぽい女子が混じってます!』


 後半の言葉を聞いて、朱久里は得心する。

 弱きを助け強きを挫く夏凛には、一般生徒(パンピー)の顔見知りも少なくない。

 その顔見知りの一人に、廃病院に一年生不良が集まっているところを見られたか、あるいは史季が廃病院に入っていくところを見られたといったところだろう。


「アンタはそのまま見張りを続けて、何かあったらまたアタシに連絡しな。小日向のお嬢ちゃんにはもうとっくのバレてるだろうから、間違っても近づきすぎるんじゃないよ」

『はい!』


 通話が切れると、朱久里はすぐさま幹部の一人に電話する。


「小日向のお嬢ちゃんが現れた。決定戦の進行に携わっている奴以外の全てのメンバーを今すぐ集めて、廃病院の入口に集合させといてくれ」


 言いながら、廃病院本棟二階の窓際で、一年生不良を右ストレート一発で沈める蒼絃を横目で見やる。


「盛り上がってきてるってのに、お嬢ちゃんたちに邪魔されちゃ(たま)らないからね。精々、熱烈に歓迎してやろうじゃないか」

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